第六十五話 蛮族装備のようですが
そういえば、第七回ネット小説大賞に応募しました。
みなさん、応援してくれると嬉しい。
「うぉらぁぁぁぁぁっ!!」
ゴブリン達が奇声を発しながら群がってくる中を、俺はそれ以上の気勢を発しながら槍で薙ぎ払う。鋭い切れ味を持った穂先がゴブリン数体の胴体を掻っ捌き、血と内臓を撒き散らしながら息絶える。
初めてゴブリンを殺した時見た目がかすかに人に近いことで僅かながらに忌避感を抱いていたものだが、そんなことを考えている余裕はもはやない。
獣型の厄獣と違い、ゴブリンには多少の知性がある。それだけに、殺気の向かう先が明確だ。ゴブリン達の殺気が、次々と同胞を殺している俺へと集まっていく。
好都合といえば好都合だが、嬉しさは全くない。
──ズシュッ!
「やばっ」
他のことを考えていたのが悪かったか。
縦に並んで突っ込んできたゴブリンを、複数まとめて槍で貫いた。威力を上げるため、黒槍には若干の重量増加を使っており、鋭さに重さが増した槍はなんら抵抗もなくゴブリンを串刺しにする。
だが、穂先はどれほどに鋭くとも柄の部分は単なる『持ち手』だ。ゴブリンの肉体がつっかえとなり、槍が抜けなくなってしまった。
俺は急いで槍をゴブリンの死体から引き抜こうとするが、それよりも早くゴブリンが錆びた剣を振りかざして襲ってきた。
『相棒っ、腰の使え!』
言われるよりも早くに、俺はそいつに手を伸ばしていた。
槍が使えないかと思ったのか、ゴブリンは剣を大きく振りかぶっていた。
俺はその腕の半ばを、腰の鞘から引き抜いた『大鉈』で叩き斬る。
腕を切断されて悲鳴をあげるゴブリンの脳天を、もう一度振るった大鉈で叩き割った。
頭の内容物が飛び散り、ものすごく気持ち悪い。
『相棒、ぼさっとしてんじゃねぇ! まだまだ来るぞ!!』
グラムの叱咤に小さく萎えた気力を持ち直すと腰の鞘に大鉈を戻し、串刺しになったゴブリンの死体に足を引っ掛けて強引に槍を引き抜いた。
狭い空間で使うために仕入れた大鉈だが、今のように槍が一時使えなくなった時の予備としても、十分すぎるくらいに効果を発揮してくれるようだ。分厚く大きいので力任せに使っても問題ない程度には頑丈だ。これはいい買い物をした。
『なんだか蛮族みたいな装備になってる気もしないでもないけど!』
それを言うなよ。俺もちょっとだけ自覚あるんだから。
武器など、頑丈で切れ味が鋭く使いやすければそれでいいのだ。見た目とか評判とか単なる副産物でしかない。山賊や蛮族に近い考え方だろう。
『俺は相棒の考え方は好きだけどな』
はいはいどうも、ありがとさん。
そうこうしているうちにもゴブリンは後から後から湧いて出てくる。体力にはまだ余裕はあるが、気が滅入ってくる。
ふと、ミカゲの方に視線を向けるが。
「──────…………」
力任せの勢い任せな俺とは違い、ミカゲは流れるような動きでゴブリン達をカタナで切り裂いていく。ゴブリンという川の流れに逆らうでもなくだが巻き込まれることもなく悠々と進む船のようだ。
『あっちの方は心配しなくてもいいだろうよ。相棒は目の前のことに集中しな』
もし万が一、ミカゲに何かがあればグラムが警告してくれるはずだ。俺は言われた通り、絶えず迫ってくるゴブリン達を迎え撃つ。
しかし、犬頭人のときといいゴブリンの巣といい、俺はなんだか大量発生した厄獣の対処に縁があるようなきがする。いや、前の時はともかく今回のは自分から巻き込まれたのだけれども。
──それから、どれほどの数を相手にし続けただろうか。
時間の感覚が曖昧になるような錯覚を覚えつつも、槍と鉈を振るい続ける。
「つーか、どんだけいるんだよ!?」
俺は堪らず悲鳴をあげた。ペースが明らかに厄獣暴走で犬頭人を倒していた時よりも上だ。以前の俺なら既に息も絶え絶えだろうが、今はまだ余裕がある。
それでも、楽観視できない程度には消耗もしていた。
『ミカゲの方も、体力温存の戦い方に切り替えてる』
最初は果敢に攻めていたミカゲだったが、今はどちらかというと迎撃の戦法だ。近くゴブリンを切り捨てるのは変わらずだが、自分から集団の中に突っ込むようなことはなくなっていた。
『相棒、良い知らせともっと良い知らせがある』
不吉な予感満載な言い回しだなおい。
「……とりあえず良い知らせから」
『まず、ゴブリンの数が減ってきた。付近に散ってたゴブリン達はもう全員ここに集まったんだろ』
ゴブリンを倒す事ばかりに意識が向いていたが、落ち着いて辺りを見渡すと気が付いた。あれほど密集していたゴブリンたちが目減りしている。
ってことは、目の前にいる奴らを全員倒せば終わりってことか。明確な終わりが見えてくると、気力が湧いてくるってもんだ。
「で、もっと良い知らせは?」
『ゴブリンを統率してる『ボス』が近づいてきてる』
……………………………………。
「いや、良い知らせじゃなくねぇかな!?」
強敵襲来ってことだろ! どちらか──いや考えるまでもなく悪い知らせだろ!!
『ボスさえ倒せりゃあとに残るのは烏合の衆だ。今の状況のままで全滅させるよりは遥かに楽になる』
「たしかにその通りかもしれないけども!!」
つかなんだよ『ボス』って!
『あの厄獣暴走と似たようなもんだ。同種とはいえ、これだけの規模の厄獣が一箇所に集まるなんぞ普通はありえねぇよ。この手の場合は決まってその群れを統率する『ボス』がいるのさ』
つまり、犬頭人を統率していたコボルトキングがいたように、このゴブリンの大集団にもゴブリンキングみたいなものがいるということか?
『安直な名付け方だなおい』
「センスがなくて悪かったな」
それで、ボスってのは具体的になんなんだよ。
俺がグラムに問いかけるよりも先に、ミカゲが叫び声をあげた。
「ユキナ様! あれを!!」
ゴブリンを切り捨てながら駆け寄ってくるミカゲが、警戒を強くして集団の奥を見据える。
ミカゲに倣ってそちらに目を向ければ、ゴブリンよりもひと回り以上──人間よりもさらに巨大な姿がこちらに近づいてきているのが見えた。




