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第百四十話 魅入っているようですが


 ふと、リードがこちらを無言で見ている事に気が付く。より正確に言えば、僅かに逸れ俺の背負っている黒槍グラムを興味深そうに眺めていた。


「最初に会った時にも思ったが、妙な槍を持ってるなぁおたく。つか、この国にいる傭兵で剣以外の得物を背負ってる奴なんて、初めて見たわ」

「どれだけこの国の剣好きは筋金入りなんだ……」

「それを私に言われても困ってしまうのですが」


 思わずアイナに目を向けてしまうが、彼女はついッと視線を逸らした。まぁ、確かに彼女に言ったところで国に根付いた風習がどうこうなるわけでもないか。


「……おわっ!?」


 気が付けば、リードが目の前にまで近付いており、顎に手を当てながらしげしげと俺の槍を観察していた。


「よく見れば中々にイカした槍じゃねぇの」

「お、おうそうかい」

『相棒、やっぱり見る奴が見たら分かるんだな。この英雄が持つに相応しい槍の風格って奴が』 


 グラムが妙に感慨深そうである。思い返すと、黒槍こいつが褒められたことってほとんど無かったかもしれないな。


 なんてことを考えていると、何気なく動かした目がリードの腰に帯びた剣に止まった。


 特別に煌びやかでもなく、むしろ粗野な印象を受けるような様相。だが不思議と目が離せなくなるような妙な感覚


 いつか、これに似たような事があったような――。


「本当に……良いねぇ……」


 ぞわりと背筋が震えた。


 リードが己の左目を覆う眼帯を指でなぞりながら、取り憑かれたように黒槍に魅入っている。その様はまるで、格好の獲物を目の前にした猛獣のようにさえ思えた。


 その気配に圧された――それを悟られるのが嫌で、俺は深く息を吐きつつリードから一歩下がり、問いかける。


「……で、テメェの魂胆はなんだ。わざわざ手の込んだことしやがって」

「っと、話が逸れちまったな」


 異様な気配が嘘だったかのように、ケロッとしたリードが困ったように頭を掻いた。


「いやぁ、レア物を見つけるとついつい気になっちまうタチでね。そう睨むなって黒刃さんよ」


 二つ名を呼ばれて、俺の眉間に皺が寄る。いや、こいつを前にしてから皺が寄っている時間の方が長いかもしれない。


「これでも情報収集は欠かさないほうでね。初めておたくらに会った後、手下を使って調べさせたわけよ」


 ただのお山の大将――というわけでないのは、ミカゲから聞かされていた。二級傭兵として実績に加え多くの部下を引き連れる統率力は伊達ではないのだろう。


この街ここの組合にも、王都から来た傭兵がいたらからな。酒を奢って話を聞いたわけよ。まぁ色々と派手にやらかしてるみたいだな。出てくる話題には事欠かなかったぜ」


 俺に関しての話とやらを思い出したのか、リードは口に手を当ててクスクスと笑い肩を小刻みに震わせる。


「御託は結構。それで、こんな回りくどい事をして何が目的なんですか?」

「そう凄むなよ銀閃。簡単な事さ。俺が今請け負っている仕事の手伝いをして欲しいだけだ」

「手伝って欲しい……ですか。物は言い様ですね」


 あからさまな軽蔑を向けるミカゲ。向けられた当人リードは彼女の視線に心地よささえ得ているかのように笑いを浮かべたままだ。


『あいつ、相棒が素直に頷かないのは承知してたんだろうよ。その上で相棒が頷かざるを得ない状況を作ったんだ』 だと思った。


 リードはこの街の裏で騒いでる奴らに、リードと俺が仲間であるように思わせた。昼間にわざわざ話し合いの場を作ったのはそれを目撃させ、俺とリードの間柄を誤認させる為だ。


 結果として、俺はこの街の裏側にいるリードの敵対勢力と事を構えるに至る。今更リードとは何ら関係ないと高らかに弁明したところで聞き入れては貰えないだろう。


『つか、リードとは関係無しに普通に喧嘩売った形だからな。半分くらいは相棒の自業自得だよ』


 ズバリ指摘されてヌグッと呻いてしまう。


 この際、宿に置いてある荷物は諦めて、さっさと王都に帰るという選択肢もある。


 幸いというか、傭兵としての習慣で俺たち全員は常に普段の得物を持ち歩くようにしている。金銭も携帯しており、全員の手持ちを会わせれば王都まで馬車の運賃くらいはどうにかなるだろう。


『いや、そいつはかなり難しいだろうぜ』


 だが、俺の案をグラムが即座に否定した。


「二級の傭兵と聞いているリードさんが、協力を要請するほどの相手がこの街に潜んでいるということですか」

「そういうことだお嬢さん。当初の予定ではもうちょいと楽な相手と踏んでたんだが、調べてみると色々とヤバそうでね。ぶっちゃけ手が足りねぇんだわ」


 アイナの問いかけに対し、リードはおちゃらけた口調ではあったが、先ほどよりも剣呑な雰囲気が含まれていた。


『あのリードって奴の実力は未知数だが、ミカゲが不承不承になりつつも掛け値なしに認める程だ。そいつが協力を求めるような相手となると相当に面倒だぜ』


 グラムの冷静な見解に、俺はまたもヌグッと唸る。


「一応言っておくが、今更とんずらするのは難しいぜ。今頃街の出入り口にはおたくらを追ってた奴らの仲間が張って。奴ら数だけはいるしこの街の地理も詳しい。見つかったら俺も手を焼いてる奴らが出てくる」

「アナタほどの腕達者が手を焼くとは……」


 どれほどに毛嫌いしていようとも、リードの実力を目にし俺たちの中で一番信用しているのはミカゲだ。それだけに彼女は戦慄し息を呑む。


「正面からぶつかっても勝てねぇことはねぇだろうが、こっちの被害も馬鹿にならなくなるのは確実だ。下手すりゃ堅気にも被害が出る。さてどうしたもんかと困ってた所で現れたのがおたくらだ」


 ビシッと俺たちを指差すリード。


「銀閃の実力は言うに及ばず。新人とは言え優秀な能力を持つ魔法使いのアイナお嬢さん。町医者ながら超一流の回復魔法の使い手であるキュネイちゃん。で、今王都で一番名の売れている新気鋭の黒刃。こいつを逃す手は無いと思ってね」

「協力せざるを得ない状況を生み出すために、一計を案じたというわけですか……相変わらず勝手な男ですねあなたは」

「けど、おたくらにも悪くない話だろ?」


 そう言って、リードは勝ち誇ったように笑った。


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