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第三十四話 思わず『誰?』と問いかけてしまったのですが

この展開もある意味で王道


「──まぁ、女性経験皆無の相棒にしちゃぁ頑張った方だと思うぞ?」

「うるせぇ、慰めはいらねぇよ……」


 街中を歩いていると、背負っているグラムが気遣うように語りかけてきた。俺は反射的にヤサグレ気味な声で返す。


「そう言うなって。アレで完璧な対応ができてたら今頃、相棒は手の付けられない女誑しになってらぁ」

「……それは言い過ぎじゃね?」

「相棒は何気に〝その〟素質を持ってるからな。気をつけろよ」

「気をつけるも何も、そんなのあるはずねぇだろ」

「あーあー、だから無自覚なタイプは嫌なんだわ」


 ちょっとグラムが何を言っているのかよく分からないが。 


「俺は今、人生で一位二位を争うほどに後悔してる……」


 これが人が多く行き交うのでなければ、頭を抱えてうずくまりたいくらいだ。 




 ──少し前に時間は遡る。


「俺は──」

「ユキナ君」


 更に言葉を重ねようとしていた俺の名を、キュネイが静かに呼んだ。俺がグチグチと言っている間に、彼女はいつの間にか席を立っていたのか、今は俺の側に佇んでいる。


 自分は最高に情けない表情つらを晒していると予想しつつも、俺はキュネイに顔を向けた。


 ──気が付けば、キュネイは俺と唇を重ねていた。


「これが……私の答えよ」


 唇を離すと、頬を朱に染めたキュネイが言った。


「娼婦としての私を認め、淫魔サキュバスとしての私を受け入れてくれたあなたが、たまらなく愛おしい」


 だから──と、彼女は俺の目を真っ直ぐと見据える。


「私が断言するわ。ユキナ君は、私が相手をしてきた誰よりも素敵な男性よ。それこそ、この身を委ねてしまいたいほどに」

「こんな俺でも……良いのか?」

「そんなあなただからこそ、良いのよ」


 そして、キュネイはそっと俺を抱きしめた。


 俺は椅子に座ったままであり、彼女は立った状態で、それはつまり彼女の胸元部分に俺の頭部が抱え込まれる形になるのであって。


 こう──〝埋まった〟。


 男としての興奮もあったが、それ以上に自分以外の温もりと包み込むような柔らかさに、俺の内側で安心感が広がった。


「分かるわ。男の人も、初めての事になるとどうしても自信が無くなっちゃうものね──って、他の男の話をするのは野暮か」


 大事な場面でヘタレている俺の頭を、キュネイは抱きしめたまま優しく撫でる。


「大丈夫。ユキナ君の今の状態は自然の事よ。むしろ安心したわ。あなたにもそういった面があるのを知れたから」


 ……それは、どういう意味だろうか。


「こちらの話。気にしないで。それよりも落ち着いた?」

「……正直、落ち着かないです」


 顔の圧迫する苦しくも心地よい感触で一杯一杯だ。


「けど……さっきよりは落ち着いた」


 一杯一杯でちょっと落ち着かないので、俺はキュネイのたわわから脱出しようと藻掻いた。


 ──が、ガッチリとホールドされたままだった。


「…………あの、抜け出せないんですけど」

「このままじゃ駄目?」


 乳の隙間からどうにかキュネイの顔を窺うと、こてんと首を傾げ、可愛らしい笑みを浮かべていた。


〝あざとい〟って、今のキュネイみたいな反応のことを指すのだろうな。このままキュネイのおっぱいに埋もれていたい気持ちがちらっとは沸き上がったよ。


 ただ、このままだとまともな話ができないのでちょっと離れてください。


 それから謎の攻防おしあいが繰り広げられ、どうにか俺はキュネイのおっぱいから脱出した。……文字だけ聞くと凄いなこれ。


 若干残念そうなキュネイに、俺は咳払いをして気を取り直す。


「……キュネイの気持ちはよく分かった──とは思う。もう疑うつもりもない。けど──」

「自分の気持ちが分からない、でしょ?」


 やはり、多くの男性を相手にしてきただけあり、こちらの考えている事は筒抜けのようだ。


「好きか嫌いかで問われれば、間違いなく俺はキュネイのことが好きだ。ただ、そいつが男女間の〝好き〟かどうかは……ちょっと自信ねぇ」


 ここでキュネイの告白を受け入れるのは簡単だろう。だが、俺の中にある〝好き〟は彼女を娼婦として見ているのか、一人の女性として見ているのか、判断がつかないのだ。


「…………そうね。私もちょっと舞い上がって、焦りすぎてたところもあるかしら」


 情けなさヘタレを露わにする俺にキュネイは失望をする風では無く、むしろ納得したように頷いた。 


「ユキナ君、今この場で無理に答えを出さなくて良いわ」

「良いのか?」

「むしろ、私の気持ちばかり伝えて、ユキナ君の気持ちを全然考えていなかったんだから。私もちょっと落ち着いた方が良いと思うの」


 でも、と。キュネイは俺の顔を摑むと少しだけ引き寄せた。


「もし君が少しでも私の想いを受け取ってくれるのなら」


 そして、額に口付けをする。


 

「──今夜、もう一度この場所に来て」





 少し前の一幕を振り返ってから、俺はキュネイの診療所を出てから何度目かになる深い溜息をついた。


「やっぱり、あの場の勢いに身を任せてしまった方が良いんじゃ無いかと……」

「否定はできないが……今更言っても仕方がねぇよ」

「わかっちゃいるんだがなぁ」

「ま、少なくとも夜までは時間があるんだ。その間に悩んで悩んで悩み抜きな。どんなことがあっても骨は拾ってやるから」

「それって、どんなことあっても失敗してるって意味じゃねぇか!」


 やいのやいのと言い合いながら、俺が診療所を出て最初に向かったのは傭兵組合だった。


 コボルトキング討伐の報奨金を得るためだ。


「他の傭兵やあの時来てた王国兵の手柄になってたらどうしようかと思ってたわ」

「その辺りは銀閃が睨みを利かせてたみたいだからな、大丈夫だろ」


 話を聞くに、俺が森で意識を失った後、銀閃は現場に居合わせた王国兵と協力して俺をキュネイの診療所まで運び込んでくれた。その後、俺の治療が終わり容態が安定した頃にやって来て、コボルトキングの討伐は正式に俺の成果として傭兵組合に受理されたことをキュネイに告げたのだという。


 俺はその間に意識が無かったのでグラムからの状況報告しか無かったが、その証拠に俺の腰に備えた荷袋にはコボルトキングの討伐部位である巨大な牙がある。銀閃がわざわざコボルトキングを倒した現場に赴き、その死骸から剥ぎ取ってきたのだ。


 すでに傭兵組合には話は通してあり、俺がこれを提出すれば報奨金を得られる手はずとなっている。


 五級の俺でなく二級の銀閃が討伐したと報告すれば、おそらく組合はその報告を信じただろうに。


「律儀というか真面目というか……」

「ありゃ人に厳しいが、それ以上に自分に厳しいタイプだ。その手のズルは性に合わないんだろうよ」


 聞く限り、銀閃は健康そのもので、怪我の後遺症もないようだ。


「あ、銀閃のキツネにはちゃんと礼を言っておけよ。診療所に運び込んでくれた件もそうだが、相棒のことをもの凄く・・・・心配してたからな」

「あいよ」

 

 今度会ったときには飯でも奢るか。


 軽く考えた俺は傭兵組合の建物に足を踏み入れた。


「あ、相棒。ちょっと危ね──」


 グラムから警告が出されかけたが、時既に遅し。



「『英雄』殿!!」



「へ? ──ぶほぁっっ!?」


 こちらに駆け寄る足音に目を向けようとした途端、横合いから『何か』がぶつかり、その『何か』ごと俺の躯は組合の床に投げ出された。


 床に躯を打ち付けた痛みに顔を顰めつつ、俺にぶつかってきた存在に目を向ける。


「いたたたた……。ったく、何なんだ……え、どなた?」


 銀の髪に狐の耳と尻尾。


 ──他ならぬ銀閃だった。


 それが俺の胴体にしがみつき、目を潤ませながら俺の顔を見ていなければ、スンナリと受け入れられていただろう。


「キュネイ先生から治療は無事に終えられたと聞いていましたが、こうして御壮健な姿を見られて嬉しい限りです!」


 銀閃は俺の顔を見ながら今にも泣き出しそうな、だが満面の笑みを浮かべていた。


 ついでに言えば、狐の耳がピコピコと動き、尻尾に至ってはわっさわっさと振られている。


 躯全体で喜びを表しているといった具合。


 初対面の時に見たクールビューティーとはまるで別人だった。


ユキナは普通の少年的な思考も持ち合わせています。

初めてのことに関しては多少なりとも躊躇を抱いてしまうのも当然です。

今回はその辺りを意識して書いてみました。


というか、他のナカノムラ作品に出てくる『あいつ』が色々とおかしいだけです。自分で書いててあれですけどね。楽しんで書いてましたけどね。やっぱりスゲェなあいつ。


ただ、単なる少年向けラブコメのありがちなワンシーンで終わらせる気もないので、続きをお待ちください。



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また、小説下部にある評価点をいただけると今後の執筆の励みになり、作家への応援ともなりますのでどうぞ。


先日に『王道殺しの英雄譚』の評価ポイントが40000ptに届きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。次は50000ptに届くように頑張っていきます。



余談ですが、おかしい『あいつ』の物語が読みたい方は、この作品もどうぞ。

『カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー』

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[一言] こうして駄犬が生まれたのだった
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