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第二話 勇者が王都に行くようですが

第一話だけだとあれなので第二話も同時に投稿します


 しばしの硬直を経て復活した司教は、軽い咳払いをすると話を切り出した。


「──勇者のことだ」


 ゆうしゃ?


 ……………………………………。


 ……………………………………。


「レリクスのことだ!」


 俺が腕を組んで頭を捻っていると、大慌ての村長が俺の側に来て焦りを孕んだ声で囁いた。


 俺はぽんっと手を叩いた。


「ああ、あいつ勇者になったんだっけ」


 はっきり言って、全く興味が無かったので次の日の朝にはほとんど忘れかけていた。更にその翌日、農場の付近に出没した厄獣モンスターの駆除が忙しくてその時点で完全に頭の中から抜け落ちていた。


 そうか、確かこの人、レリクスが『えらばれしゆうしゃ』だから、それを確認するためにこの村に来たんだっけか。


 その辺りの事をどうにか思い出して、俺は司教に聞いた。


「で、その『ゆうしゃさま』がどうしたって?」

「レリクス様がやがては魔王と戦う宿命にある以上、あの方には魔王に対抗する力を得るために旅に出なければならない。だが、今のままではその力を手に入れる前に旅の半ばで力尽きてしまうのは目に見えている」

「まぁ、腕自慢つっても、この村限定ですからねぇ」


 この村の男衆は──特に若い連中は、農作業の傍らで厄獣モンスターの駆除も担っている。俺とレリクスも当然その一人だ。


 この近辺に出没する厄獣モンスターはさほど強くない。多少訓練した男なら一人でも問題なく討伐できる程度。むしろ、貴重な肉料理の材料となったりするので割とみんな積極的に狩りを行っていたりする。


 レリクスは村の中では一番の腕利きだ。剣捌きはそこらの男など歯牙に掛けないほど。俺も腕試しとしてレリクスに挑んだことがあるがてんで相手にならなかった。


 ただ、結局はド田舎な村の中で完結している。村の腕自慢に留まっていては魔王討伐など到底無理な話だ。


「そこで、レリクス様には我々と共に王都へ赴いてもらう」

「またなんで?」

「王都には国が誇る屈強な騎士たちが、日々鍛錬を積み重ねている。彼らと共に鍛練を積めば、最低限の実力は得られるだろう」


 王都か……ちょっとだけ憧れるな。何せ生まれも育ちもこんなド田舎の村なのだ。一応、この村に骨を埋める気はあったが、人生に一度くらいはこの国の中心部に行ってみたいものだ。最も、農作業があるので少なくともしばらくの間は無理だな。


 煌びやかな都に思いを馳せている俺に、司教は続けた。


「だが、いくら勇者様とて、今までは何も知らぬただの村民として暮らしてきたのだ。王都に知り合いなどいるはずも無い」


 そりゃぁ、あいつも確か俺と同じでこの村からほとんど出たこと無いはずだからな。


「知り合いも誰もなく王都へ赴くのは勇者様も心細かろう。そう考えて我々は勇者様に提案した」


 ──誰か、心許せる者を一人、連れて行ってはどうでしょうか、と。


「──つまりは子守役おもりか」

「……君は少々、言葉遣いがアレだな」

「性分なんで許して欲しいっすね」


 咎める口調の司教に対して、俺は悪びれも無く答えた。産まれてからこの方ずっとこの性格と付き合ってきたのだ。今更変えようが無い。


 それはともかくとして、話の前後と俺がここに呼び出された理由から察すれば、自ずと答えは出てくるわけで


「あ、俺農作業の続きがあるのを思い出したんで帰りま──」

「勇者様が我々の提案に対する答えは君だった!!」


 おおぅっ!? 急いで帰ろうとした俺に、司教がそれ以上の超早口で捲し立てて来やがった!! 


 司教がめっちゃ俺を睨んでくる。あえて言葉で説明するなら「逃がさんぞワレェッ!!」といった感じだな。そのくらいに目力めぢからが凄かった。


 仕方なしに、俺は椅子に座り直して司教に向き直った。俺が逃げ出さないのが分かってか、司教は表情が和らぐ。ただ、絶対に逃がさないという強い意志が、視線からひしひしと伝わってきた。


「狭い村ですし、レリクスも知らない仲じゃぁない。けど、友達って程親しいわけでも無い。俺以上に仲の良い奴なんて他にもいると思いますがね」

「勇者様たっての願いだ。一緒に行くならば是非きみに、とのお達しだ」


 是非ってちょっと……レリクスさんや。


「……俺、農民なんですよ。食い扶持と納税のために汗水垂らして土いじりしなきゃならんのですよ、これが」

「我々教会が話を付ける。君の納税は免除されるように働きかけよう」


 大した問題では無いとばかりに答える司教。


「……納税が免除されてもご飯とか」

「君が王都に滞在している期間の生活費は、全てこちらが負担しよう」

「……ほら、人間ってご飯だけじゃ無くてそれなりの息抜きとか無いと精神的に参っちゃうし」

「勇者様のお世話係として、生活費の他に給与も支給しよう」

「………………えっと」 


 他に断り文句が思いつかない。


 と、ここでふと気が付く。


 今までの話を統合するとつまり。


「王都に行く間の費用も全部そちら持ち?」

「無論だとも。勇者様が王都から旅立つ際、希望するならこの村に帰るための手配も全て教会こちらが請け負おう」


 ──よくよく考えると、これって実質的に無料ただで王都に行けるってことでは無いか?


 この村から王都までは馬車を利用しても二週間近くの距離があり、その間の旅費はかなり掛かってしまう。しかも道中で厄獣モンスターに襲われる危険性もある。


 この村では基本的に生活は自給自足で、物のやり取りも金銭では無く農作物等での物々交換。納税も同じく現物で収めている。現金を得る機会がほとんど無いのだ。


 たまに行商人がこの村に来て金銭のやり取りも行われるが、微々たる量だ。俺も多少の小遣い稼ぎ程度はしているが、王都へ行くまでの旅費で大半が消えてしまう。なけなしの金を握りしめていても、王都での生活費に消えて何も出来ないだろう。


 ──それが、貯蓄まるまる残して王都に行ける。しかもお小遣い付き。


 断る理由がまるで無い。むしろ率先して引き受けるべき案件だ。


 細かいことを言えば断る理由は無きにしも非ず・・・・・・・だが、この破格な雇用条件に比べれば些細な問題。無料ただで王都に行ける利点に比べれば無視できる程度のことだ。


 何より、俺には王都に行ってやらなければならないことがある! そう、いつか夢見たあの野望を叶えるのだ!


「分かりました。レリクスの子守役おもり、引き受けましょう!!」


 席を立ち上がり、胸に手を当てて大きく宣言をした。


 それを見た司教はポツリと。


「……引き受けてくれたのは嬉しい限りだが、君は少々勇者様への敬意の念が欠けているな」

「だって、四日前まではあいつも『村人その二』だったんでしょうよ。いきなり態度は変えられませんよ」


 村人その二──と呼ぶには存在感カリスマが溢れすぎているような気がしなくも無いが、俺にとっては『知り合いA』であり、敬うにしても現時点で敬える要素がほとんど無い。


 ──あ、今のあいつ『勇者』だっけ。

  

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