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第百六十九話 申し訳ないと思っています


 ジンギンかカルアーネか、どちらが戦いの火蓋を切ったのかは分からない。あるいは息を合わせたかのように同時であったのかもしれない。気がつけば、互いに怒号を発し合う大喧嘩が始まっていた。


『一応、不良に産毛が生えた程度だ。手加減はしてやれよ』


 グラムの忠告を頭の片隅に置きながら、目の前に現れたカルアーネの不良を殴り飛ばす。俺もいい加減、自身の膂力が一般基準から逸脱しつつある自覚はあった。全力で殴ったら多分、当たりどころが悪かったら後遺症では済まされない事になる。


「これなら、盗賊とか厄獣を相手にしてる方がよっぽど楽だな」


 素人相手に気遣いしながら戦うと言うのは案外に難しい。手加減せず存分に力を振る普段の傭兵稼業の時の方がマシだ。


 その点をいくと、ミカゲは素手でも実に見事な立ち回りだ。


「フッ」


 短い呼吸の刹那に振るわれる拳が、的確に不良たちの急所を捉える。ミカゲの美貌や女性的な豊かさに釣られて安易に近づいていく者たちが次々と倒れていく。夜中に光る灯火に集まり燃え尽きる蛾の様だ。


 ミカゲは槍一辺倒の俺とは違い、カタナの他にも様々な武芸に精通している。徒手空拳もその一環だ。お恥ずかしい事に、今の俺は模擬戦の戦績でミカゲ相手に十回やって一回勝てるかどうかといった具合だ。五十回やって一回も勝てなかった当初に比べれば格段に成長しているのだが、二級に昇り詰めたミカゲにはまだまだ叶わない。


『なんでもありありの状況や大物(ジャイアン)殺し(トキリング)に関しちゃ、既に相棒が勝るけどな。その辺りは自信を持っていいぜ』

「そりゃどう──もっ!」


 グラムのお墨付きでちょっぴり自尊心を癒しつつ、殴りかかってくる不良の顔面に頭突き(パチキ)をぶち込んで沈める。鼻血を吹き出しながら倒れる男を尻目に、俺は視線を他所に向ける。


「雑魚は引っ込んでろや!」


 威勢よく叫びながら次々とカルアーネの手勢を沈めているのは、ジンギンファミリーの親分であるニキョウだ。こちらはミカゲの様に鮮やかではないが、逆に荒々しく勢いのままに拳や蹴りを繰り出し、不良どもを薙ぎ払っていく。


『あっちはまさに正統派喧嘩殺法って感じだな』


 喧嘩殺法に正統派もクソもあるか……とツッコミを入れたくなるが、確かに見ているとその通りだなと納得できてしまう。時に殴り時に蹴り、相手の顔面を掴んで地面に叩きつけたりと。まるで統一感のない戦いぶりであるのに、ある種の凄みが滲み出ている。傭兵としてそれなりに場数を踏んできた俺の目から見てもたまに『カッコイイ』と思えてしまうほどに様になっている。


 ジンギンファミリーの子分たちも中々のものだ。人数的にはかなり不利であるはずなのに、まるでそれを感じさせない戦いぶりだ。先頭に立って戦う親分(ニキョウ)に触発され、高い士気を維持したまま暴れている。


 曲がりなりにもユーバレストの裏の秩序を保ってきた組織(マフィア)なのだ。数が劣ろうがチンピラ紛いが集ったところで易々と遅れを取りはしない。


 本当に、ただのチンピラだけが相手であればの話ではあるが。


『相棒後ろっ!』

「──ッ、とぉっ!?」


 背中から発せられた警告に反射で従い身を屈めると、頭の上を勢いよく何かが通過する。俺はそのまま前方に向けて飛び込むと、今度は背後で地面を叩く音が響く。


 受け身を取り、振り返りながら背後を向けば木刀を振り下ろす男の姿だ。さらに奥を見れば、酒場で見た覚えのあるジンギンファミリーの男たちが倒れ伏していた。


 男は忌々しげに舌打ちをすると、すぐさま木刀を構え直した


「背中から不意打ちとは随分だなおい」

『多分、相棒は絶対に言っちゃいけないセリフだぞ、それは』


 グラムに目があれば絶対にジト目を浮かべていそうな呟きを無視し、俺は男を見据える。木刀を構える様は明らかに素人ではなく、場慣れした者特有のそれだ。


『そこらの雑魚とは違うぞ。ちょいと気ぃつけろ』


 内心に頷きを返している最中に、男が踏み込み木刀を振るってくる。ミカゲほどではないにしろ鋭い攻撃に、俺は後退しながら身を逸らして回避を選ぶ。


 正直、背中の槍(グラム)を使えばワケない相手であるが、手加減が難しい以上にこうも敵味方が入り混じった状況だと長柄の武器は扱いにくい。腰には鉈もあるが刃傷沙汰はまずいとニキョウに言われている。


 今の俺の技量では、木刀を掻い潜っての反撃(カウンター)を決められるほどに器用な真似はできない。一発をもらう覚悟で強引に懐に入るか。


 ──ドンっ。


 背後を気にせずに後退していたせいか、別の誰かと接触してしまう。


 反射的に目を向けると、どこかで見た覚えのある顔だった。


 ジンギンファミリーの縄張りに入る切っ掛けを作った一悶着。あの時に『兄貴』と呼ばれていた男だ。


「て、テメェは──ぶはっ!?」


 俺は咄嗟にその『兄貴』の陰に隠れる。俺を見て何かを叫ぼうとするが、口が中途半端に開いたところで、俺を追っていた男の木刀を受けてしまう。盾代わりに使う様な真似をして少し申し訳ないと思いつつ。


「どっ────せいやぁぁっっっ!!」


 素早く『兄貴』くんの股下に手を突っ込むと一息に持ち上げ、やはり申し訳ないと思いつつ木刀の男へとぶん投げる。まさか人が飛んでくるとは思っていなかった様で、男の反応が致命的に遅れて巻き込まれる。衝撃で木刀を手放さなかったのは見事であるが、あえなく転倒。


「ふんっ!」


 素早く駆け寄り、男が起き上がるよりも早くに顔面に気持ち強めで拳骨を打ちすえる。木刀を握る力が失われ、男はそのまま動かなくなる。──息はしてるぞ。


『この兄貴君も本当に運が悪い。まさか一晩で相棒に二回も投げ飛ばされるなんぞ思っても見なかったろうな』


 俺も短期間で遭遇するとは思ってなかったよ。


 ともあれ、この喧嘩──もはや抗争だな──で問題なのは、今みたいにカルアーネの中に手練れが混ざっている。始まる前から、明らかに雰囲気が違った奴らだ。


 戦ってみた感触では俺やミカゲ、ニキョウあたりならまず問題ないが、ジンギンの手下たちでは分が悪い。よくよく見れば倒れているジンギンファミリーの子分たちもいる。おそらく俺が倒した木刀の男にやられたのだろう。


「グラム、真面目な話、戦況はどっちが優位だ」

『相棒とミカゲがいなけりゃほぼ五分五分で、ジンギン側がギリギリ優勢ってとこだったろうな。相棒にとっちゃぁ不運だったが、ジンギンファミリーにとっては幸運だったろうぜ』


 存外に頭に響くグラムの声は明るかった。

切っ掛けはどうあれ、続きを書けたのは自分でも嬉しく思います

これからも頑張らせていただきます

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『カンナ』の担当さんは、いつ頃になったら作者のケツを叩くのやら(;^ω^)。  だってナカノムラ作品でエルフが出て来るのって、ソコしかないし(^▽^;)。 『癒し』はいくらあっても…
[一言] 題名が作者さんの気持ちを伝える場所になってるwwwwwwwwwwwwww 失礼かもしれんけど、ダメだ笑いすぎてお腹痛いww
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