side braver4
今日から隔日で計五話をお届けする予定です
アイナ様の助力を得ながらも、僕はどうにか神殿の奥深くに納められていた『聖剣』を手に入れることが出来た。
台座に突き刺さった聖剣を握ると、握った右手の甲にある痣が熱を帯びながら光り出した。僕は熱に浮かされたような感覚に浸り、ほとんど無意識に近い状態で台座から剣を引き抜いた。
すると僕の耳に女性の声が届く。
『よくぞ参られました……今代の勇者よ』
その声を発したのは──他ならぬ聖剣であった。
──聖剣レイヴァ──それは言葉を喋る意思を持った剣でもあったのだ。レイヴァという名前も、『彼女自身』がそう語ったのだ。
レイヴァは勇者の武器であると同時に、勇者が勇者たり得るかを見極める為に存在しているという。
「僕は勇者として認められたって考えて良いのかな?」
『あなたが神に選ばれし者であるのは聖剣たる私が保証しましょう』
「そっか。僕の名前はレリクス。よろしくお願いします」
『よろしくお願いします、我が主レリクス』
──こうして聖剣レイヴァを手に入れた僕たちは王都に帰還した。
王都に帰ってくると、次に待ち受けていたのは大規模なパレードだった。僕が聖剣に勇者として認められたことを祝したものだという。
王都に着く直前に、移動用の馬車から式典用の天蓋が開いた豪華な馬車に乗り換えさせられた。ついでに、服装も鎧姿から正装に着替える。アイナ様の姿も、機能性を重視した服装から式典用の豪華なドレスに変更だ。
聖剣を納めるための鞘も用意されていた。生憎と神殿には聖剣はあったが鞘が無かった。これまでは適当な布にくるんでいたのだ。
「ほれ、こいつが鞘じゃ」
馬車を乗り換える時に、たっぷりの髭を蓄えた老人が鞘を渡してくれた。王都で一位二位を争うほどに優秀な鍛治士らしいが、確かに聖剣を納めるに相応しいほど美しいものであった。
──正直に言うと、老人の髭もじゃ具合からは全く想像できないくらいの出来映えである。
「文献に残されていた形を元につくっとるが、なにぶん聖剣ってぇのを見るのは生まれて初めてだからな。とりあえず剣を納めて確認してみてくれ」
老人に促されるままに僕は聖剣を渡された鞘に収めた。
『ふむ。私の制作者には劣りますが、それでも人間としてはかなりの腕前のようですね』
鞘に収まった聖剣が僕だけに聞こえる声で呟いた。どうやら鞘の居心地(?)に不満はなさそうだ。
それから簡単な打ち合わせを経てパレードが開始した。
とはいえ、僕の役割はそう多くない。天蓋の無い馬車に乗って街の人たちに笑顔を向けながら手を振れば良いとのこと。そして、街の中心部──人の一番集まるところで聖剣を抜きその存在を示せば良い。
王都の正面門が開き、僕を乗せた馬車は街中に入る。
待ち構えていたのは衝撃すら伴いそうなほどの大歓声だった。紙吹雪が舞い散り、音楽が奏でられ、パレードが開始した。
「勇者様、手を振ってあげてください」
アイナ様は人々にやんわりと笑みを向けながら、僕だけに聞こえる小声で囁いた。言われるがままに、どうにか表情筋で笑みを作り、ぎこちない動作で手を振る。おそらく、今の僕は盛大に顔が引きつっていることであろう。
『いつの世も、勇者を政治の道具として使う王族の考えは代わりありませんね。ですが、今後の活動を円滑に進めるため、多少の柵を加味しても権力者の後ろ盾を得るのは間違いではありません』
レイヴァの淡々とした物言いに僕は柄頭をぽんぽんと叩いた。まだ知り合って間もない仲だが、彼女が凄く真面目な気質をしているのは分かってきた。
そうしてパレードが続き、ようやく笑顔を人々に向けることに慣れると、偶然にも知っている顔を発見できた。
ユキナだ。
彼は両手に露店で購入したであろう食べ物を満載しながら歩いていた。彼はちらりとこちらを向くと、すぐに興味を失ったかのように視線を外した。
パレードに目を向けずに道を歩いている人は他にもたくさんいる。けれども、僕の目にはユキナが『勇者』というものに心底興味を抱いていないように見えた。
──本当に、相変わらずだな。
ユキナは僕に興味が無かったとしても僕はユキナに興味を持った。正確には彼の背中にある細長い物体──一本の槍が僕の目を引いた。
村でも、周囲が剣ばかりを使う中、ユキナだけは好んで槍を使っていた。けれども彼が今背負っているのは村で使っていた槍とは全くの別物だ。僕が神殿に行っている最中に王都で購入したのだろうか。
『──あれはっ……』
(レイヴァ?)
『…………いえ、何でもありませんマスター』
今までに無い動揺を含んだレイヴァに首を傾げたが、そうこうしているうちにユキナの後ろ姿が人混みの中に消え見失ってしまった。
パレードが終わり、身辺が少し落ち着いたら話に付き合って欲しいと思う。
実は聖剣の鞘を作ったのはユキナに槍を売ったあの爺だったりします。




