side fencer3
腰痛と高熱のダブルアタックでダウンしており、完全に更新が止まっていました。申し訳有りません。
今は完治しておりますのでご安心を。
今回はミカゲ視点のお話。
王都を出発し、小さな宿場で一泊を経た二日目の朝頃に、私は第一の目的地である町に到着した。今日からしばしの間はこの町の傭兵組合を拠点に活動することになる。
二級以上の傭兵は、常にどこの支部にも在籍しているわけではない。というのも、二級傭兵が必要になってくる依頼そのものが三級までの依頼と比べて圧倒的に少なくなる。二級傭兵が必要なほどの難易度の依頼とそれに対する支払い能力を有する依頼主いうのは、そう多くないからだ。
その為、二級の依頼はそれを受けた地点とその周囲の支部で共有される。
特に王都の周辺には徒歩三日以内の圏内に多くの村や町が点在している。そしてそれらの支部の依頼がすべて王都の支部に共有されるのだ。
依頼の情報は特別な魔法具を通じて各支部で連絡をしあっている。王都で依頼の受注が処理された時点で、他の支部からその依頼は消滅する。最も、依頼が失敗すれば再発行される流れだ。
そんなわけで、私が受けた二級依頼というのは、元はこの町で発行されたものなのだ。
三級と二級の間には大きな壁が存在しており、それを超えられるのは三級の中でも極わずか。順当に階級を上げていった期待の新人が二級に昇格できずに三級に留まり続けるというのはよくある話だ。
ゆえに、三級傭兵の数に比べて二級傭兵は圧倒的に不足している。こうして遠出し別の支部を拠点にするということも珍しくはないのだ。
町に入ったらまず最初に宿屋の確保。それから傭兵組合にで情報収集。今日は下準備に活動を止め、依頼の消化を行うのは明日からだ。
予定通りに宿屋を取り、荷物を置いて身軽になってから傭兵組合に向かうが、その最中に町の雰囲気が妙に浮ついているように感じられた。
「……祭りでも近いのでしょうか」
通りを見渡してみるが、規模や出ている露店の数に差はあれど王都でも見たような光景。特別な催しの準備をしているようには見えなかった。
首をかしげながら傭兵組合へと赴くと、それまで感じていた違和感が最高潮に達した。
組合の前には、多くの人々が集まっていた。身なりからして傭兵ではなく一般市民だ。
王都が近いだけありこの町の人口は多い。それだけ傭兵組合への依頼も増える。日々の糧を得る為、依頼を求める傭兵の数も多くなる。傭兵組合が賑わいを見せるのは町が活気に満ちている証拠。
だからと言って、目の前の光景はいささか以上に異様であった。
「どうしたものですか」
市民らは組合の中に入るようなそぶりは見せず、人垣の間を縫って傭兵が中に入るのを苦心するほど。その中に飛び込んでいくのは躊躇われる。
町に漂う妙な賑わいの根源が傭兵組合にあるのか。
「……仕方がありません。出直しましょう」
一刻も早くユキナ様の所へ戻りたいという気持ちはあれど、焦りは禁物。
二級の依頼ともなれば一瞬の気の緩みで命を落としかねない危険を孕んでいる。それなりの期間を要することは最初から覚悟していた。
町に着いた当日に無理して傭兵ギルドへと赴く必要はない。今日一日はゆったりと過ごし、町の名産でも味わって英気を養うのも悪くはない。
一番英気を養えるのは、ユキナ様に『お相手』してもらうことだが──いや、私は何を考えているのだろう。心身ともに充実しすぎて、色々と調子に乗っている感がある。
しばらくの間はユキナ様と会えないのだから、気持ちを切り替えなければ。あるいはここで我慢すれば帰った時に存分にユキナ様に──。
「おっほん!」
我ながらはしたない。ふやけた思考を誤魔化すようにわざとらしいせきばらい。周囲の人間がびくりと肩を震わせるが、気にしてもいられない。
とりあえず一旦は宿に戻り、宿の店主にこの町オススメ料理でも聞き出そう。
そう思って踵を返した矢先だ。
組合の前に集まっていた人々の様子が変わる。拡散していた意識が一箇所へと集中したのだ。
組合の正面玄関。そこを中心に、まるで道が生まれるかのように人垣が割れた。一種のパレードか何かと勘違いしてしまいそうだ。
「あれは──」
見通しが良くなった組合の玄関口から、異彩な雰囲気を放つ四人組が姿を現した。
勇者レリクスと、魔法使いマリエ。それに見覚えのある傭兵と、初めて見る僧侶風の青年。
驚きつつも納得した。
勇者が王都周辺の村や町に、修行のために遠征している話は耳にしていたが、その次の遠征先が奇しくもこの町だったようだ。
来る魔王復活に対する希望。人当たりの良さに整った顔たち。響き始めている武勇。どれもが民衆にとっては注目に値する要素。身近に訪れているともなれば活気づくのも頷ける。
さて、どうするか。
動き出すのは明日からと決めた直後に、勇者が傭兵組合から出てきてしまった。勇者がこのまま去ればこの集まりも解散してしまうだろう。そうなるともう阻むものはない。
行こうと思えば行けるが、気持ち的にはもう乗り気ではなくなってしまった。
視線を勇者たちに向けたまま、顎に手を当てて考える。と、不意に勇者と視線が合ったような気がした。
いや、気がしたというのは語弊があった。
勇者は少しだけ驚いたように目を見開くと、こちらに向けて歩き出した。私の付近にいた市民たちが色めき立つが、私は逆に『やってしまった』という気持ちが僅かにあった。
他の仲間たちも私の存在に気がついたようだ。
特に傭兵の男はニヤリと笑みを浮かべた。その顔を見て、私は尚更にため息を付きたくなってしまう。傭兵としては尊敬すべき人物ではあるのだが、若干苦手意識があるのだ。
それはともかく、こうなってしまった以上、早々に立ち去るわけにもいかなくなってしまった。
──ユキナ様。どうやら、単に依頼を消化するだけでは済まなくなりそうな予感です。
この場にいない主君に対して、私はぽつりと心の中でつぶやいたのであった。
次回はユキナ視点。
多分あと一回か二回はミカゲ視点が途中で入り込む予定です。
活動報告にも記しましたが『note』なるクリエイター向けブログを始めました。
ぶっちゃけ、小説とか関係なしに好き勝手に語ってます。
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