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side braver 1

この物語の勇者『レリクス』視点のお話です。



 僕の名前はレリクス。


 王都から遠く離れた田舎の村に住む、何の変哲も無い若者だった──この村にフォニア教の一団が訪れるまでは。


 彼らを率いてやって来たペインと名乗る司教から、僕は神によって選ばれた勇者なのだという。


 フォニア教はこの国でもっとも多く信仰されている宗教。この小さな村にも支部があるほどに大きな組織で、その影響力は国政にまで関わるほどらしい。そして、彼らの信仰する神は、勇者を選定する存在でもあるのだ。


 ──この世界には数百年に一度、『魔王』と呼ばれる災いが現れる。


 彼の者は平和な世に破壊と混沌を撒き散らし、世界は滅亡の危機に瀕する。


 それに対抗できるのが『勇者』。


 神に選ばれし希望の存在。


 人々の希望と命運を背負い、魔王を打ち倒す英雄。


 幼い頃から何度も聞かされているお伽噺。


 今でも信じられない。僕がその神に選ばれし勇者だなんて。


 けど、ペインさんは言っていた。


「貴方の右手には産まれながらにして痣があるはずです。それこそが、神に選ばれし者に刻まれる聖痕スティグマ。貴方が紛れもなく勇者である証明です」


 彼の言うとおり、僕の右手には痣がある。両親の話によると、僕を拾った時には既にあったという。


 そう、僕の今の両親は本当の親では無い。


 僕は幼い頃、雨の日に村の入り口に捨てられていたらしい。身元を保証するような手掛かりはほとんど無く、唯一幼かった僕を包んでいた布が凄く上等なものであっただけだ。


 捨て子だった僕を拾ってくれた両親は、僕を本当の息子のように接し、育ててくれた。村の人たちも本来なら外様であるはずの僕に優しく接してくれた。感謝の念が尽きない。


 いつか必ず、村のみんなに恩返しをしよう。ずっとそう思っていたのだけれど、自分が勇者であると知らされてその気持ちが揺らいでしまった。


 勇者である以上、僕は魔王と戦う運命にある。やがては魔王討伐の旅に出なければならないだろう。この村に留まり続けることは出来ない。


 ペインさんからは、自分たち共に王都に来て欲しい、と言われた。勇者として力を得るために必要なことなのだそうだ。


 思い悩む僕だったけれど、背中を押してくれたのは育ての両親だった。


「レリクス。お前を拾った時から、こんな日が来ると思っていたよ」

「父さん……」

「貴方はこんな小さな村で足踏みをしている暇なんて無いのよ」

「母さん……」


 父と母に後押しされた僕は、村を出ることを決意する。その事を村の皆に伝えると、激励の言葉を多く掛けてもらえた。


 まだ恩を何一つ返せていないのに、と漏らしたら村長が僕の肩を叩いた。。


「馬鹿を言うな。お前ほどこの村で立派な若者はおらなんだ。胸を張れ、レリクス。お前はこの村の誇りだ」


 村長の言葉に、話を聞いていた皆が一斉に頷いてくれた。僕は嬉しさのあまりにその場で泣き出しそうになってしまったが、勇者としてこの村を旅立つのならかっこわるいところは見せられない。目に力を込めてぐっと我慢した。


 ただ──その後に村長が続けた言葉が僕の頭にこびり付く。


「まったく……それに比べてユキナの奴は本当にまったく。集会にも顔をださんで何をやっとるんだ」


 ユキナ──村に住む僕と歳が近い青年。


 特別に仲が良いわけでは無かったけれども、僕にとっては単なる知り合いと断ずるには躊躇われた。


 あの人は他の村人と少し違う。僕にはそう思えて仕方が無い。


 特別に何かしらが秀でているわけでも無いのに、どうしても彼の行動は僕の目に付く。今回も、村人のほとんどは僕の話を聞きにこの場に集まっているのに、彼だけがこの場にいない。 


 村のみんなは、僕が勇者に選ばれたことを『誇らしい』と言ってくれるのだが、ユキナだけは前と変わらずにただの知り合いのように接してくる。実際にただの知り合いなわけなのだけれど──。


 ユキナにとって、僕は勇者であろうともただの知り合い。だけど、そう接してくる彼は僕にとって少しだけ特別な存在だった。


 ──僕はこれから王都に赴く。勇者として旅立つための力を蓄えるために。


 そして、その際に村人から一人従者として連れて行ってはどうか。初めての王都で知り合いが一人もいなければ心苦しいであろうと。


 だから、ペインさんにお願いした。


 ──ユキナを連れて行くことを。 


 

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