百三十一話 いつも思い知るのですが
ものすごく久しぶりに更新です。
ミカゲ、キュネイと二人に付き合った流れで、今日はアイナと二人っきりのデートとなった。また四人揃って見て回る予定ではあるが、折角だからとミカゲたちに提案されたのだ。
一緒に住むようになってからは、二人で街を歩いた回数は何度もある。あるいはそれもデートといえた。もはや日常的な一幕ではあったかもしれないが、それでもやはりデートというものは良いものだ。
そんなわけで、俺とアイナは並んで屋台の建ち並ぶ通りを歩いていた。観光名所というだけあり、人の出入りが激しいのだろう。それらを目当てに屋台の並ぶ通りの数は多い。
「商売してる側にとっちゃ微妙かもしれないが、観光客の少ない時期に来れて良かったな。お陰でゆっくりと見て回れる」
露店の一つで売っていた肉の串焼きを食べながら、俺はノンビリと歩く。賑わいはあるものの、アイナと一緒に横並びに歩いていても問題ない程度だ。よく見れば、俺たちと同じ男女仲睦まじく歩いている光景もちらほらとある。
手にしている串焼き肉もそこそこ美味い。タレの味が強すぎる気もするが、こういうのは食べる雰囲気を込みで味わうものだ。
ついでに、恋人と一緒に食べているという状況もまた、旨味を思わせる要因。そう思って隣を見ると。
「……お肉の焼き加減がいまいちですね。火を通しすぎてお肉の旨味を殺しています。あるいは肉質の悪さを分からなくする為でしょうね。そしてこのタレ。やはり肉の味を誤魔化すために、風味もなく無駄に濃すぎです。そうですね……十点中、二点が良いところでしょう」
「評価辛っ!?」
俺の隣でもっきゅもっきゅと串焼き肉を食べていたアイナが、真剣な顔つきで採点していた。あまりにも辛口な評価に俺は戦慄する。
「ユキナさん。料理というのは、料理を作る人と食べる人との真剣勝負なんです。遊びじゃないんです」
「お前はどこの美食家ですか……」
というか、いつの間に串焼き肉の評論家になってるのさ。
『もしかしなくても相棒のせいだよな』
やっぱり俺が原因か。
初めての出会いから二人で街を歩く度に、露店で売っている串焼き肉をご馳走していたわけだが、そのせいですっかりお気に入りになってしまったのだ。それこそ、今では串焼き評論が趣味になるほどだと。
そこでふと、俺は興味本位でアイナに聞いた。
「ちなみに、いつも食ってる肉屋のおっちゃんの露店で出してる串焼き肉は何点なんだ?」
「あそこは九点です。さすがプロの仕事ですね。一切れ一切れに違う部位の肉を使っていて、それでいて仕込みも個々で行っているんです。焼き加減もお肉が一番美味しい頃合いを見計らってますし、タレもお肉の味を活かす事を前提とした最低限の濃さであり、かつ最大限の味わいを演出しています」
「すごい饒舌だなオイ!?」
診療所の付近によく露店を出すおっちゃんの店。見かけるたびに買うので、アイナはすっかり常連だ。よくおまけもしてもらい、俺もたびたびご相伴に預かっている。
「けど、おっちゃんの串焼きが九点だとすると、十点満点はどんなのなんだ?」
「もちろん決まってます。ユキナさんと初めて出会ったときに食べたあの串焼きですよ」
俺の問いかけに、さも当然とばかりに答えるアイナ。身近なところにある意外な答えに、少しばかり驚いた。
「王城で食べていた料理に比べれば大雑把もいいところ。むしろ同じ料理と呼ぶのは城勤のシェフに怒られるかもしれません。でも私は、あんなに美味しい料理を食べたのは初めてでした。コレまでずっとあれよりも手の込んだ料理を食べてきたはずなのに」
アイナにとっては生まれて初めての庶民的な味であり、それだけに一番印象に残っているのか。
「でも、一番の理由は名も知らぬ素敵な男性と、一緒に並んで食べたからですね」
「……それって」
「あの日、私は自分の無知を知りました。それまで多くの知識を学んできましたけど、外の世界に己の知らぬ多くのものがあるのだと改めて思い知りました」
アイナは、己の胸元にそっと手を触れる。そこにはあの日からずっと変わらずに、俺がプレゼントしたペンダントがあった。
「今この瞬間だってそうです。私は恋を知りました。そして愛を学びました。でも、あなたと一緒にいるだけで、いつも新しい発見がある。毎日が新しいものに溢れているんです」
「……串焼き肉の話から凄いところまで話が発展したな」「あの時の串焼き肉は、私にとってそれほどに大きな出来事だったんですから」
照れを誤魔化すような俺の台詞にも、アイナは楽しげに笑っていた。
だが、それを言ってしまえば俺だって同じだ。
アイナと、身も心も通じ合っているという感覚はある。こうして手を握っているだけでも、彼女の想いが伝わってくるようだ。俺の気持ちもアイナに伝わっていると確信に近いものはある。
それでも、ふとした拍子にアイナの新しいところを見つけることが出来る。言葉に言い表せないほどの微細な変化であっても、それは間違いなく新しいアイナに違いは無い。
色々な新しいところを見つければ、それだけアイナが愛おしいという気持ちが増えていく。人を想う気持ちに際限が無いのだと、ふとした瞬間に思い知るのだ。
長らくお待たせしました。
最近は書籍化や漫画化のことで頭がいっぱいでどうしても話の流れがうまく思いつかずにちょっとスランプ突入していました。
けれどもようやく流れらしい流れが浮かび出したのでこれからも頑張ります。
それはさておき、『王道殺しの英雄譚』の三巻がついに今月末に発売します。
人生初めての三巻ということで感無量です。
これを機にまだ一巻、二巻を持ってない人は書店に来ましょう。あるいは通販で入手を推奨します。
それと実は、私がアルファポリスで連載している『転生ババァは見過ごせない!』の第二巻も八月末に発売されました。こちらもまだ読んでいない方は、是非一読を。一巻、二巻の導入部部分は無料で読むことができます。
↓アルファポリスのアドレス
https://www.alphapolis.co.jp/novel/306167386/626255038
今後はもう少し連載の速度を戻そうと努めるので、どうぞよろしくお願いします。