第二百九十話 また食料が不足しているらしい
「いや、流石にご都合主義が過ぎるぜ、ダーリン」
余程だったのか、リードが至極真っ当な言葉を差し入れてくる。
しかしながら、封印場所が不明である以上、この辺りに存在する可能性を一概には否定しきれないわけで。さりとて、仮に存在したとしても、厄獣が増加した理由との因果関係については見当もつかないわけで。
「あー、だめだ。わけわかんなくなってきた」
色々な考えがぐるぐると周り、俺が頭を抱えて悶々としていると。
「その心配には及びません」
「「うっひゃぁっ!?」」
「「────ッ!」」
前触れなく、直近から聞こえた声にキュネイとアイナが揃って悲鳴をあげて、俺の背後に回る。俺とリードはそれぞれ得物を掴み、即座に構えて警戒する。
どこからか、音もなく現れた声の主に警戒する俺たちであったが。
『安心しな。殺気の類はなさそうだぜ』
『zzzzzzzz…………』
グラムの楽観な声からして、俺たちよりも随分前に気がついていたようだ。あえて伝えていなかったのは、敵意が元からなかったから。スレイは相変わらず寝息を立てているが……こちらについては知らん。
相棒の言葉に、俺が黒槍の切先を下ろすとリードもそれに倣う。キュネイたちも恐る恐るであるが肩越しに顔を覗かせた。
よくよく見れば、ロウザの護衛衆だとわかる。隠密をする際に纏う装束を纏っている。ただ、俺たちがこれまで見てきた格好に比べると、少し細部が異なっていた。
「驚かせてしまって申し訳ございません」
「ロウザくんの護衛衆──の、一人で合ってるのよね?」
「…………ああ、これでは人相が分かりませんか。失念しておりました」
キュネイがおずおずと問いかけると、護衛衆はハタと気がつき、顔を覆っていた布に手をかけて下にずらす。すると、覚えのある顔が露わになり、俺たちは驚いた。
「あなたは、コマリさん?」
「はい。ロウザ様が登城した際、皆様をご案内させていただきましたコマリでございます」
初対面の時にはロウザに心酔するテンション高めのおっさんといった風であったが、装束姿で現れた今は落ち着きを宿し、どこかしらの貫禄すら漂わせている。
「不肖の身ではございますが、このコマリ。ロウザ様付き護衛衆の棟梁を任されております。改めまして皆々様、以後お見知り置きを」
頭を下げるコマリ。それを一瞥してリードはミカゲに視線を投げた。先ほど、俺とリードが迎撃の構えをとっていたところ、ミカゲだけは警戒していなかったのだ。
「銀閃、お前知ってたのか?」
「当然でしょう。棟梁殿がこちらに赴いていたのは驚きましたが」
ロウザの身辺警護を務めていたのだ。護衛衆についても知りえていて当たり前か。
「先日は慌ただしく、ろくなご挨拶もできずじまい。今は他の人足も離れておりますれば、ちょうど頃合いかと存じまして」
「どういうことでしょうか、コマリ殿」
「ユキナ殿の懸念である災厄の封印場所について。少なくとも、この近辺に存在しないことは調査済みでございます」
少なくとも現時点までにそれらしき場所や、妙な動きのある場所は確認されていないと言う。
「護衛衆が如何に手練れでも、人数には限りがあるはず。調べ切れるものなのですか?」
アイナの最もな指摘だが、コマリは微笑する。
「確かに、全てを網羅するほど、われらの数は多くはございません。けれども、限られた手数でも、やりようはいくらでもあります」
護衛衆であると身の上を明かさずとも、噂話や伝聞を集めるのに十分な伝手がある。庶民から人望の厚いロウザの配下だけあって、逆に庶民から話を聞き出す術を心得ているのだ。
ランガが俺たちに話を持ち込んだ時点で、護衛衆は即座にこの辺りの調査を開始。目立った人の動きや物資の流れがないかを速急に調べ上げた。その結果、厄獣が増加したという一点を除けば、これまで通りで目立った変化はなかったのだ。
「いかに将軍様が操る手練れの隠密であろうとも、そこから生じた余波を完全に消し去るのは不可能でございましょう。たとえ微々たるモノであろうとも、その地に根付く者たちから隠しようはございません」
「あるいはこれもロウザのやり方ってわけか」
全てを己の手でこなすのではなく、任せるべきに任せて、事なす手腕とでも言えるか。怠けているように見えて、適宜適切な采配を振るって万事を成すのだ。
「ダーリンの懸念が一つ消えたのはまぁいいとして、お坊ちゃんを護衛する奴らの頭が俺たちの方に来ていいのか?」
「心配はご無用。ロウザ様の側にはゲツヤ殿の他に、我が衆の中でも腕利の者を控えさせております。ランガ様が古今無双の腕前であろうとも容易く遅れはとりますまい」
ついでに、ロウザ当人もゲツヤに負けず劣らずの手練れとくる。必要以上の心配は無用か。それに、何かあればグラムを経由してこちらに知らせがくるのだ。俺たちは俺たちの仕事に専念した方が良いだろう。
「あの……この辺りの調査を行ったのであれば、厄獣が増えた理由についても?」
「ええ、そちらについても手を回しております」
鷹揚に頷いたコマリが先を続けようとするが。
「デケェ親玉みたいのがぽこぽこ子供産んで、餌不足になってきてるとか?」
「おや、ご存知でしたか」
「前に似たような状況に遭遇したもんでな」
俺とミカゲは顔を合わせて頷きを交わす。彼女もどうやら俺と同じ考えに行き着いていたらしい。キュネイの方も思い至ったのか「あっ」と口元に手を当てていた。




