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side fencer(前編)  

狐っ娘視点のお話です


 私は銀閃。本来の名は別にあるが、近頃はこちらの方が呼び慣れている。勝手に付けられた『二つ名』ではあったが嫌いではない。


 今は一介の傭兵であるが、本来の私は武の道を究めんとする求道者──『武芸者』だ。出身はここから遠く離れた僻地であり武者修行とある目的の為に『アークス』の地を訪れた。


 その目的とは──勇者の旅に同行するためだ。


 我ら武芸者は武の道を進む者であるが、同時に己の武に『意味』を求める。祖父も父も祖国の要人警護にその『意味』を持たせていたが、私にはどうにも肌に合わなかったようだ。それ以前に、女である私を他家に嫁がせる──つまりは政略結婚の道具にしようとしていた。


 全く腹立たしいことだ。女に生まれたことを悔やむほど。


 そんな時に風の噂を耳にした。


 魔王復活の時が近くなっており、それを討ち滅ぼすための勇者が現れる──と。


 もし勇者の旅に同行することが出来ればそれこそ末代まで誇れる最高の名誉になるのではないだろうか。


 そう考えた私は書き置きを残し半ば出奔同然に故郷を後にしていた。どうせ家族に言ったところで引き留められるか、最悪は監禁同然の仕打ちを受けるのが目に見えていたからだ。


 用心棒紛いの仕事で旅費を稼ぎつつ、根無し草の日々。フォニア教信徒からの情報により、やがては勇者が必ず『アークス』の王都ブレスティアに向かうことを突き止めた。


 私が勇者の旅に同行できるかは分からない。だが、一縷の望みを掛けて私はブレスティアを訪れた。


 そして少しでも勇者の仲間として白羽の矢が立つよう手っ取り早く名をあげるため『傭兵』となった。己の武を磨き上げ、それでいて金を稼ぐのに傭兵稼業は好都合だったのだ。


 それから一年余りの時が経ち、いつの間にか私は『銀閃』の二つ名で知られる腕利きの二級傭兵として名が知れるようになる。


 そして遂に──待ち望んでいた『勇者』が現れた。


 初めて勇者を目にしたのは、聖剣を手に入れた事を祝したパレードだ。装飾された豪華な馬車に乗り、その上で聖剣を天にかざす勇者の姿は輝かしかった。なるほど、『勇者』と呼ぶに相応しい出で立ちであった。


 あの勇者と共に魔王討伐の旅に同行できたとなれば、父や祖父も私を『武芸者』として認めてくれるはず。


 そう思った私は今まで以上に困難な依頼に望み、己の武を高めようと励んでいた。



 そんな時だ──あの『槍使い』と出会ったのは。



 初めの相対は組合の中。私の無駄に育った胸を凝視した目がいやらしかったのを覚えている。もっとも、これに関しては諦めているが良い感情はしなかった。


 ──それ以上に彼は私の最も忌み嫌う類いの人間であった。


 それはさておき、今回私が請け負った依頼は王都近郊の森で起こっている異変の調査及びに根源の除去。


 王都近郊の森は傭兵になりたての新人が稼ぎ場にするような、低難易度の厄獣モンスターしか出没しない。腕を磨くことに重きを置く私にとっては無縁の場所。


 本音を言えば辞退したいところであったが、傭兵組合に属している以上、組織の意向に従うのが筋。それに、勇者の目にとまるために少しでも組織内での評価を上げておく必要がある。


 渋々とだが依頼を受注し、近郊の森に向かった。


 森へと足を踏み入れると、組合からの情報通りに不穏な気配を感じ取った。


 一見すると青々と茂った木々が生命力を感じさせるが、漂ってくる雰囲気は荒野と言わんばかり。生き物の存在をまるで感じさせなかった。


 そして幸か不幸かあの『槍使い』と遭遇した。


 槍使いは相変わらずだった。


 リスクを嫌って槍を好んで使うのはまだともかくとして、彼は安全に金を稼ぐためだけにひたすら雑魚ザコ厄獣モンスターであるビックラットを狩り続けていた。


 それどころか、どれほど馬鹿にされても、私の口から『腰抜けの槍使い』呼ばわりされている事実を聞かされても、本人が欠片も気に止めていなかった。もし私が近しい侮辱を向けられれば、その侮辱の根源をなます切りにしていたに違いない。


 この時点で、彼は私と対極にいる。絶対に相容れぬ存在であると判断した。


 ──この邂逅が私の『道』を定める切っ掛けとなるなど、その時は予想だにしなかった。


 彼と別れてしばらくして、私は見たことの無い巨大な犬頭人コボルトと遭遇した。通常の大きさをした犬頭人コボルトを大勢引き連れ、コボルトキングは私に襲いかかってきた。


 この事件の後に、巨大な犬頭人コボルトが『コボルトキング』と呼ばれる存在であるのを知った。


 この時になって、私は組合の判断が──二級傭兵である銀閃わたしを派遣した判断が正しかったと理解できた。


 コボルトキングの強さはとてもではないが五級か四級の傭兵が太刀打ちできるものでは無かった。


 巨体に反して動きは俊敏であり、巨体故の膂力を秘めている。その上体毛は生半可な刃では傷一つのすら苦労するほどに硬い。


 ただ単に犬頭人コボルトが巨大化しただけの個体では無かった。倒すには最低でも三級が一チーム。単機で挑むなら私のような二級の実力が必要になってくる。


 だが、今この森に起こっている異変に、この巨大な犬頭人コボルトが関わっているのは間違いなかった。


 何より、この異常事態を私一人で収めることが出来れば、勇者の目にとまる確率も上がる。そう考えた私はコボルトキングの討伐を目論んだ。


 ──だが、私は己の栄光と武に目が曇っていた。


 最初は周囲で傍観するだけだった犬頭人コボルトどもが、コボルトキングが吠えた途端に狂ったように襲いかかってきたのだ。


 奴は──犬頭人コボルトの群れの『長』だったのだ。


 コボルトキング一体だけが相手であれば苦も無く倒せた。犬頭人コボルトがいくら群れようとも相手ではなかった。


 だが、コボルトキングとその配下を同時に相手にするには、私は未熟であった。


 捨て身で襲いかかってくる犬頭人コボルトの群れを相手に隙を作った私は、コボルトキングの配下を巻き込む一撃によって足を負傷した。


 多くの敵を相手にする状況下で、身動きが取れなくなるのは致命的。


 私は己の死を覚悟した。


 武芸者として志半ばで朽ち果てる覚悟は出来ていた。


 だがそうであったとしても、



 振り上げられた豪腕を目にした時、紛れもない恐怖と絶望感を抱いた。


 ──その時だった。 



「こっち向けデカブツがぁぁぁぁぁっっ!!」



 この場にいるはずの無い者の声が戦場に木霊し、コボルトキングにぶつかった。


 あの『腰抜け槍使い』だった。



悪かった。

本当は一話で終わる予定だったんだけど、気がついたら一話で収まらん量になっていた。


王道殺しの第一部は次のお話で本当に終了。


予定ですが、一部終了後は第二部を書き溜めるまでの準備期間に入ります。

なお、王道殺しは短期連載ということで第二部で完結する予定です。

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