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第二百九話 旗が一本立ちました


「ここで話を戻させていただきますが──ロウザ様は将軍様の正室様の子ではなく側室様の子です。その上、産まれた時期も、正室様の子を含めて上から数えて三番目です」

「ん? ロウザのやつ、確か嫡男って名乗ってなかったか?」

「嫡男とはロウザ様の場合、長男という意味ではなく『後継』の意味です。上に二人の兄上殿たちがいるにも関わらず、将軍様より継承者として選ばれたのです」


 戦乱が長く続いた国を平定したというエガワ家。その跡取りともなれば、責任も重大に違いない。伊達や酔狂で選んで良い立場ではない。


「遊び呆ける馬鹿息子がまだマシに見えるくらいに、将軍家の子供がやばいのか……じゃなけりゃぁ」

「それを加味してもロウザさんが優秀だということですか」


 ミカゲを仲間にしている俺を誘い出すために、ロウザの一行は厄獣の被害を偽装していた。かなり無茶で博打な点はあったものの、そこからの後始末は何だかんだできっちりとカタを付けていた。


「一見すれば思いつきで事を起こしているようでいて、あの方の行いには必ず意図があり着地点が存在しています。それは今回のことでユキナさまも感じられたはずです」


 後先考えずではなく、落とし所を最初から用意していた。破天荒に見えて、どこか冷静な面があるのかもしれない。


「更には、剣の実力は我が兄ゲツヤに勝るとも劣りません。我がシラハ家が営む剣術道場では、免許皆伝を得た兄者に次ぐ実力者です」


 皆伝(かいでん)


『道場主が弟子に対して、教えられる技術を全部教え切った時に与えるもんだ。師匠からのお墨付きみたいなもんだよ』


 グラムの補足を頭の隅に留めながら、ミカゲの話に耳を傾ける。 


「残念ながら私は、皆伝の許しを得る前に家を飛び出してしまいましたが……」


 どことなく自虐的に響くのは、口にするミカゲの表情が曇っていたからだ。やはり、故郷での記憶は彼女にとって影を落としているのだろう。


「って、性能(スペック)高ぇなロウザの奴。家柄もよく剣の腕も立つ上に頭も回るって……ちょっと欲張りすぎねぇか」

「あら、もしかして嫉妬しちゃってる?」

「羨ましいとは思うが、そこで不貞腐れても仕方がねぇのは分かり切ってるからなぁ」


 キュネイが揶揄いの視線を向けてくるも、昔から身近にその手の優秀な奴がいたためか極端に悪い感情は浮かんでこない。多少の嫉妬はあるけれども、それを軽く口にできる程度だ。


 ただし、それとはまた別に、ロウザには気になる点がある。


『あの(あん)ちゃんがヤベェやつだってのは、相棒もわかってんだろ』


 グラムに改めて指摘されるまでもない。


 正体を隠したゲツヤとミカゲが切り結んでいる最中、ゲツヤに隙を作った俺は間隙を入れずに追撃を入れようと黒槍を振るった。だがそれは、ロウザが間に割って入る事で防がれた。


 俺だって傭兵になってからそれなりに場数も踏み、修羅場も潜り抜けている。己よりも素早い相手との戦闘も経験も積んできた。


 何よりも、日々の鍛錬でミカゲと幾度も手合わせしてきている。体の反応が追いつかずとも、辛うじて目が追いつくようにはなってきた。よく見失いはするが、負けたとしても己がどうして負けたか判別がつく程度には養われてきたはずだ。


 なのに、ロウザが錫杖で黒槍を防いだ瞬間。


 今思い返してみても、まるで気配がなかった。


 正真正銘、気がついた時には目の前に忽然と出現していたとしか表現のしようがなかった。


 加えて、黒槍そのものを受け止められた点も無視はできない。


 重量増加エンチャントで日々鍛えられている俺の膂力は並大抵ではない。自分で言うのも変な話だが、今の俺の力を受け止められるやつなどこの王都にだってそうはいない。なのに、その俺の打ち下ろしをロウザはがっちり受け止め切っていたのだ。硬い金属に跳ね返されるような感覚を味わったのはいつ以来だろうか。


『どう考えたって、舐めて掛かれる相手じゃぁないぜ』


 あの蒼錫杖が黒槍と同じような性質を持ち合わせているのであれば、何らかの特別な能力を秘めていると考えていいはず。違和感の正体がそれ(・・)かは不明だが、相手取るなら一筋縄で行かないのは確実だ。


 できる事なら、矛を交える機会はあれっきりにしてほしいもんだが。


『旗が立ったな、この瞬間に』


 やかましいわっ。


「剣術道場に通っていたという割には、ロウザさんは剣を持っていませんでしたね。護衛の方々がいるというのもあるかもしれませんが」

「それはおそらく、あの錫杖を持っていたからでしょう」


 アイナのもっともな意見に、ミカゲはちょうど俺が考えていた錫杖について触れていた。


「あれはエガワ家に代々伝わる宝具『トウガ』。歴代の当主に継承されるもので、当主の証であると同時に武具でもある。かつての戦でも、エガワ家の歴代当主はあの蒼錫杖を振るって戦場を駆けていた──と聞いています。残念ながら、これ以上のことは詳しくは知りませんが」


 トウガが自身を『当主の証』と高らかに宣言してたからな。俺とグラムしか聞いてないのに。おそらくミカゲの話は事実なのだろう。


『ってことはあれか、歴代の当主ってのもあれくらい破天荒だったのかね。よくもまぁあれで王様になれたな。よほど周りが優秀だったか、当人がずば抜けて優れてたのか』


 さっきの俺たちと同じような意見を今度はグラムがぼやいた。



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