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第二百九十四話 side 魔族──イブカ


 魔族──イブカは言葉を連ねながら、黒刃の一挙一動に警戒をする。


「バレてるのが分かった時点で、素直に帰りゃぁいいのに。こうも正面から姿を現すこともなかっただろ」

「馬鹿をいえ。我らが潜んでいると気がついていたのであれば相応の算段があるのだろう。無防備な背中を晒す愚は犯さん」


 部下を引き連れ、標的の持つ最大戦力を仕留める段取りをつけたはいいが、その全てが予測されていた。となれば、こちらを一網打尽──あるいは大幅に削り取る算段があって然るべき。


 この男が油断ならない存在であるのは、魔族の間で共通認識となっている。


 黒刃(ユキナ)は黒槍を悠然と構えているが、その能天気な表情の裏にどれほどの悪辣な策謀をめぐらせているか分かったものではない。故に、潜入がバレたと気がついた時点で、あえて正面から姿を見せ、出方を伺う選択をとったのだ。


「意外だな」

「何がだよ」

「黒槍を操る男は、不意打ち闇打ち奇襲強襲を好む卑怯な悪鬼外道と聞いている。てっきり、森を焼き払うくらいのことはしてくると踏んでいたが」

「それはあまりにも人聞きが悪すぎじゃねぇか!?」


 言葉を投げかけ反応を確かめるが、ユキナは目を剥いて大きく叫ぶ。「酷くねぇか」とユキナは仲間に目を向けるが、女性陣はどこか気まずげに視線を逸らすのみであった。


 果たしてそれのどこまでが演技なのか、イブカにはどうにも計りかねた。よほどに腹芸が上手なのか、ただの愚か者なのか。


 ただ忘れてはならない。この男は、同胞が企てた計画の中で、重大なものをいくつも阻止してきた確固たる実績がある。少なくとも、彼が割って入った事案については全てが無惨な結果を辿っているのだ。


 少なくとも、黒刃(ユキナ)及びその仲間について、蛇腹剣を操る一人が興奮気味ではあるが、それを含めて怪しげな動きはない。


 大方、標的(ロウザ)の護衛衆が、己たちが気が付かない遠間で包囲網を作っているのだろう。であれば、散って退散しようとすれば此処で仕留められ、集って撤退しよう試みたところで時間稼ぎをされ、増援を差し向けられる。一番避けねばならないのは、その最中に黒刃らに背中から追撃される事。


(で、あればだ)


 退路が立たれているのならば前に進むのみ。


 イブカは自身に掛かっていた偽装魔法を解除。頭部から魔族の証である角が聳り立つと、腰から剣を引き抜く。伴い他の刺客たちも、同じく偽装を解きながら構えをとる。


「引くのが困難というのであれば、せめて貴様らを仕留めるまでよ。であればせめて、依頼人の意向を叶えた事になるだろう」

「なら、是非ともその依頼人って奴を教えてもらいたいもんだ」


 魔族たちの殺気に当てられ、ユキナも各々が緊張感を高めていく。


 ──ギンッ!


 突如として響き渡ったのは、背後の斜め上方向から飛来した短刀を、蹂躙と呼ばれる女傭兵(リード)が伸ばした蛇腹剣を弾いた音。ユキナたちの注意がイブカに集った矢先である。


 全ての刺客を正面から姿を現したと誤認させ、とりわけ隠行に長けた数人を森の中に潜ませていたのだが、こうも容易くバレるとは。


「さすがにそうは甘くないか」

「悪いな! こっちにゃ頼もしい『相棒』がいてくれるんでね!」


 舌打ちをするイブカに、ユキナは声を張り上げながら踏み込み槍を振るった。



 ──戦闘が始まって少しが経過した頃。



「ちょっとこっちに来すぎじゃねぇかなぁ!」


 ユキナは悲鳴を上げながら迫り来る魔族たちに向けて黒槍を振るう。


 口ではああ言ったが、残念ながら黒刃とその仲間の全てを討ち果たすには至らないであろう。 人数は魔族側が圧倒的に勝り一人一人も決して練度は低くない。が、本来の立ち回りは隠密からの不意打ちや暗殺を得意とする者ばかり。対して、黒刃とその仲間はそれぞれが相当の手練れ。正面からの戦闘ではいささか部が悪い。全滅させるには少なく見積もって、今の三倍の手勢が必要になってくるだろう。


 となれば、今ある手勢を最大限に活用して、黒刃(ユキナ)の討伐を最優先事項に定める。これはおそらく、依頼人の意向のみならず、魔族勢力にも貢献する重大な仕事だ。


 であれば、命を賭すに値する仕事だ。


 手勢の半分は、可能な限り黒刃の仲間を引きつける役目。倒す事ではなく時間稼ぎに徹するのであればしばらくは持ち堪えるはず。その隙に、ユキナを仕留める。


 当然、魔族側の目論見は露呈している。


「ああくそっ! 厄獣よりゃ歯応えあると思ったけど、こいつら普通に面倒くせぇな!」

「こちらを倒すことは考えてませんね。私たちを足止めして、ユキナさんを確実に潰すつもりです」

「ならばその前に突破するのみです」

「って、それが簡単じゃないんでしょうけど」


 黒刃と分断された女性陣ではあるが、一抹の焦りは抱きつつも冷静に立ち回っている。やはりというべきか、魔法使いは非力ではあろうがあの中でいちばんに冷静(クレバー)である。即座に目論見を看破されていた。だが分かったところで、容易く突破できるほどレブカが率いる魔族らも弱くはない。


 相性の問題も魔族側に作用していた。


「やりにくいなぁ! 俺ってこういう相手、苦手なんだけど本当に!」


 情けなくも己の弱みを暴露するユキナは、それだけ必死ということであろう。


 黒刃ユキナが並々ならぬ怪力無双を誇っているのは有名な話だ。女帝鎌兜の突撃を正面から受け止める膂力は驚嘆に値する。魔族(どうぞく)とて、あれほどの力を秘めているものは滅多にいないであろう。


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