side braver6 (前編)
王都での訓練も大詰め。旅立ちの日が徐々に近づいてきていた。
『仲間』の方も、傭兵組合からはミカゲさんの代わりに一級冒険者の剣士を紹介された。
長年傭兵として活躍してきた大ベテランで、若い頃はそれこそ危険な依頼をいくつもこなしてきた腕利きだという。最近では後続の育成に向きを変えているようで、指導者としても申し分ない。アイナ様の考えていた要望にピタリとはまる。
気さくな人で、顔を合わせてすぐに打ち解けることができた。もっともそれは彼の経験があるからというのもあるだろうが、一緒に旅をするなら相性がいいことに越したことはない。
あと最低限必要なのは、魔法使いと回復要員。
そのうち、魔法使いには二人ほど候補が上がっていた。
一人は王族であるアイナ様。アイナ様が聖剣を手に入れるために同行したのは、王族の血筋が必要だったのもあるが彼女自身の実力を測るためだったのだ。
詳しく聞けば、アイナ様の魔法使いとしての才能は優れており、今はまだ未熟な部分はあれど将来的には偉大な魔法使いとして歴史に名を残すかもしれないとさえ言われている。
そしてもう一人は、王城に勤める魔法使い。若くして宮廷魔法使いの称号を得るほどの天才。こちらも、アイナ様と甲乙つけがたい魔法の才を秘めているとか。
彼女と初めて顔を合わせた時は驚いた。若いとは聞いていたがなんと僕と同世代の少女だった。
魔法使いとしての礼装か、大柄なロープにとんがり帽子といった出で立ちで、年相応の容姿だ。
いや、アイナ様と比べるのは失礼だな、うん。女性の特定部位を比較するのは駄目だ。
「初めまして勇者様!! よろしくお願いしますね!」
初対面の時には明るく元気の良い挨拶。近くにいるとこちらまで元気が出てくるような子だった。
僕も人のことは言えないがこんな少女が魔王討伐の旅に同行しても大丈夫かと心配するも、宮廷魔法使いとして既に幾度となく凶悪な厄獣討伐にも貢献しており、実戦経験も下手な傭兵よりもずっと豊富らしい。
どちらが旅についてくるかは正確には決まっていない。けれども、恐らくは宮廷魔法使いの方になると告げられていた。アイナ様はこの国の王族であるし、当然といえば当然だ。アイナ様はあくまでも万が一の場合の『候補』であった。
話を戻すが。残るは回復要員。
厳密に言えば、いれば心強い要員はほかにもまだあるのだが、魔王討伐の旅は想像を絶する困難が予想される。想定される危険の水準を考えて、実力的に考えると王都で揃えられるのは現状ではこれが限度。
ただ、回復要員の有無は仲間の生存率に直結するので絶対に必要。これだけは確実だった。
だが、その回復要員の確保が一番難航していた。
回復魔法の使い手というのは、軒並みに勇者を信奉する『教会』。当初はその中から適する人材がいると目論まれていた。
ところが、腕利きの回復魔法使いは軒並みに教会内部でも重要な地位にいるものばかりであり、旅に出た後に人的穴埋めが簡単にできるような人たちではなかった。
その上、そのほとんどが争いごととは無縁の生活を送ってきており、とても魔王討伐の旅に出られるような能力は持ち合わせていなかった。仲間の回復が役割とはいえ、旅に同行する以上はそれなりの自衛能力が必要になってくるからだ。
一応、今現在でも教会内では魔王討伐の任に就く人員を模索しているというが、進展はあまりないらしい。
よって、回復要員は自分たちの手で探す必要が出てきていた。
条件は三つ。
回復魔法使いとしての能力があること。
それなりに自由に動ける身分であること。
ある程度のの自衛能力があること。
『とても、この全てを満たすような人材が市井にいるとは思えませんね』
この条件を聞いた時に、レイヴァが呆れような声に僕は苦笑しながら内心に同意していた。
回復魔法というのは習得が難しく、才能を持ったものが幼い頃から師の元で訓練を続けることでようやく形になっていく。才能があると判明した時点で教会に預けられるような場合がほとんどで、一般人が独学で学べるような簡単なものではなかった。
全ての要望を満たさなくとも、多少の妥協は必要かもしれない。
そんなある日。回復要員の確保に頭を悩ませていた僕らの元に、一つの情報が寄せられていた。
住民を相手に医者を営んでいる腕利きの回復魔法使いがいるとか。情報の元は、その医者の存在が最近傭兵の間で噂が広がり始めたからだ。
現時点であてもなく、僕はその医者の元へと足を運んだ。もちろん僕一人ではない。以前はアイナ様が同行した人材確保の交渉だが、公務があるということで今回は宮廷魔法使いと同行することとなった。
「──で、ここが件の医者がいる診療所だね」
「はい、勇者様」
僕のつぶやきによく通る声で答えたのは、魔法使いの少女──マユリだ。
初対面の時と同じく、ゆったりローブととんがり帽子を身に付けた、スレンダーな体つきの女の子だ。格好こそまさに魔法使いだが、まさかこんな子が王都で有数の実力者とは誰も思わないだろう。
「会う約束もなくいきなりだけど迷惑じゃ無いかな」
「下調べをした限りでは、今の時間帯はこの診療所がもっとも空いている頃です。ダメでしたら日を改めましょう」
「そうだね。こちらが無理を言っている立場だし」
突然に勇者が来て『一緒に旅に出てください』ととんでもないことを頼むのだ。今日はとりあえず顔見せ程度で、後日に改めて話し合う形になればそれで良い。
それにしてもまさか、目的地がこの診療所だったとは。偶然にしてはできすぎているような気もする。
マユリと軽い打ち合わせをしてから、診療所の扉を叩いた。
程なくして扉越しに近づいてくる足跡が聞こえてきた。僕は一歩その場から引くと、扉が開かれるのを待つ。
「はぁい、どちら様でしょうか?」
姿を現したのは、ゾッとするほど綺麗な女性だ。アイナ様もマユリも女性としてはものすごく綺麗なのだが、そのどちらにも無い大人の色香を放っている。何より、衣服の胸元を大きく押し上げる二つの山に、失礼とは思いつつもついつい目がいってしまいそうになる。
「………………なんという、戦力差」
「…………あの、マユリ。どうしたの?」
白衣の女性の姿を見るなり、マユリは力尽きたかのように膝をつくと四つん這いになって項垂れていた。
そしてよろよろと顔を上げ、白衣の女性を──その胸元を目にし、己の胸元に目を落とす。
再び顔を伏せるとさめざめと泣いた。
「すいません勇者様。私ではどうあっても勝てません」
「何が!?」
「くそぅ、これがおっぱい格差とでもいうの!? 神様は不公平だぁ!!」
地面を握り拳で叩きながら慟哭するマユリに、白衣の女性は困ったように苦笑していた。




