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side braver7 (前編)

勇者サイドのお話。

今回はちょい短め。


 厄獣大量発生の報を受けた僕らは、急ぎ手配された馬車に乗って王都へと向かった。幸いに、その時に受けていた組合からの依頼は終わっていたので後腐れはなかった。


 逆に不幸だったのが、知らせそのものは、組合の保有する通信の魔法具経由で知る事ができたが、僕らが訪れていた町はどれだけ馬車で急いでも丸一日は掛かる距離だという事。


「大丈夫かな……王都は」


 ガタガタと揺れる馬車の中で、僕はふと呟いてしまった。知らせを受けてから急ぎで準備をする事に専念できたが、こうして馬車に乗ってしまうとあとはする事が無い。大きく躰を動かせない事で逆に考えに集中してしまい、不安がこみ上げてくる。


「……大丈夫です。王都には常に自衛のための兵が駐在していますし、宮廷魔法師団もあります。早々に遅れをとる事は無いでしょう」


 マユリが言うがその表情は硬い。あるいは己に言い聞かせる為のものであったかも知れないが、事実でもあった。


「兵や魔法師団だけじゃねぇさ」


 緊張した様子のマユリとは違い、ガーベルトは普段と変わらない。


「聞いた話じゃ出現した厄獣の規模は相当なもんだ。これだけの事態となりゃ王都に大きな支部を持ってる傭兵組合だって対岸の火事じゃねぇさ。それに、王国側だって組合に依頼を出す」

「確か、緊急時には組合から傭兵へと強制的に依頼へ参加させる権利があるんでしたか?」

「ああ、その通りだ」


 思い出したようなシオンの言葉に、ガーベルトが頷いた。


「二級以上の傭兵は、昇格の時に制約させられる。そいつを反故にすると何かしらのペナルティがある。ひどい時は降格か除名処分だな。まぁ、二級にまで昇ってくるやつらは、どこかしらぶっ飛んでる奴らが多いからな。今頃嬉々として厄獣の相手をしてんじゃねぇか?」


 ガーベルトの話は頼もしいと思える一方で、なんだか妙に不安になる内容であった。


「シオンさん。このような場合、教会としてはどう動くんですか?」


 マユリが訊ねると、僧侶であるシオンは顎に手を当てた。


「そうですね。基本は傭兵組合と同じように、重い腰をあげるでしょう。何よりも勇者であるレリクスさんが動いている以上はね。戦闘には参加しないとは思いますが、野戦病院でも作ると思いますよ。人命救済の面目がありますし」

「ちょっと嫌な言い方ですね」


 可愛らしい眉間にしわを寄せるマユリに、シオンは肩をすくめた。


「教会にも色々と面子がありますから。表向きには治外法権を謳っていますが、今のご時世だとそうもいきません。それに案外裏側はドロドロしてますから」


 自分が所属している組織である筈なのに、シオンさんはまるで他人事のように語った。


 彼は故郷の村にいた神父さんや、王都であった事のある教会関係者とは少し雰囲気が違う。職務に対しては真面目なのだろうけど、己の職に関する認識が他の人と異なっているように感じられる。


『体力こそこの仲間パーティーの中で劣っていますが、戦場に立つ僧侶としての能力はかなりのものです。そんな彼が窓際にいたのはおそらく、彼自身のそんなところが原因だと推測されます』


 レイヴァの言葉に、シオンさんには失礼だと思いつつもどこか納得してしまった。


 ともかく、王都に必要十分な戦力が残っているのは朗報だ。


 ──それからおおよそ一日が経過し、あと少しというところまで王都にまでたどり着いた。


「勇者様! 見えてきました!!」


 馬車を操っている御者が声を張り上げた。いつでも動けるように各々で準備を進めていた僕らは顔を上げる。荷台から顔を出して目を凝らせば、数え切れないほどの厄獣と

それに対抗する人間──王国軍や傭兵たち──の姿を遠目に確認できた。


「もう少し近づいたら降ります。そしたらあなたは安全な場所まで退避してください」

「分かりました。……ご武運を」

「あなたもお気をつけて」


 そして僕らは馬車から降りると、互いにうなずき合い戦いの場へと向かった。




 情報の通り、多種多様な厄獣がひしめき合っていた。犬頭人コボルトやゴブリンを始めとする人型。昆虫の形をした厄獣や獣型の厄獣と、本当に統一感が無い。厄獣暴走スタンピートの時とは違って、本当にまとまりが無い。


 だがそれは逆に、統一感も無いということ。リーダーと思わしい個体もほとんど存在せず、とにかく寄せ集めといった風なのだ。


『いわば雑魚の寄せ集め。見た限り、先日に倒した鋼鉄蟷螂スティール・マンティスのような強い厄獣はほとんど見当たりません。個体として強力な厄獣にさえ気を配れば、マスターだけでも十分に対処可能です』


 レイヴァの言う通りだ。それに何より、今の僕には頼りになる仲間がいる。


 マユリが攻撃範囲の広い魔法で先制し、そこにすかさず僕とガーベルトが切り込んで崩す。シオンは状況を俯瞰した位置で観察し、状況に応じて支援魔法で援護してくれる。


 僕らは厄獣の群れを崩しながら突き進み、やがて前線で王国軍を預かっている隊長らしき人物の元へとたどり着いた。


勇者サイド後編の後にもう一話別視点のお話を挿入予定。

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