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第三十九話 身も心も貴方に……

砂糖じゃ!

文章の甘さは話の甘さでごまかす所存!


注)確実にR-15の男女的なシーンが含まれています。大歓迎の人は最後まで読んでね!


 晩、俺はキュネイの診療所を訪れた。


 だが、最後の一歩が踏み出せず、扉の前で立ち往生する。


「ま、相棒が緊張するのも無理はないだろうさ」


 やれやれ、と肩を竦めそうな口調のグラムだ。


「けど、ここまで来たんだ。もう答えは出たんだろ?」

「……ああ」


 組合を出てから──いや、朝にキュネイから想いの丈を伝えられてからこの瞬間まで、ずっと考え続けていた。そして俺なりに答えは出たのだ。


「答えを出した後はもう迷うことはないさ。キュネイちゃんだって、相棒のことを待ってるだろうよ。いい女をいつまでも待たせるもんじゃねぇさ」


 ──グラムの後押しもあり、最後の踏ん切りは付いた。


「ありがとよ、グラム」

「礼は要らねぇよ。俺はちょいと背中を押しただけだ。後は相棒次第だ。上手くヤリな」

「…………ちょっと、最後の一言が変じゃなかったか?」

「気のせいだ。じゃ、頑張れよ。俺は朝まで貝の様に口を閉ざしてるから」

「お前……口ないだろ」


 俺がツッコミを入れるも、グラムからの返しは無かった。どうやら宣言通り、朝まで黙っているつもりのようだ。


 未だに躯を支配する緊張はあるが俺は小さく深呼吸をすると、診療所の扉を叩いた。


「……どちらさまですか?」

「ユキナだ」


 中からの言葉に、俺は緊張を抑え込みながら答えた。それだけで不思議と俺の胸が高鳴った。


 やがて、扉が無言で開かれた。中に入っても良いということか。俺は診療所の中に入った。


 建物内は薄暗く、診療用のベッドの近くに明かりがあるのみだ。


「……キュネイ?」


 中に入ったものの、キュネイの姿がどこにもない。扉越しに聞こえた声は間違いなく彼女のものだったはず。


 不思議に思いつつ、扉の側にグラムを立て掛けてから、診療所の中に更に踏み込む。


 ──ガチャリ。


 背後の音にハッとなって振り返れば、キュネイが後ろ手で扉の鍵を閉めるところだった。


「んなっ!?」


 薄暗い中、ゆっくりとキュネイが近付いてくる。徐々に照らし出される彼女の姿に俺は堪らず声を発していた。


 キュネイは頭から角を生やしたサキュバスの姿であり、その上にローブのようなものを一枚羽織っただけ・・であった。


 布の隙間から覗くのはもちろん彼女の裸体。というか、ローブ自体の薄さが極めつけで、向こう側がほとんど透けて見えている。


 つまり、彼女はローブを纏いながら殆どなにも着ていないのと変わらなかった。


 初めて会ったときの娼婦としての格好もかなりであったが、今日の装いはそれを更に上回る扇情的な格好。むしろ、単なる裸でいるよりも余程に刺激的であった。


 思わずに、俺は唾を飲み込む。


「こんばんわ、ユキナ君」

「こ、こんばんわ…………」

「ふふふ。どう? この格好は」

「…………今にも鼻血が吹き出しそうなほどだ」

「気に入ってくれたみたいで嬉しいわ」


 精一杯の強がりにも近い俺の返答に、キュネイは嬉しそうにその場でくるりと回った。薄すぎるローブの端がスカートのようにふわりと舞い上がる。やはり、背中も殆ど透けており、殊更に色香を放っていた。


「コレは、上客を相手にするときしか着ない私の『勝負服』よ」

「そんなのを……俺の為に?」

「ええそうよ」


 キュネイは目を伏せると、己の胸に手を当てる。


「私が、どれだけあなたの事を強く想っているかを知ってもらいたかったから」


 今朝、キュネイは覚悟を以てして己の真実を俺に告げてくれた。そして今、目の前の彼女から『想い』が伝わってくる。


「……朝にも言ったけど、俺は稼ぎも地位も無いような田舎者だ。お前ほどの女に釣り合うような男じゃないかもしれない」

「……うん」


 俺の情けない言葉を、キュネイはゆっくりと受け止めた。


「けど……そんな俺で良いのか?」

「コレまで幾多の男にこの身を捧げてきたわ。だけど、心を捧げたいと想ったのはあなたしかいない」


 キュネイの瞳に射貫かれ、心臓の鼓動とはまた別に俺の心が過熱する。


「ユキナ君。私は──」

「待ってくれ」


 残念ながら女性を感動させるような美辞麗句を口にできるほどの甲斐性は無いし経験も無い。それでも俺は、彼女の言葉を遮った。


「そこから先はまず俺が言わせてくれ」


 正直なところを述べれば──答えは最初から決まっていた。


 臆病になっていただけなのだ。


 ──初めて恋をした相手は決して相容れぬ、想いを伝えることすら適わない遠い存在だった。


 キュネイも、本来なら俺が望むことすら憚れるほどの女性だ。


 だが──俺はもう躊躇わない。


 相手が遠い存在なら、俺がそこまで辿り着けば良いのだ。


 誰に分不相応だのなんだとの言われれば、分相応の場所にまで上り詰めてやる。


 その決意と共に俺は想いを告げた。


「キュネイ、俺はお前が好きだ」


 想いを告げた次の瞬間。


 ──キュネイの口付けが俺の唇を塞いだ。 


 しばしとも、一瞬とも取れるような感覚。どちらからとも無く唇を離せば、熱っぽい吐息が溢れた。


「ユキナ君……愛しているわ。私の在り方を認め、受け容れてくれたあなたがいとおしい」


 その言葉を受けた俺は、彼女の唇を奪った。


 彼女は一瞬だけ驚き強ばったが、すぐに目を閉じ躯から力を抜く。そして俺とキュネイはお互いの躯を一層強く抱きしめた。そして目を閉じれば互いの『想い』を感じ取り、伝えるために全ての意識が捧げられていく。

 

 と、不意にキュネイが俺の腕の中から離れると、羽織っていたローブがはらりと床に落ちた。


 息を呑む俺の躯を、キュネイがやんわりと押す。か細い腕の力は華奢でありながら、俺は抗いきれずに一歩ずつ後ろへと下がる。気が付いた気が付けば俺は診療所のベッドに尻餅をつくように座っていた。


 キュネイが啄むように俺に口付けをする。


 唇が離れた拍子に彼女の顔を見れば、キュネイの潤んだ瞳に俺の姿が映り込んでいる。 


 さすがの俺も、彼女が『ナニ』をするつもりか理解した。


 先程までとは少し違った緊張感に、躯が強ばった。


 俺の反応に、キュネイが眉をひそめた。


「もしかして、嫌だった?」


 そりゃ普通、女が口にする台詞だろう。


「あ、いや……なんだか『こういうこと』をするために、告白したみたいな風に思えてさ」


 考えが全く無かった……と言えば大嘘だ。間違いなく頭の中に『こういうこと』への期待感はあった。


 キュネイと繋がりを持った切っ掛けは娼婦としての彼女を買うためだった。


 だが今は、己の全てを曝け出し、そして俺の命を救ってくれた彼女に惚れている。決して躯だけを求めて告白したわけではない。


「それは違うわ、ユキナ君」


 キュネイは首を横に振った。困ったような、そして泣いてしまいそうな顔になる。


「『こういうこと』目当てって言えばそれはむしろ私の方よ。私が誰かしらと繋がりを持つ方法と言えば『これ』しか知らないから」


 俺の頬にそっとキュネイの手が触れた。伝わってくるのは彼女の熱と……震えだった。


「……私のサキュバスとしての本能が、あなたを求めてまないの」


 そして、今度は俺の手を取ると──自身の左胸に押し当てた。


 初めて触れる女性の象徴部。豊かに実った双丘の片割れに俺の指が埋没していく。果てしなく柔く、それでいて弾力を孕んでいる見事なまでに矛盾を内包した存在。


 躯の一点──俺の『男』としての部分・・に血が集まるのを感じる。それでいて肌色に埋もれる手からは、キュネイの今にも破裂してしまいそうなほどの動悸が伝わってくる。


「分かる? 凄く心臓が高鳴ってる。ユキナ君がここに来てから……いいえ、あなたへの想いを自覚した瞬間から、ずっとあなたに抱かれるのを待ち望んでいる」


 それでも、サキュバスの本能を解放しないのは。


「でも、それ・・に身を任せては、私が今まで娼婦として男の人を相手にしてきたのと変わりない。そんなの、絶対に嫌なのよ」


 だから。


「ユキナ君。今度は私の方から聞くわ。


 私で良いの? 私はサキュバスで、コレまで何人もの男に抱かれてきて、そして今はあなたに抱かれたがっている。それを自覚していながらも自分を抑えきれない、こんなはしたない女で、あなたは本当に良いの?」


 ──俺はとんだ大馬鹿野郎だ。


 気丈に振る舞い、俺に想いを告げながらも、彼女はずっと泣き出しそうな顔をしていたのを、俺は今更ながらに気が付いた。キュネイが震えを帯びていたのは、緊張したのでも我慢しているからでも無い。


 偽りの無い彼女自身キュネイを、ユキナが受け容れてくれるか。言葉ではいくら想いを告げたところで、真にそれが叶うのか不安で堪らなかったのだ。


 女性にこんな顔をさせたままで良いのか。


 駄目に決まっている。


 なら、いつまでも足踏みをしていては『男』が廃る。


 俺はキュネイの腕を掴み、強引に引き寄せると同時に躯を入れ替え、彼女をベッドの上に押し倒した。


 俺の突然の行動に、仰向けになったキュネイの躯が強ばる。


「ゆ、ユキナく──んんっ!?」


 そんな彼女の唇を──強引に奪った。


 先ほどまでの口付けよりもなお深く、彼女と重なり合う。


 唇を離してから、俺は彼女の瞳を見つめる。


「キュネイ、もう一度言う」

「は、はい……」

「俺はお前が好きだ。娼婦だろうがサキュバスだろうが関係ない。俺はキュネイって女が大好きなんだ」

「──っ!」


 キュネイの瞳が潤みを帯びる。それが何を意味するか、もはや考えるまでも無いだろう。


 彼女は感極まった様に涙をこぼしながら笑みを浮かべた。


 そして、接吻キスをした。


 俺からでも無い。


 キュネイからでも無い。


 俺たちは殆ど同時に、互いの唇を求め重ね合った。


 それまでの触れあうだけの口付けではない。


 想いを確かめ合うだけの口付けでも無い。


 互いの口を貪り舌を絡ませ合い、己の全てを捧げ相手の全てを受け容れようとする暴力的なまでの接吻キス。重なった唇同士の僅かな隙間から、くちゅりと唾液の滴る音が零れ、その隙間すら埋めようと更に深く繋がろうと唇を押し付け、舌を伸ばす。


「キュネイ、お前の全てが欲しい」

「うん……うん!」

「身も心も、偽りの無いキュネイの全部を丸ごと俺に寄越せ。俺は全てを受け容れる」

「ユキナ君! 私の全てを受け取って!」


 彼女は泣きながらも妖艶に、そして見るモノ全てを魅了するような輝かしい笑みを浮かべ、叫んだ。


「私を、あなただけの女にして!」


 ──そして、俺たちは本能の赴くままに貪り合い、身も心も蕩け合うように繋がっていった。


 

『あらら。相棒はどうやらベッドの上でも『英雄』だったらしいな。こりゃ将来が頼もしいやら恐ろしいやら』



 グラムのそんな呟きが俺に届くはずも無く、いつ終わるとも知れない情欲の夜は更けていった。

どったんばったんラブコメは割とスラスラ書けるんだけど、こうもしっとりとしたシーンは普段の4倍くらい時間かかる。けど、自分なりに精一杯書きました。



当作品を気に入ってくれた方、よろしければ小説下部にある評価点をいただけると嬉しいです。

ほんの一手間で済みますのでどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言]  殺し文句だろ。
[一言] ──初めて恋をした相手は決して相容れぬ、想いを伝えることすら適わない遠い存在だった。 ちゃんと読みなはれ 身分違いで諦めてんだよこの時は
2020/05/11 20:57 退会済み
管理
[一言] 一目惚れした最初のお嬢さんどこいったw
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