第三十六話 呼び出されたようですが
連載再開!
──ざっくりあらすじ。
銀閃ミカゲが仲間(仮)になりました
慌てて組合を飛び出し、本来の目的を全く果たしていないことを思い出した俺は再び傭兵組合へと向かった。
俺の背後には当然とばかりにミカゲが付き従っている。俺が何かを言ったわけでは無く、勝手に付いてきていた。
黙って付いてきているだけだ。だから俺も強くは言えなかったのだが……。
そのまま組合を訪れれば案の定、周囲からの視線が集まった。先程のやり取りを見ていた者がまだ組合に残っていたのだろう。
ただ、それが無かったとしても、あの『銀閃』が特定の男性の後ろに黙って従っており、しかもその相手が世間では『臆病者の武器』の代名詞に近い『槍』を背負った男とくれば注目の的になるのは間違いなかった。
好奇の視線が集まるのを肌に感じながら、俺は組合の受付へと近付く。
「これはユキナ様。今日はどの様なご用件でしょうか」
何度も組合に足を運び依頼の受注や精算を行ってきたからか、職員の何人かは俺の顔を覚えてくれるようになった。今日の受付はその内の一人だったようだ。
「……こいつの報酬をもらいに来た」
俺は腰の荷袋の中から大ぶりの牙を一つ取り出すと、受付机の上に置いた。受付の職員は一瞬眉をひそめたが、すぐさま目を見開き、俺と牙を交互に見比べた。
さすがは組合の職員だ。俺が取り出した牙が『コボルトキング』の死骸から剥ぎ取ったものだとすぐに気が付いたようだ。
俺の顔を知っているということは、まだ五級傭兵であるのも知っている。そんな新人に毛が生えたような輩が『コボルトキングの牙』を取り出せば驚くのは当然だ。
「こ、こちらを一旦お預かりしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない」
「で、では少々お待ちください!」
職員は大ぶりな布を取り出すと丁寧な手つきでコボルトキングの牙を包み込み、大急ぎで組合の中へと引っ込んだ。
今の職員の声が気を引いたのか、更に俺へと視線が集まる。
『凄ぇな相棒。たった数時間でこの組合じゃ有名人になっちまったぞ』
周囲の視線も、茶化してくるグラムの言葉も無視して職員が来るのを黙って待つ。
程なくして、職員が戻ってきた。
「お待たせしました。お手数をお掛けして申し訳ないのですが、奥の部屋までご足労お願いできないでしょうか。組合の者が件の討伐に関して詳しい話をしたいとのことでして」
「別に構わないぞ」
「ありがとうございます。それと、できれば……」
職員の視線が俺から逸れ、背後にいるミカゲへと向けられた。
「……そもそも、この件を最初に請け負ったのは私です。詳しい事情説明もまだですし、彼にご一緒するのは道理でしょう」
「重ね重ねありがとうございます。では、こちらへどうぞ」
恐縮する職員に連れられて、俺たちは組合の奥へと足を踏み入れた。
案内されたのは、上質な長椅子が二つ置かれた一室だ。
部屋には既に壮年の男性が一人、椅子に座っていた。
「お待たせしましたカランさま。お二人をお連れしました」
「ご苦労。君は通常業務に戻ってくれ」
「では、失礼します」
職員は一礼すると退出していった。
「さて、まずは座ってくれ。立ったままでは落ち着いて話もできないだろう」
男性に促され、俺とミカゲは彼の対面に横並びに座った。槍は鞘から外し、椅子に立てかけておく。
「……話には聞いていたが、今時槍を扱うモノがいるとは」
顎に手を当てて槍を見据える彼の口ぶりは、馬鹿にするというよりは、素直に興味をそそられているといった風だ。
「おっとすまない。自己紹介が遅れた。私はカラン。この組合の中ではそれなりの地位にいる」
「どこがそれなりですか。組合長と補佐役の下にある責任者十名の内の一人ではないですか」
気さくな風に自己紹介をしたカランに、ミカゲは冷ややかな目を向けた。今の短いやり取りでも、二人が顔見知りなのは分かった。
「直接依頼が寄せられる際に、度々顔を合わせるだけです。単なる仕事の上での知り合いですから」
「ま、そういうことだ。よろしく、ユキナ君」
「は、はぁ……」
カランの差し出した手を握り返す。組合の職員──という割に彼の手には力強さが満ちていた。
「さて、わざわざ君を呼び出したのは他でも無い。コボルトキング討伐の件についてだ」
カランの切り出すと、室内の空気が引き締まったような気がした。彼の表情は変わらないが、目はこちらの一挙動を見逃さないよう鋭かった。
『この男はおそらく引退した傭兵だ。一見すりゃ気のいいおっさんだが、相当に修羅場をくぐってるぞ。気をつけろ──とまではいかねぇが、頭の隅にでも留めておきな』
なるほど。道理で組合職員にしては手が分厚いわけだ。
「事の発端ではあるが……君は厄獣暴走という現象は知っているか?」
「一応は。厄獣が異様に繁殖して、餌場を求めて暴走する事──ですよね」
その辺りの知識は既にグラムから教わっている。俺の言葉にカランは頷いた。
「我々組合は王都近郊の森に厄獣暴走の兆候があると考え、その調査を銀閃に任せた」
「正確には、私には厄獣暴走云々の話は聞かされていませんでした。あくまでも、森の異変に関する調査でした」
「それは申し訳なかった。『兆候を察した』とはこちらも口にしたが、寄せられた情報が『五級傭兵』のものだったのでな。こちらとしてもまだ確証が得られず、あの時点では混乱を避けるために大事にはしたくなかったのだ」
咎めるようなミカゲの言葉に、カランは居心地悪そうに頭を掻いた。
「だが、最悪の可能性の一つとしては考えていた。だから、万が一の事態にも対応できる腕利き──つまりは銀閃に依頼したのだよ」
……今話に出てきた『五級傭兵』ってもしかしなくても。
『相棒の事だろうな』
俺が受付にした話が、回り回ってミカゲの派遣に繋がったのか。
新しい部署に配属され、わたわたしながらの2ヶ月でした。
ある程度仕事も慣れてきたので、ここからは頑張って連載していくつもりです。
そうそう、ナカノムラの別連載作品
『大賢者の愛弟子』が五月十日に発売されました。
よければこちらもどうぞ
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