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第百九十四話 慕われていたようですが


 リードと一夜と少しを共にした俺を出迎えたのは、リード傭兵団の団員たちによる熱烈な歓待であった。昼過ぎの頃合いに部屋をでた俺は、水浴びで汗を流したわけなのだが、戻ってきた俺を団員たちが出迎えたのだ。


 少し驚いたのは、傭兵団の団員たちが全員、リードが女性であることを知っていた事。一部の者で共有された秘密とばかり思っていたのだ。


「うぅぅぅ……ようやくリーダーにも春が訪れたのか」

「姉御は一生男とは無縁だと思ってたけど……本当に良かった」

「「「万歳ッ! 万歳ッ!!」」」


 あまりにも予想外すぎる反応に、俺は逆にタジタジだ。殺意を向けられたり喧嘩をふっかけられるなら分かるが、真逆の反応で来られるとは考えもしなかったからだ。中には感激のあまりに泣き出す輩までいる始末。予想外すぎる反応に俺もタジタジだ。


 抗争時に団員たちの動きはスムーズであり、アイナの目からしても非常に高い練度であったという。リードがただの暴君ではなく、傭兵団をしっかり統率できている証拠だ。


 ただ、ここまで強く慕われているのが意外であった。


「リーダーは、誤解されやすいが、あれで団員(おれ)たちの面倒見は本当にいいんです。しょっちゅう手が出ますけど」

「そもそも、俺たちみたいな傭兵の中でも更にはみ出たような奴らが飯を食えてるのも、姉御が見かねて傭兵団に引き入れてくれたおかげなんすよ。すぐに手が出るけど」

「しかも、きつい仕事は任されてもできねぇ仕事を回さねぇ。任務でヘマして怪我した時なんか、治療費の代わりに報酬に色もつけてくれたりもする。あ、もちろんわざとやらかすような馬鹿野郎はうちにはいねぇがな。理由なく手がてたりもするけど」


 リードのいいところを上げさせたら出てくる出てくる。ついでに暴君であるのは割と間違いではなかったが、慕われるタイプの暴君ではあるらしい。


 俺らと初めて接触した時のような場合を含めて、細かいところではちょくちょく問題を起こしたとしても、後に引きずるような大きな悪さは絶対に起こさないのがリード傭兵団の信条(ポリシー)なのだという。この辺りはリードが徹底しているし、団員たちも不満なく従っている。


「意外っつーか違和感っつーか、そうも真面目にできるわけなのか?」

「俺たちは、暴れられて良いもん食って美味い酒飲んで、たまに女があれば満足できちまう程度には屑ってぇ自覚がある。その辺のことをリーダーはよく分かってるのさ」


 リードも傭兵でなければ反社会(はぐれ)側に立ってるような人間だ。それだけに同種の人間の事をよく理解できるのだろう。欲を満たせてさえいれば、不満を他に漏らすことも無く、社会に馴染むことができると。


「つっても、腕が立っても正真正銘の屑野郎を入れない辺り、人を見る目があるのも姉御のすげぇところだな」


 ごく稀に、リードの名を傘に来て好き放題したいだけの輩が団入りを希望する事があるが、ほぼ例外なくリードが直々にボコボコにした上でゴミ捨て場に捨てるらしい。


 喧嘩っ早く暴力的なところはあれど、傭兵団の運営は信賞必罰を是とし、強欲さえ除けばリードは筋が通った人間であった。


 もっとも、その強欲が最大の問題で、これがリードが一級傭兵に昇格できていない大きな理由の一つでもあるという。


「一番やばかったのが依頼主だった貴族の娘さんにリーダーが見惚れて、依頼料を半額にする代わりに一夜を寄越せって話でしたかねぇ。相手の娘さんもちょっと乗り気だったからまぁまぁ荒れましたわ」

「そりゃぁ荒れるだろうよ。何やってんだよあいつ」

「最終的に傭兵団(おれら)側で慰謝料だか迷惑料だかを払ってことなきを得ましたが、大赤字でしたよ。それも含めてリーダーは結果に満足してましたが」


 とまぁそんな感じのヤンチャ気味な団長様であったが、そういったところもまた団員たちには魅力の一つとして映っていたのだと。


「そんな頼り甲斐のある姉御でしたけど、だからこそ心配だったんですよ。あんなに美人で器量もあるのに、本人はとんと男に興味が無くて。もっぱら女ばっかり宿に連れ込むもんだから、このままじゃ貰い手がねぇって団員一同心配してたんでさぁ」

「それ、本人に言ったか?」

「言ったら半殺しじゃ済まないでしょうが!」


 だよなぁと、納得するしかなかった。リード当人もこれまで男を求めることは無く、俺が初めてであると告げていた。彼らの気持ちも分からなくもなかった。


「でもよ、みんなの大好きなリーダーちゃんが俺みたいな奴と──あれやこれやするのは良いのか? ぶっちゃけ、俺はお前たちと一戦やるかなぁくらいは思ってたぞ」

「リーダーの相手がそこら辺の野郎だったら、俺たちは意地でも認めなかったさ。けど、あんたは違う。リーダーが認めるほどの男には違いなく、俺たちはあんたの戦いぶりを見てるんだ。カルアーネ本陣にまで出張った奴らはあんたがデケェ剣を使うところまでな。あんなのを見せられちゃぁ、納得するしかねぇだろうよ」


 治療を終えベッドから起き上がれるようになったリードは、祝勝の宴が始まる前に団員を集め、キュネイに告げられた提案を一同に伝えた。団員たちが思いの外にすんなりと受け入れたことに彼女自身も驚いたようだった。


「俺たちのリーダーが認め、惚れ込んだ相手だ。今更、何の不満はねぇ」


 この場に居合わせたリード傭兵団に属する全員が、昨晩のジンギンファミリーのように一斉に頭を下げる。


姉御(リーダー)をよろしくお願いします、ユキナの旦那」

「昨日もあったなこれ」


 こうして俺はジンギンファミリーに続いて、リード傭兵団まで傘下に収めることになるのであった。


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