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side healer

路地裏のお医者さん視点


※本日は二本仕立てです(二本目)。

前話を読んでない方はひとつ前に戻ってください。

 

 私の名前はキュネイ。


 王都ブレスティアの路地裏で昼間は医者、夜は娼婦を営んでいる。


 路地裏稼業とは言え医者としての評判は悪くなく、そして娼婦としては、この王都の中では最高級の部類に属している。


 この王都で娼婦を営む女には幾つか種類がある。貧困で生活が厳しい家庭から、口減らしに売られてきた者。借金を背負いその返済に勤める者。働き口も無く身銭を稼ぐために仕方が無く女を売っている者。


 私はどれにも当てはまらない。


 日々の生活だけなら、実は医者での稼ぎだけでも十分に事足りた。幸いにも私は医療技術の他にも回復魔法がある。贅沢三昧さえしなければそれなりに余裕を持って生活できる。


 私には娼婦をしなければならない理由があるのだ。


 それは私にとって最大の秘密。


 本来なら、路地裏から出るのは薬の材料や食料を買い出しに行く時以外は避けたい。それも日の高い真昼から赴くなんていつぶりだろうか。


 けれど私は今、とある青年を腕を組みながら表通りを並んで歩いている。


 彼の名はユキナ。先日知り合ったばかりの青年だ。


 青年とは言ってもようやく大人に成長を始めた年頃で、まだ子供っぽさが抜けきっていない風だ。ただ、腕を組んだ感触は外見よりもずっとガッシリとしており、力強さが伝わってくる。そのギャップに少しだけ〝ドキリ〟としたのはここだけの話。


 これまでどれほどの男性と閨を共にしたのか。そんな女が年頃の娘みたいに胸を高鳴らせるなんておかしい話だ。


 ユキナ君と知り合ったその日も、客と別れて借りていた宿の部屋を出た直後だった。


 間借りしていた娼婦宿の部屋の後始末を宿の受付に頼んだとき、そこで受付にいたのがユキナ君だ。どうやら受付の人と話をしている最中に私が現れて、いわゆる〝一目惚れ〟をしてしまったらしい。


 ──お姉さん、俺の初めての相手になってください!


 あの時に叫んだ言葉は今思い出しても笑ってしまう。


 けど、あれだけ真っ直ぐと言葉をぶつけられたのは久しぶりだった。


 彼のように田舎から出てきたばかりの男性ひとが私に相手・・を申し込むのは初めてではない。けど、私を〝買う〟為の値段を聞いて誰もが肩を落として諦めていった。気の毒ではあるけれど、こういった商売をしている以上、値を下げるとは己の価値をも下げる事に繋がる。


 でも彼は違った。


 決して『私』を諦めようとせず、今必死になって資金を稼いでいる。しかも、危険を伴う『傭兵』となって。


 医者として、大怪我を負った傭兵の治療をしたことがある。中には回復魔法を使っても完治できないような大怪我を負い、引退を余儀なくされた者もいる。


 そして、治療の甲斐も無く命を落とした者も──。


「……どうしたキュネイさん。もしかして調子悪かったりするのか?」


 心配そうに聞いてくるユキナ君。どうやら気持ちが表情に出ていたらしい。


「ううん、何でも無い」


 駄目ね──と内心に言い聞かせながら私は首を横に振った。


『そこまで危険な相手には手を出していない』とユキナ君は口にしている。事実、傭兵稼業を始めてから何度か私の診療所に来ているけれど、大怪我を負ってきた様子は無い。あっても軽い切り傷程度だ。おそらく問題ないのだろう。


 これでも何人もの男性を相手にしてきたのだ。人を見る目は多少あるはずだ。


 ユキナ君は変わり者であるのには間違いないが、無鉄砲ではない。リスクとリターンをちゃんと計れる人だ。私を〝買う〟という目的の為に、己に出来る最大限を把握して傭兵稼業に勤しんでいる。余程のことが無い限り、無茶な行動には出ないはず。


 折角のデートなのに暗いことばかり考えていては、誘ってくれたユキナ君に失礼だ。


 どうせなら楽しまなければ。


 私はそう思い、ユキナ君の腕を抱く力を少しだけ強くした。


 あ、顔が真っ赤になった。


 ──予想に反してというの少し失礼かも知れないが、道中デートは特に奇を衒った内容にはならなかった。


 てっきりユキナ君の事だから私をびっくりさせるような何かしらが用意されていると思っていたのだけれど、案外そんなことも無かった。普通に露天商を冷やかしたり、屋台の食べ物を食べたり、当てもなく街を歩き回ったり。


 けど、楽しくなかったと聞かれればそんなことは無い。


 むしろ、そう言った〝当たり前〟のような雰囲気がとても心地よいものであった。


 可笑しい話だ。


 この躯は既に男性に幾度も抱かれているのに、まるで初心な年頃の女みたいのように今の状況デートを楽しんでいた。


 これも、ユキナ君のせいおかげだ。


「……どうして人の顔を見ながらニヤニヤするのですかね」


 ユキナ君の困ったような顔をした。彼には悪いが、その顔が不思議と可愛く見えてしまい、私はクスリと笑った。


 だど、今が楽しければ楽しいほど考えてしまう。


 ──ユキナ君が『本当の私』を知ってしまった時、果たして彼はどう受け止めるのか。

  

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