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side healer2(後編)

ようやく終わった! 

前中後合わせて当初の3倍くらいに文章量が膨れ上がってたよ!


 目の前の女性が発した声ではない。けれど、確かに私の耳に届いた。


 私の疑問をよそに、『声』が続いた。


「やっぱり『娼婦』ってのは平気で身を売るし平然と男を裏切る、どうしようもねぇ奴らみたいだな」

「────っ!!」 


 恐怖で凍り付いていた心に火が灯った。


 ──怒りという名の火が。

 

「あなたに何がわかる……」


 自分の手で大切な人を死なせてしまうかもしれない。その恐怖がどれほどのものか……それを知らずによくも──。


「おお分からねぇさ! 目の前で死にかけてる男を見捨てるような薄情な女の気持ちなんざよ!」

 

 ユキナ君このひとが認めてくれた、私の誇り。


 それを侮辱されて、私の心は白熱した。


 私が怒声を発するよりも早くに、声が響いた。 



「あんたはこの男を──ユキナって男を助けたくねぇのか!!」

「そんなの──」



 私を認めてくれた彼を。



 私を肯定してくれた彼をっ。



 生まれて初めて、身も心も委ねたいと思ったユキナ君を!!



  

「──助けたいに決まってるじゃないの!!」




 ──それは一人の女が発した、偽らざる本心の叫び。


 心を凍てつかせていた恐怖は、強い感情が発する熱で溶けて消えた。



「……なんだ、だったらするべき事は決まってるじゃねぇか」



 ──そうだ、何を躊躇う必要があるのだろう。


 普通の手段では今のユキナ君を救うのは難しい。


 だったら、普通ではない方法・・・・・・を使えば良いのだ。


 無意識に避けていた、けれども私だけが使える禁じ手。


 ──もしかしたら『これ』を使えばユキナ君に嫌われてしまうかも知れない。もう二度と、私に近付こうとしないかも知れない。


 それでも構わない。


 ユキナ君に嫌われる恐怖よりも、ユキナ君を失う恐怖の方が強い。



 そして、彼を失う恐怖よりも彼を救いたいという気持ちの方が遥かに強い。



 決意は──できた。


「……どこのどなたかは知りませんが、ありがとうございます」

「なぁに、相棒だってあんたみたいな極上の美人の胸で死ねりゃぁ本望だろうよ。悪かったな、あんたを侮辱するようなことを言って。後で好きなだけ罵ってくれや」


 とんでもない。おそらくは私を焚き付けるために狙ってやったことだろう。だったら責めるのはお門違い。こうしてユキナ君を救うための決意ができたのだから感謝するほどだ。


 ──ところで、この『声』の主は誰なのだろうか。


 男性のそれである以上、銀髪の女性ではありえないし、診療所にいる兵士たちや『勇者』ではないようだ。私が眼を向けても誰もが首を横に振っている。


 ふと、兵士の一人が持っていた黒と朱塗りの槍が目に付いたが──声の主が誰かを詮索するのは後回しだ。


「お待たせしてしまって申し訳ありません。すぐに治療に取りかかります」

「お願い──してもいいのですか?」


 今にも泣き出しそうな女性に対して、私は宣言した。


「絶対に彼を助けます。私の誇りにかけて」


 ──どんな手を使ってでも。


 言葉にせず、私は内心に付け足した。





 回復魔法は使い手の魔力によって対象の治癒力を一時的に活性化さえて傷を癒やす魔法だ。つまり、使い手の魔力を消費するだけでは無く、施される側の体力も僅かながらに消費される


 上位の魔法になればなるほど施される側の体力消費は抑えられ治癒の効果も上がるし、傷の具合が酷ければそれを治癒するための魔力も対象の体力も消費量が上がってしまう。


 今でこそこれは回復魔法の使い手にとって常識ではあるが、昔は重傷者に何も考えずに回復魔法を使い、体力が枯渇して死ぬケースが多かった。


 そして今のユキナ君。最低限の応急処置が施されるのみ。その選択肢は正解だ。


 ユキナ君は辛うじて生き残っているという状態で、これ以上に回復魔法を使えば生命力が枯渇し、怪我が治っても死に至るだろう。応急処置の施した者も、回復魔法の使用を最低限に留めたのもこのためだ。


 きっと、王城勤めの──宮廷魔法士であったとしても、これほど重症の患者を治療するのは難しいだろう。一夜で死に至る時間を二夜に……あるいは数刻ほど引き延ばすのが精一杯に違いない。


 ──一番の問題はやはり生命力の枯渇だ。


「改めて礼を言う。よく決心をしてくれた。おそらく、あんたにとってはかなり辛い選択をさせただろう」

「お礼はユキナ君を治療した後でお願い」


 相変わらずあの『声』が診療所内に響く。いま内部には私の他に人影は無い。


 私は『治療のため』という体裁で、私以外の全ての人間は診療所の外へ出てもらった。女傭兵の狐獣人や『勇者』は食い下がろうとしたが、私は頑として譲らず半ば強引に追い出した。


 残されたのは、兵士の一人が携えていた黒と朱塗りの槍だけだ。


 今からユキナ君に施すのは、私が己に禁じていた『処置』だ。


 どうやら『声』の指示によってユキナ君はこの診療所に──私の元に運ばれたらしい。そして今の言葉を聞く限り、『声』は私の『秘密』に関しても察しが付いているとみて間違いない。


 問い質したい気持ちは後回しだが、今は何よりも優先すべき事がある。


 私が躊躇っていたために、貴重な時間を消費してしまった。こうしている間にも彼の容態はどんどん悪化している。これ以上無駄に時間を掛けてはいられない。


 私はもう一度ユキナ君の顔を見る。


 今は血の気を失い、苦悶の表情を浮かべている。


 ふと、以前に私に向けてくれた笑みが重なって見えた。


 もう一度、ユキナ君の笑顔を見たいと、心の底から思う。


 だからこそ、やるのだ。


「さぁ……いくわよ私」


 己に言い聞かせるように呟き。



 私は今まで隠していた『私』を解放する。



「ん……くぅぅ……ふぅぅ……」


 躯の中で熱が膨れあがり、全身に行き渡るのを感じる。久しく感じなかった『それ』に意図せず声が漏れた。


 外見からは判断しにくいだろうが。私の肉体は今、人間の肉体それから〝本来あるべき姿〟を取り戻し始めているのだ。


「あぐぅっ…………っっっ!!」


 こめかみが、一際強い熱を帯びる。


「ぐぅぅぅぅっっっっ…………っっっ!」


 痛みすら伴いそうなその感覚を、歯を食いしばって耐える。肉が内側から裂け、骨が砕けるような痛みに躊躇しそうになるが、私は己を叱咤し一気に〝それ〟を続けた。


「ぐっ……ぁぁぁぁああああああっっ!!」


 ──時間にすれば一分にも満たない時間。けれども、私には一時間にも二時間にも感じられた。


 体内を駆け巡っていた熱が引くと、私は『私の躯』を壁に備え付けてある鏡で確認した。


 全体的には変わりは無い。


 ただ一点


 

 側頭部にある『角』を除けばだ。



「……久しぶりね、これ・・をするのは」


 捩くれた角に手を触れると、指先に硬質な感触が触れ、角からは己の指が触れているのを感じた。


 この角は間違いなく、私の躯から生えている私の一部なのだから当然だ。


 娼婦という職を続けなければならなかった理由。


 私にとっては最も忌むべき自身の『秘密』。


 こんな躯を持って生まれて、私は己の出自を憎んだ。


 ──けれども、この瞬間だけは感謝したい。


 この角が──こんな私であるからこそ、ユキナ君を助けることができる。


 ユキナ君の頬にソッと手を触れると、凍えるような冷たさが伝わってきた。


 若干の躊躇いを今度こそ捨て去る。


 私は、ユキナ君の唇に顔を近づける。 



 重症を治すための生命力が枯渇しているならば、外部から生命力を分け与えれば良い。


 私だけが使える魔法。



「『生命譲渡トランスファー』」



 私はそっとユキナ君と唇を重ね、生命力を受け渡す。



 ──絶対に、この人を助けてみせる!。



 その強い決意を胸に──私は治療を開始した。



キュネイ視点はこれで終わり。

次からユキナ視点に戻ります。

キュネイについての詳しいあれやこれ次回に説明しますのでお楽しみに。


それと、多くの感想を頂き嬉しい限りです。頑張って続き書きます。



当作品を読んでくれた方。気に入ったのであればぜひブックマークの登録をお願いします。

すでに登録が済んでいらっしゃる方でも、小説下部にある評価点を押していただけると幸いです。



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