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第百二十五話 突き刺さったのですが


「ふふふ、良い雰囲気ね。ちょっと強引だったかもしれないけど、奥手なミカゲにはあの位が丁度良かったわね」

「あの……良いのでしょうか。このような覗き見なんてしてて」


 ユキナとミカゲを物影から見守る二つの人影。


「あら、私たちは別にやましい事なんて考えてないわよ。ただ、仲間の恋路を温かく見守っているだけよ」

「そんなキラッキラした目で言われてもまったく説得力ありませんが」


 もちろん、キュネイとアイナであった。


「そりゃぁ、あんなやり取りを見たら、誰だって胸がキュンキュンしちゃうでしょ。ほら見てよあの指を絡めた手の繋ぎ方。まさに恋人同士って感じじゃない」

「……確かに、見ていると胸の奥に甘酸っぱい感覚が広がっていきます。見てはいけないような、それでいて目が離せないというか」

「わかってるじゃなぁい」


 ユキナたちが宿を出て行ってからすぐに、キュネイがアイナの言ったのだ。様子を見に行こうと。そのまま流されるまま、今に至っていた。


「…………でもこれ、後でバレたら怒られません?」


 ユキナのことだ。少しばかり小言はあろうが、本格的に怒ることはないだろう。だとしても後ろめたさがあるのは間違いなかった。


「きっと大丈夫。それに怒られたら怒られたで……ねぇ」

「そこで唐突に、女でもクラッときてしまいそうな色気を出すのは止めて欲しいのですが」


 唐突に躯にしな・・を作ったキュネイに、アイナは気まずげに視線を逸らした。その頬は若干赤みを帯びていた。


「『怒った彼に無理矢理に――』ってシチュエーションというのも、悪くない気がするのよ」

「それはちょっと……まだ私には上級者向け過ぎます」

「安心して。私が手取り足取り教えてあげるから」

「ははは……心配になってついてきましたけど、失敗だったかな」


 百戦錬磨の元娼婦の心強すぎる台詞に、逆に不安になってしまう元王女であった。


「……と、話し込んでたら二人を見失っちゃったわ。行くわよアイナちゃん」

「あ、ちょっと待っ――え?」


 慌てたようにユキナたちの後を追おうとする二人であったが、彼女たちの背後から近付く人影があった。




『相棒』


 ミカゲとデートを楽しんでいる最中だというのに、空気の読めない黒槍が頭の中に語りかけてきた。


『いやな、俺もその辺りは弁えてるのよ。けどな、ちょっとだんまりを決めておくには面倒なことになってる』


 なんか似たような事が前にもあった気がするぞ俺は。


 ミカゲに悟られないように俺はなるべく表面上の平静を保ちつつ、内心でグラムに話の先を促す。


『実は、だ。相棒がミカゲと宿を出てから少しして、キュネイとアイナがこっそり後をつけてたわけよ。大方、相棒たちの様子が気になったんだろうさ』


 俺たちを焚き付けたのはキュネイなのだが、なんでそんなことになってるんだよ。


『さすがにそこは俺にも分からねぇ。でもまぁ、あの二人がついてくる分には俺も黙ってようと思ってたわけさ』


 つまり、俺とミカゲの先ほどまでのやり取りもバッチリ目撃されていたというわけで……それはちょっと恥ずかしいな。後であの二人はちょっと叱ろう。


 ん? それで問題って?


『二人の別嬪さん、現在進行形でどこぞの野郎が目を付けて言い寄ってる最中だ』

「はぁっ!?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまった俺に、隣りを歩いていたミカゲがビクリと肩を振るわせた。


「ど、どうなされたのですかユキナ様」


 目をパチパチとするミカゲ。驚かせてしまったことに申し訳なさを感じつつも、俺は嘆くように己の顔を片手で覆った。


 十秒ほど迷ったあげく、断腸の思いで俺はミカゲに告げた。


「悪いミカゲ…………デートは一旦中止だ」

「……何か問題でも?」


 さすがはミカゲ。一瞬前までは女性の顔をしていたのに、俺の様子で〝何か〟を察したようだ。既に武芸者としての顔に戻っていた。


「実は俺たちの後をキュネイとアイナが付いてきてたんだが――」

「え? …………えっ!?」


 俺の言っている意味を咀嚼してから、凜々しい顔からポンッと頬を朱に染めた。少し前までの甘酸っぱいやり取りを仲間に見られていたと知り、恥ずかしくなったのだろう。


「気持ちは分かるが、今はちょっとだけその恥ずかしさは端に避けてくれ。あの二人は後で叱るとして、今あいつらがちょっとトラブってるらしい。さすがに放っておけないから助けに行くぞ」

「は……はい。……承知しました」


 内心の羞恥を強引に飲み込み、ミカゲは再度凜々しい顔に戻って頷いた。ただし顔は赤くなったままだったりする。


 それから俺たちは来た道を小走りに戻る。念話チャンネルでグラムにキュネイたちの位置を教わりつつ、街中を進んでいく。


 さほど離れてはいなかったのか、程なくしてキュネイとアイナを見つけることができた。


 体格の良い男二人が、二人に言い寄っている場面だ。


『この距離なら会話も聞こえる。見ての通りの状況で間違いないぜ』


 ――これまたいつか見たような光景だ。


「ったくしょうがねぇな」


 どうしてあの二人は街を歩くと男に絡まれるんだ。


 理由は明らか。キュネイとアイナが美人過ぎるのが悪い。それにあの見事な胸を見かけたら声を、掛けたくなる男の気持ちも分からなくもない。


 だからといって、許す気は微塵も無い。


 まだ距離があり、かつ男たちは丁度俺とミカゲに対して背中を向けている格好だ。こちらの様子には気が付いていない。


『それで、どうする気だ?』


 決まってるだろう。


「ミカゲ、ちょっとこいつを預かっててくれ」


 俺は背中の黒槍グラムを携帯鞘から外すと、ミカゲに放り投げる。彼女が疑問を挟まず黒槍を受け止めるのを尻目に、俺は走る速度を一気にあげた。


「――から、ちょっとくらい良いだろ。俺たちとお茶でも」

「ゴメンなさい。私たち、これから人と会うので」

「そんなこと言わずに」


 鼻の下を伸ばした男とキュネイの会話が俺の耳にも聞こえてきた。と、ここでアイナが俺の姿に気が付いた。


 ハッとなるアイナに、男たちも背後を振り向こうとする。


 だが、俺は男たちが完全に振り向く前にその背後で屈むと右と左の腕を伸ばし、二人の男それぞれの胴に回した。


「「………………は?」」

「人の彼女に――」


 男たちの胴体を抱え込むように掴むと、立ち上がりざまに一気に持ち上げる。


「手を――」


 勢いまま、背を逸らして。


「出してんじゃねぇ!!」


 地面に一気に後頭部から叩き付けた。


「「ごばぁぁぁっっっ!?」」


 二人の男の頭が悲鳴と共に地面に突き刺さり、男たちはそのまま意識を失った。


書籍第二巻とコミック第一巻をよろしくお願いします。

まだゲットしていないという方は、無理に書店に行かずに通販や電子書籍版でどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『アイテムなぞ使ってんじゃねぇ!(バルバトス)』を思い出してから、ユキナがバルバトスに見えてきた。
[良い点] 投げっぱなしジャーマンからの犬神家お二人樣ごあんなーい(笑)
[一言] 人はこの技を投げっぱなしジャーマンと呼ぶ…膂力がエグい。
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