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第二百三十五話 いつものように

感想欄で気がついたのですが、二つ前の話で終盤の描写がまるッと抜けて話が飛んでいたような事態になっていたことが発覚しました。既に修正しましたが、まだの方がいましたらそちらをお読みだくさい。


「っしゃぁぁっっ!」


 腹から生じた気迫を喉から発し、迫り来る氷結の波を横薙ぎで粉砕。その奥には錫杖の先端をこちらに向けるロウザの姿。だがその側には人の背丈ほどもある鋭く大きな氷塊が浮かび上がっている。


「グラムッ」

『合点だっ!』


 細かい軌道修正は相棒(グラム)に任せ、俺は大まかな当たりを付けて黒槍を投射。ほぼ同時にロウザも氷解を射出。


 互いの先端同士が衝突すると、黒槍はそのまま氷塊を砕きながら直進。けれどもその射線上に目標(ロウザ)の姿はいなかった。


『斜め後ろ!』


 首筋にヒヤリとした冷たさを帯びるのと、グラムの警告が重なるのはほぼ同時。咄嗟に振り返れば、ロウザはまさしくグラムが指摘した通り、斜め後ろの──空中で錫杖を構えていた。


 厳密に言えば宙に浮かんでいるわけではない。ロウザの足元には氷の足場が地面から続いて伸びている。氷塊が砕けた時の破片を目眩しに、氷結の波にのって俺の背後を取った。


 理解が及ぶ前に、ロウザが足場から踏切り、上空からの強襲を仕掛ける。俺は腰に手を回し、大鉈を引き抜き迎え撃つ。ロウザの振るう錫杖と鉈の刃がぶつかり合う。だが飛び散ったのは火花ではなく氷の破片だ。


「並の得物であれば断ち切るつもりであったが、見事な業物だ」


 奇襲に近い一撃を防がれたというのに、ロウザは俺の大鉈に関心を寄せていた。その手にある蒼錫杖の表面は氷結に覆われており、まさしく半透明の刃を形成していた。鉈ではなく腕で受け止めていればザックリと切り裂かれていたに違いない。


「うらぁっっっ!」


 そのまま大鉈を振り切るが、ロウザは空中で軽やかに舞い上がる。俺の力に争わず綺麗に流された感覚だ。構わず俺は駆け出す。狙い目はロウザの着地際。


氷結付加(エンチャント)


 ──ガギンッ。


 大鉈による横からの叩きつけは、ロウザに届く前に地面から生じた氷結の柱によって遮られる。ご丁寧に、力が最大限に乗る直前の位置だ。


「流石にそれは温いぞ、黒刃」


 ロウザは錫杖を持つを引き絞り、刺突の構えを取る。攻撃した直後の俺にそいつを避ける暇はない。そして避けるつもりもない。


「だろうなっ……魔刃よ、来いっ!!」


 大鉈は囮。本命は手元に呼び戻した黒槍の上段。が、ロウザは身を引き叩きつけを回避。黒槍はあえなく空を切る。


召喚コールをまさかそのように使うとはな! ますますやるではないか!」

「楽しそうだなお前っ!? どういう反射神経してんだよっ! 今のは当たるところだろ!」


 妙に盛り上がっているロウザに、反射的に文句をぶつける。


 傭兵となってから、人間を相手に切った貼ったの戦いをした回数は幾度となくある。人外も加えるとこれで中々に場数を踏んでいると自負がある。これまで楽な戦いなど存在していなかったし、大体は俺よりも格が上だったりなんだりと、思い返すとよくも今日まで生き残れたものだと我ながら感心してしまうものだ。


 ただそうした経験の中にあっても、ロウザはこれまで戦ってきた中では最もやりにくい相手であった。


 リードは蛇腹剣の間合いと手数で一気に流れを掴み取っていくタイプであった。一方でロウザは、変幻自在な氷結を駆使してこちらの調子(ペース)を崩していくタイプだ。


 既に決闘が開始して数分が経過しているが、どうにも攻めきれていない。今の攻防に限らず、あの手この手を使い好機(チャンス)を作るまではいいのだが、そういう時は決まってロウザが異様なほどに素早い反応を見せてくる。


 今の振り下ろしだって、黒槍を呼び寄せた時点でロウザは既に動き始めていた。


 異国の言葉でこういうのを確か『暖簾に腕押し』ってやつだったか。間合いに入って力で押し込もうにも、最大限に発揮する前に上手く逃れられている感が強い。


『その諺、サンモトが発祥らしいぜ』

「いらねぇ補足をどうもありがとよっ!」


 いつものことではあるが、相手に勝る点が膂力の一点しかないのは本当にどうしようもないな。おかげでこちらの攻撃を届かせるのにも一苦労だ。力押しというのは案外頭を使うのだなと、常々実感させられる。


『んで、どうすんだ?』


 投げ槍戦法は黒槍を投げ放つ性質上、連発できない。大物相手には非常に有効的な攻撃手段には違いないし、手元に呼び戻せるから弾数も無制限に近い。しかしながら、ある一定以上の技量を持っていたり速度を有している相手となるとまず当たらない。あるいは先ほどのように手元にないと見せかけるような奇襲に使えるかどうか。あえなくそれも不発に終わった。二度目以降は通用しないだろう。


「どうするも何も、突っ込むしかねぇだろ、いつものように!」 


 ──であれば結局、間合いに入って黒槍でぶん殴るしかない。


 はっきり言って、考えなしの愚策に近い戦法ではあるが、案外それほどに悪いものではないと思っている。


「かっかっか! そう来なくてはな!」


 ロウザは待っていたと言わんばかりの叫ぶと、幾つもの氷結を出現させ俺に向けて射出する。戦ってきた感触として、一つ一つの強度はそれなりだが、黒槍で砕けないほどではない。しかし、飛んでくる数が相当であり全てを迎え撃つのは難しい。


 俺は僅かに足を止め、大きく黒槍を振りかぶる。


重量増加エンチャント!」


 氷結がこちらに届くよりも先に、自身の目の前にある地面を全力で叩きつければ、地が派手に割れ、土砂が舞い上がる。その衝撃たるや、飛来する氷結の勢いを殺し無効化するには十分であった。


「ぺっぺっ、ちょっと口に入った!」


 口内にジャリジャリとした砂の感触を噛み締めながら、ロウザへと突っ込んだ。


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