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第二十七話 ビビったら負けのようですが


「ん? え? ちょっと待って相棒。何やってんだおま──」

「だらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 正面に待ち受ける無数の犬頭人コボルト。足が竦みそうになるのを気合いの声で叱咤し、槍を振り回しながら突貫した。


 背後から突如として現れた俺に犬頭人コボルト達は大きく戸惑う。その隙に俺は我武者羅に槍を振るい犬頭人コボルトの壁を押しのけ、一目散の銀閃の元を目指す。


「相棒、無茶だ!!」

「うるせぇ! 黙ってろ!!」


 目前の犬頭人コボルトをひたすらに切り裂き貫き薙ぎ払っていく。途中で犬頭人コボルトの爪が躯を掠めるも、お構いなしに突き進む。


 銀閃とコボルトキングの距離はもはや零に近い。


 目から血を流し、憤怒の形相で銀閃を睨み付けるコボルトキング。


 最初は気丈に睨み付けていた銀閃だったが、振り上げられた豪腕をめにするとふっと肩から力を抜いた。


 その時、俺は見た。



 銀閃の何もかもを諦めたかのような顔を。



 ──バチリと、俺の中で何かが弾けた。


 気が付けば、俺は犬頭人コボルトの囲いを突破。俺はその勢いのままに槍を大上段に構えた。


「こっち向けデカブツがぁぁぁぁぁっっ!!」


 槍の穂先が、腕を振りかぶり無防備を晒す胴体へと吸い込まれる。


 だが──腕に返ってきたのは肉を絶つ感触では無く、岩を叩いたような硬質な反動だった。


「ってった!?」


 刃はコボルトキングの肉体に食い込まず、その表面を僅かに刺さっているだけに終わっていた。


 驚いていた俺は、不意に倒れたままの銀閃と目が合った。


 質は違えど、彼女も俺と同じく驚愕に目を見開いた顔をしていた。


「ぼさっとすんな相棒!」

「え──おわぁっ!?」


 振り上げられていたコボルトキングの豪腕が、銀閃では無く俺に向けられる。あわやというところで迫る爪を回避するが、至近距離での振るわれた剛力の風圧に耐えきれず、俺の躯は後ろへとバランスを崩す。


「抗うな! そのまま跳んで転がれ!!」


 叱責にも近い声に反射的に従い、倒れる直前に後ろへ飛び退き、地面に倒れ込みながら勢いに任せて転がる。単純に倒れるよりもコボルトキングとの距離が離れることとなり、その空いた場所に再度豪腕が振り下ろされた。


「助かったグラム!」

「お礼は後にしろぃ! それよりもこうして前に出てきたって事は何か考えがあるんだよな! あると言ってくれ!!」

「……どうしようっか」

「やぁっぱり考え無しかど畜生!?」


 そうこうグラムと言い合っている内にコボルトキングの咆吼が空気を震わせた。


「────ッ!」

「相棒! こうなった以上、少しでも萎縮しびびったら一気に追い込まれるぞ! 気ぃ入れて踏ん張れ!!」


 後ずさりしそうになる足だったが、どうにか踏みとどまる。


 怯まない俺に対してコボルトキングはもう一度吠え、腕を振り上げながら突進を仕掛けてきた。


 巨体に似合わぬ──いや、巨体だからこその筋力から繰り出される突撃は凄まじい速度だ。グラムの言うとおり、萎縮していたら反応が遅れていただろう。


 横に飛び退いて回避をしながら、すれ違い様に穂先を振るう。しかし、やはり返ってきたのは硬質な感触。刃が肉に食い込まずに表面をなぞるだけに終わった。


「硬すぎだろぉっ!?」


 銀閃の斬撃は、あれだけ容易く切り裂いていたのに!


 歯噛みする中、コボルトキングが我武者羅に腕を振るう。直撃すれば瞬時に俺の躯が物言わぬ肉塊へと変じる。俺は恐怖で縮こまりそうになる躯を必死で動かし、迫り来る巨腕を避けていく。


 その合間に何度も槍を振るって攻撃を仕掛ける。


 攻撃は届く。槍の持ち味である間合いの広さが、辛うじてコボルトキングの腕の長さを上回っているからだ。


 遠目からでは分かりにくかったが、コボルトキングの攻撃は速い。巨体故にのっそりとした動作と思いきや、間近でそれを振るわれていると銀閃の体術が俺の数段──数十段上のレベルに昇華されたモノだと身を以て理解させられる。これが剣であればとてもでは無いが反撃すらままならなかっただろう。


 ──だが、どれもがコボルトキングの表皮に阻まれて意味を成さない。


「おいグラムナマクラ! 刃ぁ通らねぇぞ!!」

「誰がナマクラじゃボケェェェェッッ!!」


 グラムに悪態をついていたところで本当のところは自身も承知していた。


 コボルトキングの攻撃を紙一重で回避し、なおかつ反撃をも可能としていたのは銀閃という傭兵の技量があってこそなのだ。それこそ、これまでずっと農民をしており、先日に傭兵になったばかりの俺では無理な芸当だ。


「やべぇ! キツネが!!」


 グラムが慌てた声を発した。


 そちらを見やれば、銀閃の元に複数の犬頭人コボルトがにじり寄っている場面だった。手負いになったことで銀閃を格好の獲物と判断したのだろう。


 銀閃はまだ足の怪我で立ち上がれないようだ。手に持ったカタナをどうにか犬頭人コボルト達に向けるが、表情は苦悶に満ちていた


「くそっ、けどこっちも手が離せねぇ──」

「相棒っ! ナイフ投げろ! 左目だ!」


 瞬時にグラムの意図を悟った俺は獲物解体用のナイフを腰から抜き取ると、コボルトキングへと投げ放つ。


 単純に投げただけでは軽く腕で払われるだけだったろうが、ナイフの切っ先はコボルトキングの潰れた左目へ向けられている。コボルトキングは左目を切り裂かれた痛みを思い出したのか、迫り来るナイフを仰々しい動作で弾き飛ばした。


「今だ相棒!!」


 グラムが声を発する前に俺は駆けだしていた。


 あわや犬頭人コボルト達が銀閃に飛びかかる寸前で、俺は両者達の最中に割り込む。


ねやぁぁ!」


 槍の間合いと遠心力を利用して、銀閃に近付いていた犬頭人コボルト達をまとめて薙ぎ払った。


「無事か銀閃!」 

「あ、あなたは──」


 振り返った先に膝を突いている銀閃は、怪我による出血で顔色こそ悪かったが、気はしっかり保っていた。


 安堵する間もなく、狩りを邪魔をされた犬頭人コボルト達が怒り狂ったように吠えると、俺に向けて殺到しだした。


「ちっ、いい加減に諦めてくれないもんかね!」

「極限の空腹とコボルトキングの命令で、もうまともな判断なんて出来ちゃいないだろうさ!」


 ただ単純に俺だけに襲いかかってくるなら良い。問題は銀閃に飛びかかろうとしている奴らだ。


 銀閃自身、動きは取れないが剣は振るえるようで、近付いてくる犬頭人コボルトをどうにか迎撃している。


 やはりその場から動けないだけあり一度に迎え撃てる数には限度がある。彼女が対処しきれない分を俺がどうにかフォローして犬頭人コボルトを叩き切っていく。


 そして──そのフォローが致命的な隙を産んだ。


「──ッ!? 相棒っ、後──」


 気が付いたときには巨体が背後すぐ側まで接近していた。銀閃に意識を向けすぎて、本当に危険な存在へ注意が逸れてしまっていたのだ。


 ──次の瞬間、俺の躯は力任せの豪腕に吹き飛ばされていた。

本日は二話連続で投稿します。

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