子猫、先輩犬と暮らす
突然すぎるが、友人から子猫をもらい受けた。
一度は断ったのだが、貰い手が居ないと泣きつかれたのだ。
貰った子猫は雑種だが、アメリカンショートヘアーの血が入っているらしい。
クリクリの目が私を見つめてくる。
「……まずは名前を決めるか……」
毛布にくるんで抱っこしつつ、自宅のマンションへと帰宅。
すると一匹の真っ白なマルチーズが玄関へと駆けてきた!
「ただいま、コナツ。今日は君に弟を紹介しよう」
いいながら靴を脱いでリビングに行き、ソファーの上に座ると当然のように私の膝へと飛び乗ってくるコナツ。慌てるでない、と落ち着かせつつ毛布の中から子猫を開放した。
「うふふのふ……どうだ、コナツ……可愛いだろう」
コナツはフンフン子猫の匂いを嗅ぎつつ、興味深々に観察。
一方子猫は少し怯え気味に、私のセーターへと必死にしがみついてくる。
あぁ、なんて可愛いんだ……勿論コナツも可愛いが、子猫も可愛い……やべぇ、ヨダレ垂れそう。
「さて、親睦も兼ねてご飯にしようでは無いか。コナツ、虐めちゃダメだぞ」
絨毯の上に毛布を敷き、子猫を鎮座させる。
コナツは相も変わらず興味深々に子猫の匂いをフンフン嗅ぎながら、時折顔をペロリ、と舐めている。
そんな子猫と犬をいつまでも眺めていたい誘惑に打ち勝ちつつ、台所に行きご飯の準備。
「さて……子猫用のミルクは人肌に……コナツはいつものドックフードを……」
「ミィー……」
その時、子猫がか細い声で鳴いた!
なんだ今の! 子猫の声か?! なんか凄いかわゆい!
台所から子猫とコナツの様子を伺うと、なんとコナツは子猫を押し倒し、ペロペロと全身くまなく舐めまくっている! これが人間だったら大犯罪だが、動物達の間ではスキンシップだ……たぶん。
「コナツー、程々にー」
「クゥン……」
コナツはとても頭がいいマルチーズだ。
私の言葉を理解しているかはともかく、子猫を執拗に舐めるのを止めてくれる。
すると子猫はトテトテと私の方に歩み寄ってきた!
ふぁぁ! なんだね! どうしたね!
「ミィー……」
はいはい、あまえんぼうめ! おいでおいで!
するとコナツが先に私へと駆け寄って来る。
そのまま私の手をガブリと甘噛み。
「……コナツ、ヤキモチ……?」
「フン……ッ」
いや、フンじゃなくて……こやつ、自分よりも年下の子猫ちゃんに嫉妬するとは。
まあ気持ちは分からんでもないが……まあ仕方あるまい。
「よっこらせ……」
おっさんのような掛け声と共に立ち上がり、子猫とコナツを同時に抱っこ。
両手に花とはこのことか……やべぇ、本格的にヨダレが垂れる。
「はっ、しまった! これではご飯の準備が出来ぬ。コナツさん……降りて……」
プイ……と顔を反らすマルチーズ。
コイツ……本当に頭いいな。
しかしどうしよう、このままではご飯の支度が……
その時、来客を知らせるインターホンが響き渡る。
むむ、誰じゃ? と壁に掛けられたタブレットを、コナツを抱っこしながらプルプルと震える指先で操作。
画面に映ったのは私の妹だった。
何やら両手に紙袋を抱えている。
『お姉ちゃーん、開けてー、今両手塞がってて……』
「奇遇だな、妹よ。私も今両手が塞がっている。っていうかどうやってインターホン押したんだ」
『オデコで……』
なんて奴だ。そこまでするくらいなら紙袋を一旦下に置けよ。
『ハッ! その手が! 頭いいね、お姉ちゃん』
それほどでもないぞ、マジで。
★
そんなこんなでマンションの一室に上がりこんで来る我が妹。
現在二十三歳、OL。
「ちょっと冬物買いあさってて……あれ? 猫なんか飼ってたっけ?」
そんな妹は今コナツを抱っこしている。
コナツも妹の事は自分の座布団のように思っていて、とても懐いている。
「友人から貰い受けたんだ。ちょっと面倒見ててくれる? 私ご飯作ってくるから」
「ぁ、私もご飯欲しいでござる、姉上」
マジか。私は三匹分の飯を用意せねばならんのか。
というか私も腹減ったな……簡単にチャーハンでも作るか……。
フライパンに油を敷き、適当に冷蔵庫から出した具を投入。
カレーなら作れると豪語する作者を考慮し、この後の工程は割愛する。
さて、人間の食い物はこれでいいとして……子猫用のミルクを人肌にまで温め小さな器へと注ぎ、コナツ用のドックフードも用意。
「できたぞー。コナツー、子猫ー、妹ー」
「なにその呼び方……」
仕方ないだろう。名前も設定せずに短編書いてる作者をディスってくれ。
「はい、コナツ」
「犬の名前は考えてるのに……そういえば子猫の名前は?」
んー……どうしようかな……コナツは正直、飼いだしたのが夏だったからな。
その法則で行くと……
「コ……コ……コユキ?」
「コフユじゃないんだ……まあ、いいんじゃない? ちょっと安易すぎると思うけども」
にゃんだと。じゃあ妹よ、お前が決めてもいいんだぞ。
「んー……にゃんにゃん……にゃん子……にゃん男……」
帰れ!
「しょ、しょうがないじゃん! ネーミングセンス無いんだから! 作者並に!」
むむぅ、まあ名前はおいおい決めるとして……
お、コユキたんミルク舐めてる……可愛いでござる。
「コユキで決定なんだ……ぁ、ホントだ、可愛い~ って、コナツちゃんもコユキちゃんのミルク舐めてるけど……」
コラ! コナツのご飯はこっち!
クゥン……となんか寂しそうな顔をするコナツ。
むむ、どうしたんだね。もしかして……
「一緒のお皿で食べたいとか? ぁー、ごめんねー、空気読まない姉で……」
「うっさい。一緒の皿でって……そんな器持ってないし……」
今度買って来ようかしら。
そのまま大人しく自分のご飯を食べだすコナツ。
すると今度はコユキがコナツのドックフードに興味深々に!
ダメだ! 君にはまだドックフードは早い!
「早い遅いの問題じゃないと思うけど……」
【注意:猫にドックフードを与えるのは得に問題はありませんが、継続して与えると猫に必要な栄養が取れませぬ】
「でも……なんか癒されるね……犬と猫が種族の壁を越えて……」
何をしみじみと言っとるんだね、妹。
ほら、お前のエサはチャーハンだ。
「いだたきやす、姉上」
そのまま皿を抱えて食べだす妹。
コナツとコユキを眺めながら、私達も床に座ったままチャーハンを食す。
なんかほのぼのとするな……。
「ところで姉上。この短編のオチは?」
「そんな物は無い。犬猫動画見て触発された作者が書いてるだけなんだから」
その後も、コナツはコユキの、コユキはコナツのご飯に興味深々になりつつ、なんとか完食。
「……コユキちゃんがコナツちゃんのお腹ソファーで寝だした……いいないいな、私もモフモフなコナツちゃんのソファーで寝たいなー……」
「お前はコナツの座布団だろ」
完