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第百八十六話 殺すつもりだが死んでは欲しくないらしい


 スレイがグラムと似た様な武具であるのなら、蛇腹剣には『その先』があることを何となくは察していた。いつかのグラムと同じく祝詞(のりと)を奏でたところでもう確信的だ。果たしてどんな姿が出てくるかと思っていたら。


「最初の時点で首を縦に振らなかったのは間違いだったなぁ! この姿になったらもう止まれねぇ。テメェがもはや誰のものか、心底身に染みるまで徹底的に刻んでやるよぉ!」


 リードの叫びに反応し、巨大化した蛇腹が暴れ辺り一面を破壊していく。もはや喧嘩もなにもあったものでは無い。この場にいる全ての人間が、中心にいる俺たちから離れようと必死になって逃げている。


「もうこれ完全に厄獣(バケモン)じゃねぇか」


 状況(シチュエーション)的にはもはや、邪竜を相手にした時の全く同じだ。大きな違いという点では、俺の感情(モチベーション)があれほどにまだ高揚(たかぶり)を見せていないところ。そしてそれが一番致命的な部分でもあった。


『ヤベェな。『大魔刃』を意図的に発動できるほど、相棒はまだ慣れてねぇ。いつもは上手い具合にハマってくれるんだがな』


 直感的に分かっていた。目の前に現れた咬滅せし八岐大蛇(ダーインスレイブ)に対抗するためには俺も切り札(・・・)を切るしか無い。最大の問題は、その大事な札を俺はまだ自由に切れるわけではないことだ。


「うぉらぁぁ! 行くぞ黒刃! ぶっ殺すつもりで行くがおっ()ぬんじゃねぇぞ!」

「あいつもう言ってることめちゃくちゃだよ!」


 蛇腹──いや大蛇腹が一直線に俺へと奔る。速いは速いが迎撃できる範囲内。黒槍を下段から叩きつけて上へと弾き飛ばす。だがリードの()は複数ある。続けての攻撃を備えようと身構えたところで、


『馬鹿野郎っ、上から来るぞ!』

「ん?」と視線を持ち上げると、四つに枝分かれした大蛇腹が鎌首を持ち上げて先端をこちらに向けていた。リードが放ったのは四つの大蛇腹を一つに束ねたものだったのだと、今更ながらに気がついた。

「ぉぉぉぉぉおっっっ!?」


 鈍く光を反射しながら降り注ぐ四つの刃を黒槍の振りで纏めて大きく弾き飛ばす。


『次は下だっっ!』


 グラムからの警告と同時に、ザリザリと何かを擦る音が耳に滑り込む。飛び退くと足元から掬い上げる様に新たに伸びる二本の蛇腹が飛び上がる。上に意識を向けさせて、地を這う低空を直進した別の蛇腹が下から狙う。単純だからこそハマりやすい惑わし(フェイント)だ。


 ──ギュリンッ!


「んなっ!?」


 新たな音が手元からしたと思えば、他に比べてサイズが一回り小さい蛇腹が腕ごと黒槍に絡みついていた。まさか大きさまで変化できるのか。おかげで動きが制限される。


 そこへ本命とばかりに最後の大蛇腹が肉薄する。黒槍ごと絡みつかれた今の状態では大きく動けず回避することはできないが。


「舐めんなよっ、おらぁぁぁぁぁ!!」


 腰を落として両足を踏ん張り、力任せに黒槍を振るう。当然、蛇腹が絡み付いている分だけ重量が増すが、その動きは当然蛇腹の根本(リード)にも伝わる。刃が腕に食い込んで血が吹き出すが、気合いを込めて痛みを無視する。


「────ッ!?」


 俺の膂力(パワー)を甘く見積もっていたか、蛇腹に引っ張られ踏ん張りきれずにリードが体勢を崩す。拘束する力も緩み、加えて直進していた大蛇腹も根が崩れた影響で軌道が逸れたとこでどうにか刺突を回避する。


「このまま一本釣りじゃいっっ!!」


 黒槍に絡みついた蛇腹を使い、リードを引き寄せようとするが不意に槍に掛かっていた多さが軽くなる。絡みついてた蛇腹が解かれ、他の大蛇腹と合わせてリードの元に戻って行った。


「一本でかつ気が付かれない小さめにしてたとはいえ、咬滅せし八岐大蛇ダーインスレイヴの力に真っ向から競り勝つかよ。いよいよトンデモねぇなテメェは」


 リードは舌舐めずりをしながら笑みを溢す。対して俺は、蛇腹で裂かれた腕に回復魔法を掛けながら顔を顰める。痛みもあるが、それ以上に今の一瞬の攻防だけで、バエルと戦った以上にごっそりと体力と精神を削られていた。


『ぎゃっはっははははっっっ! まだまだいくぜぇぇぇぇぇ!!』


 スレイの声と共に、地面を抉りながら大蛇腹の群れが迫る。うねりを上げて蠢く蛇腹はやはり鞭に刃を連結させた形状。俺の目からは何本が同時に来ているのかが判別できない。


 なら──。


『俺が本数と方角を知らせる! 相棒は手前(テメェ)の事に集中しろい!』


 これまでに付き合いがあるだけに、瞬時にこちらの意図を読み取ってくれる。意識をグラムの声に集中し、黒槍を強く握りしめる。


『上二、前三、そこから左三! 戻って束で前から四は回避!』


 頭に響く声に従い、半ば無心になって槍を振るう。打ち合う感触的に、大蛇腹の一本一本はさほど驚異ではない。俺の膂力であれば正面からでも弾き飛ばせる。ただ複数本が束になると話は変わってくる。三本以上が束になると厳しくなり、四本となるといよいよ拮抗してくる。その辺りも加味してグラムが指示してくれる。


 ただ、グラムの索敵のおかげで迎撃はできるのだが、とにかく対応しなければならない数が多すぎる。八本の大蛇腹が入れ替わり立ち替わりで襲ってくるので一息入れる余地すらない。


『下──いや、地面からっっっ!?』


 グラムが驚きを発し、反射的に下に目を向けるも刃は見えない。が、直後に俺の足元がぼこりと盛り上がり、次の瞬間には地面から勢いよく蛇腹の切先が伸びる。まさか地中を掘り進んできたのか。


 顔を差し貫く軌道を上体を逸らし顔を背けてギリギリで避けが、頬がざっくり裂ける。避け方を謝れば目か口の中をガッツリ貫かれていたかもと心底ヒヤリとするが、背筋を凍らせている場合ではない。


「くははははははっっ、あははははははははっっっ!!」


 もはや戦いそのものを楽しんでいそうな笑い声を響かせながら、リードが八本の大蛇腹を振り乱す。時を置くごとに刃の荒々しさが増し、野生じみたものを感じさせていった。


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