第百二十六話 ゴゴゴゴしてるようですが
今回は繋ぎの関係上ものすごく短いです。
場面は変わり、夜の宿。
キュネイは『私は仲間のデートを覗き見していました』という札を首からぶら下げられ、床に座らされていた。
その座り方というのが独特で、脚を折って膝をそろえ、尻をかかとにすえた姿勢。ミカゲの故郷に伝わる座法の一種らしいのだがこれだと床に足の臑が接するような形になる。
「その……ミカゲ。この体勢、もの凄く辛いんですけど」
「それがどうかしましたか?」
「あ、なんでもありません」
顔を引きつらせたキュネイが縋るように聞くが、背後から「ごごごご」と威圧を発するミカゲにすげなく斬り捨てられる。
「ううぅ、どうして私まで」
キュネイの隣では、同じくアイナがどんよりとした表情で正座をしていた。首からぶら下がっている札には『私は仲間の覗き見を止められませんでした』と書かれている。
「アイナ様にこのような事をさせるのは私も非常に心苦しいのですが……」
「だったら――」
「ですが、ケジメはしっかりと付けていただきます」
「あ、はい」
相手が元は高貴のであろうともミカゲは容赦しなかった。丁寧な口調でありつつも、有無を言わさぬ迫力にあえなくアイナも撃沈。大人しく正座を続行した。
今この瞬間、この仲間たちの頂点に君臨しているのは間違いなくミカゲだ。それほどまでに彼女は静かに怒りを発していた。
それだけ、ミカゲも俺とのデートを楽しんでいたということだろう。あるいは覗き見をされていたこと以上に、デートを中断させられた事に怒っているのかもしれない。
一応、キュネイとしては焚き付けた手前、俺たちの様子がどうしても気になったとは言っていた。アイナも同様に、本当は良くないとは思いつつもキュネイを強く止めずに付いていったことから同罪。
キュネイとアイナが可哀想だとは思いつつも、ミカゲの事を考えれば口を出すのは憚れた。
誤解無きようにいっておくが、断じてミカゲが怖かったからではない。そこだけは間違えないでいただきたい。
『いつの世も、怒った女には誰も敵わねぇのさ』
まるで悟りを開いたかのようなグラムの言葉に思わず頷きそうになった。
ただ、改めて思い返すと、俺も反省すべき点があった。
『最近の相棒はちょっとキュネイたちに関して暴走気味だよな』
「グッ……」
内心を察したのグラムの苦言が、チクリと俺を刺す。
キュネイとアイナに絡んでいた二人組への対応を言っているのだ。
盗賊団の親玉を竜滅の大魔刃で吹き飛ばしたときもそうだったが、ここしばらくの間どうにも恋人たちに対しての様々な出来事に過敏に反応している。
あの二人組にだってそうだ。
いきなり後ろ投げをかます必要は無かった。せいぜい肩を掴んで止めに入り、それでもしつこければ、いよいよ後ろ投げで黙らせれば良かったのだ。
『あ、結局後ろ投げは変わらないのな』
頭では分かっているのだ。キュネイもアイナも、俺に守られているだけのか弱い存在では無い。下手なチンピラならば、楽に対処できるだけの実力を有している。
なのに、彼女たちに言い寄る男を見るとどうにも我慢ができなくなる。今後はもう少し自制を覚えないと、いよいよ面倒な事態に発展するかもしれない。
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