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第二百三十二話 決闘当日──大盛り上がりしてるんだが?


 決闘の当日。


 場所は、王都の近郊に設置された模擬専用の施設だ。


 施設とは言うが、元々は対厄獣として設置された砦。だが破損と老朽化によって放棄され、それを組合が買い取り、改修したのがこの施設だ。傭兵同士の諍いや実力試し等で利用され、観客用の席も用意されている。


 とは言うが、今回の決闘は傭兵でもないロウザとの一騎打ち。現地に集うものは互いの身内ないし仲間に限られる。


 本来なら、これだけの面子でひっそりと行うはずであったが──。


「なんでこんなにその他大勢(きゃく)が多いんだよ!」


 俺はカランの胸ぐらを掴んでガクガクと揺らした。


 模擬戦を行う中央部を囲うのは人人人と、お呼び出ない者たちが明らかに多かい。外側には所狭しと席が設けられ、それらを目当てに店まで出ている。


 前日から、目的地に向かう際には組合が用意する馬車に乗るようにカランから指示を受けていた。ご丁寧に宿の前には客室があるタイプの馬車が止まっていた。乗り込んで現地に向かう最中、何気なく外を見れば馬車と同じ方向に歩くものがチラホラと。多くは同業者(ようへい)であったが、そうでない者もいた。


 で、模擬戦場に到着したらこの盛況ぶりだ。


「ふざけんな! 分かってんのか!? こちとら珍しく真面目(シリアス)十割で来てんだよ! 見せもんじゃねぇんだよ、あぁぁん!?」

「ちょ、ユキナくん。落ち着きなさいって! 気持ちは分かるけども!」


 不良(ヤンキー)さながらカランへ詰め寄る俺に、キュネイが肩に手を置きながら待ったをかけてくる。僅かばかり落ち着きを取り戻した俺が襟首から手を離すと、カランはホッと息を吐きながら胸元を正した。


「……事前に知らせなかったのは申し訳ない。ただ、これは組合(われら)としても本意ではないことだけは、分かってほしい」

「こちらを納得させられるだけの理由があると?」


 落ち着いてはいるものの心境としては俺と同じか、静かな圧を醸し出すアイナ。何せ仲間の行く末が決まりかねない大事な一線なのだ。それを見せ物にするだけの理由があるのか。


 カランは頷いて返すと口を開いた。


「この決闘についての情報が漏れ出したのが切っ掛けだ。しかも行われる場所までなぜか特定される始末。詳細を聞く為、組合の職員を質問責めする傭兵が後を立たなくなるほどだ」

「どこのバカだよ、喋ったのは」

「噂の出所を探るには流石に時間が足りなかった」


 決闘の約束は一週間前。その数日後には噂が広まり始めた。これだけの短い期間で調べるのは無理があるか。俺も他のみんなもほとんど外出していなかった為に、噂が知れ渡っていたのも全く気が付いていなかった。


「事情を知らぬ外野が好き勝手に騒ぎ立てるのは君たちも良しとしないだろう。妥協案として、組合が主導する模擬戦という形で公示したんだ」

「……どうせ騒ぎになってしまったのなら、せめて管理できる範囲に留めておこうという訳ですね。妥当な判断だと思います」

「納得いただけて何よりだ」


 アイナの静かなる圧が収まると、カランがほんの小さく胸を撫で下ろしたのを俺は見逃さなかった。経験豊富の組合幹部であろうと、王族仕込みの威圧は少しばかり厳しかったらしい。


 つまりは無作為に放置するよりかは、公にして統率を図ろうというのだろう。椅子やら机やらが元からあるのも、こうした大騒ぎの際に利用する為に用意されているものだ。奇しくも、この模擬戦場を使う面目に即した事になる。


「……まぁ、百歩譲ってそれは良いとして、だ」


 俺は盛り上がっている客の一角に目を向けた。


「さぁさぁ賭けた(はった)賭けた(はった)! ここ最近で一番の大勝負! 今王都で最も勢いのある傭兵『黒刃』と、遠路遥々やってきた異国の戦士『氷獄(ひょうごく)』の一戦。しかも噂じゃ勝敗に女が掛かってると来る! この勝負に乗らなきゃ男じゃないね!」

「失礼な! 女の傭兵もいるわよ!」

「俺は黒刃に賭けるぜ!!」

「こっちは凍獄だ!」


 遠くからでも聞こえるほどの大盛況ぶりを見せているのは、俺とロウザの勝負を使った賭博であった。


「この際だから騒ぎ自体は諦めるけど、組合的には大丈夫なのか、賭け事(ああいうの)は」

「常識の範囲内でなら黙認もするさ。かくいう私も現役時代に覚えがない訳でもないからな。あまり厳しく言える身でもない。悪辣な類であればそれなりの対応はさせてもらうが」


 傭兵というのは荒くれ者が多いが、つまりは騒ぐのが大好きな連中だ。羽目を外しすぎない程度であれば放置しておいた方がむしろ安全だという。


『相棒、あの胴元、よく見な』


 何かに気がついたのか、グラムに言われて俺は改めて賭博の中心になっている人物に目を向ける。今も周りを囃し立てて賭けを大いに盛り上げているが。


『あいつ、ロウザの護衛やってる奴だぜ』

「はぁ!? マジかよ……」


 よくよく目を凝らすが、残念ながら俺には判別がつかなかった。そもそも、ロウザの護衛はほとんどが顔を隠して正体が掴めなかったのだ。だが、グラムが言うのであれば間違いはないだろう。


 ってことはつまり、ロウザ(あいつ)は自分の勝負を肴に賭博を仕切ってるのか。


「……どれだけ賭博好きなんだよ、あの若様」

『けど、これで筋は読めたぜ』


 何がだよ。


『憶測ではあるが、この騒動の発端はロウザだ。決闘のことを吹潮したのは奴だぜ』

「バッ────」


 思わず『馬鹿じゃねぇの!』と叫びそうになったところでどうにか自身で口を塞ぎ、喉奥で無理やり飲み込んだ。他のメンツが俺の一人芝居に首を傾げるが、「何でも無い」と手振り(アピール)してから、心の内でグラムと念話チャンネルする。


『単なる消去法だ。カランの部下が下手をするとも思ねぇし、相棒たちは考えるまでもねぇ。ってなると、バラしたのはロウザって考えるのが妥当さ。もっとも、触れ回ったのはやつの護衛(てした)だろうがな』


 ここまでくると、ロウザが単に賭け事で馬鹿騒ぎをしたいから情報を漏洩させたとは考えにくい。この決闘の如何は奴にとっても重要な意味を持っている。下手に茶化すはずがないのだ。


『それに関しちゃあちら(・・・)さんに実際の所を聞くのが良いだろうぜ。ほら』


 言われて目を配らせると、俺たちに近づいてくる一人の男の姿があった。

 

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