第五十八話 物凄く引き摺っているようですが
お久しぶりです!
ようやく仕事や私事が落ち着いてきたので、そろそろ更新のペースを元に戻していく予定です。
とはいえ、恋愛パートは相変わらず難しい。
「相棒よぅ。一体どこであんな可愛い子ちゃんと知り合ったんだ? 俺ぁ見覚えないから、爺さんの店に来る前だよな」
「王都に来た当日に色々あったんだよ」
店の外でお嬢さんを待っている間、暇を持て余した俺はグラムを話し相手に時間を潰していた。こういう時はグラムの存在はありがたい。時間を黙って過ごさずに済むからだ。
「──なるほどねぇ。まさに絵に描いたような恋愛物語だ。今聞いた話だけで本が一冊くらいは書けちまいそうだ」
「そりゃいい。老後の過ごし方としちゃ悪くない」
四六時中一緒にいるグラムに隠しておく必要も感じられず、俺はお嬢さんとの出会いを語った。
「ぶっちゃけどこのどなたなんだ、あのお嬢ちゃん?」
「良い所のご令嬢なのは知ってるよ」
「いやだから、どこのご令嬢だよ」
「知らんよ。前は名前も聞かずに別れたからな」
「はぁっ!? 相棒が名前を聞かずに別れたのか!? あんなおっぱいが大きい超絶美少女ちゃんと!?」
「どいつもこいつも人を女ったらしみたいに言うなよ」
もう二度と会わないことを前提にあの日を過ごしたのだ。名前を聞いたら別れが惜しくなって辛くなるとわかっていた。だから何も聞かなかったのだ。
「女ったらしでない奴は恋人を二人も作りませんよ~~」
耳が痛いので両手で塞ぐ。
『女ったらしでない奴は恋人を二人も作りませんよ~~』
念話で同じことを囁くな。耳をふさいでも頭の中に直接響くので防ぎようがない。
「ったく、知ったところでどうしようもねぇだろ」
「でも未練タラタラじゃんよ。完全に惜しんでんじゃん」
「……………………」
ズバリと指摘されて俺は口を噤んでしまった。
「相棒が後生大事に首から下げてるあの指輪、彼女からもらったんだろ」
俺は額に手を当てた。グラムに語った内容に、指輪と首飾りの交換は含んでいなかったはずだ。
「何でわかったか言ってやろうか?」
「……どうぞ」
「サイズからして明らかに女物。で、そいつを見つめる時の相棒の顔がすごい女々しいのなんのって。で、あとはカマかけてみた」
今度は顔を手で塞ぎしゃがんでしまう。家族や友人に恥部を晒してしまった気分だ。穴があったら入ってしまいたい。
「ちょいとらしくねぇと思うんだけどなぁ」
「何がらしくねぇんだよ」
「惚れた女を手に入れるためなら、玉砕覚悟で突っ込んでいくのが俺の知ってる相棒だ。違うか?」
グラムの言葉を聞いて、俺は顔を塞いでいた手をどけた。 「……あの時の俺は上京したばかりの田舎平民。あちらは貴族のご令嬢。身分の差がありすぎるだろ」
貴族とはあまり接点がなかった俺であるが、それでも平民と貴族の間に大きな隔たりがあるのは理解できていた。身分違いの男女が熱烈な恋愛を交わし結ばれるなんて、それこそどこにでもあるような典型的な恋愛物語だ。
典型的な話が好まれる理由は多くある。
その内の一つはおそらく、多くのものが『叶わない夢を物語の中に望んでいる』からだと思う。
「キュネイは金さえあれば手が届いた。ミカゲは……まぁ元からその気があったわけじゃねぇが、少なくとも傭兵って繋がりはあったし、身分の差もなかった」
ほんの僅かな可能性があるのならば、俺もそれに全額を投じていたかもしれない。だが、その可能性すら皆無であるのならば──。
「……少なくとも、あのお嬢さんと出会った時点では可能性はなかったと」
「そういうわけだ」
膝に手をついて立ち上がる。先ほどの羞恥からある程度立ち直った。今さら恥ずかしがるような間柄ではないし、グラムと話していて少しだけ心に余裕ができてきた。
「で、このあとはどうすんだ? 口説くのか?」
「へし折るぞクソ槍」
こいつは人の話を聞いていたのだろうか。
──それから時間を待たずに、外套を被ったお嬢さんが店から出てきた。
「お待たせしました」
「用事は済んだのか?」
「今日は注文だけで、完成品を後日に届けてもらうことになりました」
「じゃ、行くか」
お嬢さんに向けて、俺は手を差し出した。
「そろそろ人通りも多くなってくる時間だしな。人混みに紛れて逸れたら大変だ」
お嬢さんは微笑みを浮かべるとやんわりと俺の手を握り返してきた。彼女の肌が触れた場所が、まるでそれまで凍えていた躰が温もりに包まれたように感じられた。
「ではお嬢様、エスコートさせていただきますよ」
「ええ、お願いしますね」
陳腐でありながらも精一杯気取った台詞。そんな俺の言葉をお嬢さんは快く頷いてくれた。
『……え、なにこれ。本当に付き合ってないのこの二人。初々しすぎる恋人同士そのものじゃん』
──グラムの声は俺には届いていなかった。
活動報告にもすでに載せていますが、
ナカノムラはコミックマーケット95に出店します。
サークル名は『ナカノ村の里』
ナカノムラが文章を書き、絵をナカノムラ姉が担当します。
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では以上、ナカノムラでした。




