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第十七話 お腹が減っているようですが


 レリクスの奴はどうやら無事に聖剣とやらを手に入れたようだ。これで、あいつは正式に勇者として認められるようになった。


 その事を記念して、王都では大々的なパレードが催された。もちろん、パレードの中心に居るのはレリクス。屋根の無い豪華な馬車に乗る奴の腰には、美しい装飾の施された鞘を帯びている。


 パレードの最中、丁度人が一番集まりそうな場所まで来ると、レリクスは席から立ち上がり、鞘から剣を引き抜き天に掲げた。太陽の光を反射して輝く刀身に、大衆の熱気は最高潮に達した。


 俺はレリクスが持ってきた聖剣よりも、パレードで集まった民衆を狙った屋台の方に関心が強かった。村ではこういった出店はほとんど無かったので、そちらへの興味が勇者パレードよりも強かったのだ。決して、レリクスの奴がどうでも良かったわけではない。


 ただ、今回のパレードで、レリクスの隣には噂のお姫様が同席していたらしい。生憎人混みの層に遮られて目にするのは叶わなかったが、少しくらいはお目に掛かりたかった。


 パレードが終わり、城に帰還した翌日からレリクスは聖剣を扱うための訓練を始めた。全く以て勤勉な奴である。


 そして俺は今日も今日とて森で狩りに勤しむ。


 目当てはやはりビックラットだ。


 順調に金も貯まってきており、このペースで行けば一ヶ月ほどで目標金額に到達するだろう。


 だが、実は懸念があったりもする。


「相棒、こいつぁちょいとおかしくねぇか?」

「やっぱりグラムもそう思うか」

「ここしばらく他の依頼とかもチラ見してきたが、稼ぎが良すぎらぁ」


 本来ならば手放しに歓迎すべき事なのだろうが、ここまで来ると違和感を覚える。


 もっと時間が掛かると思っていた。何せビックラットの駆除は俺的には難易度の割に稼ぎが凄くオイシイ依頼なのだが、それでも少し危険度を上げればもっと稼げる依頼はいくらでもある。


 だというのに、金の貯まり具合が順調すぎる。


 この二週間で既に二百匹近くのビックラットを駆除している。明らかに異常な数だ。


 懸念はまだある。


「っと相棒! 茂みの奥から来たぜ!」


 グラムの警戒に従い、俺は槍を背中の携帯鞘から引き抜き、両手で握って構えた。


 その少し後、雄叫びをあげなら茂みから出てきたのは二足歩行をする犬のような厄獣モンスター


 犬頭人コボルトと呼ばれる厄獣モンスターで、ビックラットの更に一回り大きい。個体の強さはそれほどでも無いが、ビックラットよりは強い。そして、二足歩行をするためかただの野生の犬よりかは知能もある。


 ただ、どちらも〝多少〟と前置きがつく程度におさまる。


 現れたのは四体。犬頭人コボルトは同族と集団で行動する厄獣モンスター。個体の弱さを群れで補うタイプだ。


 その内、二体の犬頭人コボルトが牙を剥き出しに、前足──人間で言う右手の爪を振りかぶって俺に飛びかかってくる。


「ほいやっ」


 俺は慌てず騒がず、後方に一歩下がりながら槍を振るう。先頭にいた犬頭人コボルトの爪も牙も俺に届くこと無くその身を槍の穂先が切り裂き勢いを殺す。血を流しながら地面に落ちた犬頭人コボルトを尻目に、振るった勢いそのままに槍を旋回させて二匹目を切り裂く。


 残り二体は仲間の死をものともせずに襲いかかってきたが、こちらも油断無く槍を振るって切り裂く。


 四体の犬頭人コボルトが血を流しながら地面に倒れた。俺は油断なくそれらに最後のトドメを刺し、更に新手がないかを確認してから穂先の血を振り払い槍を背中の鞘に収めた。


 グラムの指導アドバイスのおかげか、以前よりもかなり槍捌きが上達した自覚がある。村にいた頃の俺であれば、犬頭人コボルト四体に襲われればかなり必死にならなければ倒しきれなかった。だが今は余裕を持って相手を出来るようになった。


 喜んで良い場面ではあろうが、代わりに俺の口から出てきたのは溜息だ。


犬頭人コボルト自体はそんなに珍しくは無いが、こうも襲われる状況が続くってのは気になるな」


 ここ数日間で、ビックラット狩りの最中に犬頭人コボルトが襲いかかってくる機会が増えてきたのだ。


「こいつもか。肋が浮いてやがる」


 犬頭人コボルトの腹を見ると、ガリガリに痩せていた。俺が今まで見たことのある犬頭人コボルトはもっと腹がふっくらしていた。


「腹ん中は空っぽだな。群れからはぐれた奴が空腹のあまりに襲いかかってきたんだろう」


 俺の背負い袋の中には、今日駆除したビックラットの肉が収められている。匂いが漏れないようにしっかりと口は縛っているが、かすかに漏れたものを空腹だった犬頭人コボルトの鼻が敏感に捕らえたのだろう。


 だが、それにしたってやはり不自然だ。


 何せ、ここ最近に襲いかかってきた犬頭人コボルトのほぼ全てが、俺が今倒した犬頭人コボルトのように肋が浮き出るほどガリガリに痩せていたのだ。


「こんだけビックラットがいりゃぁ、食糧難ってぇ事にはならないと思うんだけどなぁ」


 ビックラットは厄獣モンスターとしては最弱の部類に入るが、その繁殖力の為に他の厄獣モンスターに取っては都合の良い食料なのだ。


 つまり、犬頭人コボルトにとっての食料ビックラットがこの森には溢れている──はずなんだけど。


「そりゃアレだ、相棒が最近狩りまくってるからじゃね?」

「あ゛」


 よく考えれば当たり前だ。何しろ二百匹。良い稼ぎだと思ってバンバン狩っていたが、思い返してみるととんでもない量のビックラットを傭兵組合に納めている。


 それだけ狩ってりゃぁ突然の食糧不足にもなるか。


「………………ま、遅いか早いかの違いだろうがな」

「ん? 何か言ったか?」

「いんやなんでもねぇや。それより、空腹の犬頭人コボルトが増えてるって話は組合の方には伝えといた方がいいんじゃねぇか?」

「それもそうだな」

 

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