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第四十八話 すでに奇跡のような状況なのですが──



「どうだグラム。新しい鞘の具合は」

「あー、なんかこう納まるべきところに納まったって感じだ。スゲェ落ち着く」


 俺が声をかけると、グラムは心地よさげな声色を発した。人間でいえば、ふかふかのベッドに身を埋めたような感じだろうか。


 ──ミカゲと別れた後、キュネイの診療所に帰る前に俺は武器屋の爺さんの元を訪れていた。


 目的は、グラムを持ち運ぶために使っている『携帯鞘』を受け取るため。事前に注文をしており、受け取りの日時が今日の夕暮れ時だったのだ。


 古ぼけた印象の強かった以前とは違い、今のグラムは朱と黒塗りの立派な槍だ。以前の携帯鞘では見た目が少々『ちぐはぐ』だった。それに、間に合わせで購入したというのもあって素材や作りも簡素で、はっきり言ってボロくなっていたのだ。


 四級に昇格し収入も上がったので、これを機にグラムを収める専用の鞘を拵えることにしたのだ。かくいう俺が今身につけている防具も、爺さんの店で揃えたものだ。


「あの爺さんはいい腕してるよなぁ。現代においちゃぁ相当の腕前だろうよ」


 機嫌がいいのか、調子良さげなグラムの言葉を聞いた俺はふと聞いた。


「そういえば、お前グラムを作ったのって誰なんだ?」


 グラムが武器である以上、必ず製作者が存在しているはず。まさか人間と同じで女性の股からポンと生まれたわけでもあるまい。


「…………さてな。随分昔のことだから忘れちまったよ」

「本当かよ」

「ホントホント。オレ、ウソツカナイ」

「清々しいほどの棒台詞をどうも」


 これまでの付き合いで、グラムがこうやってはぐらかす時は、どれだけ食い下がってもこちらが求めた答えが返ってこないのはわかっていた。必要があれば喋るが、必要がないと判断すればグラムは絶対に喋らない。


 気の置けない相棒だが、相変わらず謎が多い奴だ。


「ところで相棒、話は変わるがよ。ミカゲのことはどう思ってんだ?」

「唐突だなおい」

「そんなに唐突でもないだろ。今日も含めて、四級に昇格してから一緒に行動してるんだからな。で、どうなんだよ」

「それは仲間としてって意味か? それとも──」

「仲間としちゃぁ、聞くまでもねぇだろ」

「だよな」


 当初の厳格な印象とは打って変わって、心遣いもできて腕も立つ。背中を任せる仲間として、あれほど心強い相手もいない。


「相棒だって薄々は察してるだろ」

「そりゃぁ、まぁ……な」


 以前の俺であれば絶対に分からなかった。けれども、キュネイという恋人を得て、彼女と深く接しているうちに多少なりとも『女性』を理解できるようになった。


 だからこそ、ミカゲが時折に見せてくる物憂げな視線が何を意味するか、気づいてはいた。特に、昇格試験でのミカゲの態度。あれが、それまで漠然としか感じられなかったミカゲの想いに気づく切っ掛けとなった。


「俺の勘違いって線は?」

「数多の英雄を見守ってきた俺ちゃんが断言しよう。ありゃオチてるね・・・・・


 表現が下衆ゲスいが、第三者(物?)の視点から見てもそうなのであれば、間違いないか。


「俺としちゃ自然な流れだと思うぜ。いつの世も、絶体絶命の危機に颯爽と表れた王子様にお姫様が惚れるってのはよくあることさ」

「ミカゲが姫様ってのはいいとして、俺が王子様ってガラか?」

「例えだよ、例え。相棒みたいな王子がいたら世も末だわな。国が滅ぶ」

「へし折るぞこの野郎」

「やってみろこの野郎」


 少しの間、軽い言葉の応酬ジャブが繰り出された。


「それに、ミカゲは誰かに尽くしてこそ真価を発揮するタイプだと俺は見てる。いわゆるワンコ属性だな」

「なんだよ属性って。つか、あいつは狐だろう」


 グラムの例えがよく分からずに、俺は眉をひそめてしまう。


「武芸者にはよくいるタイプでな、仕える相手に身も心も捧げちまう。相手が異性であれば、それらが恋愛感情に発展するのは時間の問題だったさ」


 グラムの説得力ある言葉に、だが俺はすんなりと受け入れ難かった。


「……その様子だと、あんまり気乗りしてねぇか?」

「というよりかは、戸惑ってる」


 好きか嫌いかで言えば、ミカゲのことは俺も好ましく思っている。女性的にもすごく魅力的だ。


「キュネイが恋人になってくれた時点でもう奇跡としか言いようがねぇのにさ」


 そもそも、ミカゲが明確に俺を異性として捉えている前提の話だ。いくら長い時を経ているグラムの言葉とはいえ、それが正しいという証拠にはならない。


「相棒はもう少し己に自信を持った方がいいね。相棒は十分すぎるくらいに良い漢だと思うぜ。それこそ、キュネイちゃんが惚れるくらいにはな」

「そりゃどうも。というか、キュネイという恋人がいる時点でミカゲの想いに答えるわけにはいかねぇよ」

「そっかぁ? 英雄色を好むとはよく言うし、この国だって愛人を何人も囲んでる貴族とかもいるだろ」

「俺は平民だ。普通、平民は一夫一妻」


 田舎者の俺だって、貴族が世継ぎを作るために側室を迎え入れる慣習があるのは知っている。あるいは完全に女性の体目当てという場合もあるだろうが。


「それに……もしミカゲが恋人になったとしたら、キュネイだって良い思いはしないだろ」

「それは案外大丈夫だと俺は踏んでる」

「その根拠はなんだよ」

「黙秘権を行使する」

「急にハシゴ外すのはやめれ」


 またこいつは肝心なところではぐらかしやがる。


 と、言葉を交わしているうちに居候先しんりょうじょに到着していた。


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