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第二百九十七話 国の行く末を案じる者たち


「ロウザよ、一体いつから、俺がこいつらの雇い主たと気が付いたのだ」

「……正直に申しますと、今この時に至るまでは確固たる所には至らずじまいでしたよ」

「まさか──先程までのやり取りはハッタリだったというのか!?」


 この後に及んでまさかの博打に、ランガも仰天する。


『ぶっちゃけ、ここで〆られるかってのも五分五分だったしな』


 あくまでも『ランガが刺客の元締め』という想定(・・)という形での段取りだったのだ。この段階で読みを外していたら土台から崩れていただろう。


 それに、読みが当たったとして刺客が仕掛けてくるかはわかってても、どのタイミングでなのかは分からなかった。もしかすれば厄獣との戦闘中に乱入してくる可能性もあった。となると、キュネイの痺れ薬を散布している最中であり、魔族に通じたかは分からない。


 こちらの罠を警戒して襲撃を撤廃する事も十分異常に考えられた。俺の『悪名』故に思っていた以上に勘繰られたおかげでどうにかなったが、素直に喜んでいいのかちょっと分からない。


「とはいえ、完全に場当たりというわけではございません。儂なりの根拠はそれなりにあった次第でして」

「ならば、その根拠とはなんだ」


 憮然と問いかけるランガにロウザが言う。


「魔族の仕事には、儂を狙う機会を虎視眈々と狙ってはいましたが、陰湿さがあまり感じられませんでした。儂以外の何某に被害を及ぼすような真似は滅多にはしませんでしたからな」


 ロウザは語っていた。ランガは確かに民の心に疎いきらいがある。けれどもそれは、民を蔑ろにしているという意味ではない。国に住まう将軍家の人間──王族として、守護し導こうという気概があると。


 そんな彼が、仮に他国であろうとも、将軍になるために無辜の民を巻き込むような真似はしないと。


「……私の診療所を壊してくれた件は許さないけどね」

「安い雇われの雑な仕事に違いなかったが、あの時点で貴様らは標的(ロウザ)の勢力に属していると判断できた。故に、いずれは排除すべき存在には違いなかった。あそこでは騒ぎが大きくなるから仕掛けなかったが、遅かれ早かれであっただろうよ」


 悪びれもなく魔族(イブカ)に、キュネイは腕を組んでムスッと不機嫌を示す。建て直しの費用はロウザが全面負担するし改修もするが、それはそれとして思い入れのある場所には違いないのだ。


「シンザ兄上であれば、サンモトの民ならまだしも、海を隔てた先の土地に住む民衆への配慮などありますまい。であれば消去法で、ランガ兄上だろうなと」


 あの知恵は回るものの陰湿な次男であれば、もっとえげつない手を使ってきたであろうと。暗殺を目論みつつも標的が真っ直ぐにロウザに向かっていた辺りが、刺客の元締めをランガと定めた理由だ。


「……俺は、お前の博打にまんまと乗せられたというわけか」


 ロウザとの『賭け』に負けたのは認めたものの、ランガも思うところは大いにあるのは俺の目から見ても伺える。


 俺の視線に気がついて、ランガは首を横に振った。


「そこの愚弟と交わした約定を違えるつもりはない。が、このような男が将軍となれば、国の行く末が不安になってな」

「そりゃぁな。王様が博打で国を仕切るとなりゃぁな。手下──じゃなかった、配下としちゃ怖いだろ」


 誰もが胸中で浮かべていた言葉をリードがサパッと口にする。実際にその通りであったら、サンモトの行く末は暗いだろう。


「ですから、兄上のような質実剛健なお方が、力を貸してくれると助かるのですよ」


 その一言に、ランガはハッとなり改めてロウザを見据えた。


 目から鱗、あるいは憑き物が取れた。そう表現できるほど、その目の色はこれまでと違って見えた。


「兄上は他国からの流入する文化にて、サンモトの文化が損なわれるのを恐れていた。それは民の暮らしのみならず、国を守る兵力にまで及ぶと危惧も含まれていた」

「ああ、その通り。サンモトの古今無双の兵力は、サンモトの文化があればこそ培われたものだ。有用だからと安易に取り込めば、既存の兵法に悪影響を及ぼしかねん」


 今は魔王復活のこともあり各国が足並みを揃えようとしているが、勇者が使命を完遂した先は果たしてどうか。厄獣という危険な生物がいる限り、大半はこれまで通りの自衛に努めるであろうが、中にはよからぬことを画策する国もあり得るだろう。


 これまで独立独歩を貫き、他所からほとんど手付かずであったサンモトを狙う国が現れることだって十分に考えられる。


 ランガは鎖国をすることによって国交を閉じ、海の先から侵略の手が伸びるまでの間に、強き軍の育成に注力し防備を固めるつもりだったのだ。


「ですが、海の隔てた先では隣国との交流を重ね、新たなる文化を生み出しております。これに乗り遅れれば、やがてサンモトは世界から取り残される。なればこそ、我らは学ぶ必要があるのです。いずれは敵となりうる国の技術と文化を」


 敵を知り己を知れば百戦危うからず──と、ロウザは言っていた。


 狭き島国に閉じこもっていれば、敵を知ることはできない。彼我の違いがいかほどなのかも判断できない。敵が襲ってきてから知るようでは遅過ぎるのだ。刃を向けてきた時には既に、その刃の鋭さを学び対抗しうる技術と策──『力』を備えておかなければならないのだ。




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