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side braver12

本日更新の二話目。最新を読んでない方は一つ前のお話から先にどうぞ。


 言ってから男――ルデルは肩を竦めた。


「まぁ、自分は親父殿の名代として来ただけなのですがね。いやはや、普段は好き勝手を許して頂いている身なので、なかなかどうして断りづらくて」

「好き勝手というのは……傭兵の、ということですか?」

「ええ、まぁ。実家の跡継ぎは上にいる兄がいるので、次男坊の自分は余り物でして。将来のために傭兵の真似事をしている次第ですよ」

「はぁ……そうなんですか」


 妙に自虐の入った台詞に、僕は曖昧な言葉を返してしまう。


『貴族における次男以降というのは、跡継ぎである長男の予備・・にすぎません。将来的には当主となった長男の補佐役に回ったりしますが、あるいは婿養子として他家に入るか、貴族の世界を嫌って家を出る者もいます』


 補足してくれるレイヴァ。つまり、彼が傭兵である理由は、長男が当主となった際の身の振り方を考えるため、というわけか。


 農民だって同じだ。親の畑は大体が長男が引き継ぎ、次男はその手助けをするか、あるいは自分の手で新たに畑を開拓するものだ。彼はおそらく後者と言うことだろう。


「ところで、勇者様はかの『黒刃』と同郷であると聞いていますが」

「……あ、ああ。ユキナのことか。ええまぁ、確かにそうです」


 最近になって、ユキナに『黒刃』という二つ名が付いたのは僕も知っている。ただ聞き慣れない単語だけに、ユキナの事だと気が付くのにほんの少し間を要してしまう。


「実は先日に、もう一度彼と仕事をする機会が得られまして。いや、それがどうしたという話では無いんですが」


 僕とユキナの繋がりがあり、彼とユキナの繋がりを改めて僕に告げた。ただ単にそれだけのことなのだろう。


 ただ、僕が洞窟の中で戦っているときに、ユキナが何をしていたのか。そこが気になった。


「ユキナ――彼とはどんな仕事を?」

「王都から少し離れた町の付近に盗賊団が出没したということで、その討伐と攫われた人たちの救助です」


 ルデルの言葉に、ガーベルトが撫でるように己の顎に手を当てた。


「……そういやぁ、俺もちらっとは話を聞いたな。二級傭兵でなきゃ相手にならねぇようなやべぇ頭目と、そいつが率いる盗賊団が潰されたってな」

「ええ、仰るとおりですよ、ガーベルトさん」

「俺の名前も知ってんのか」

「それはもちろん。国内でトップクラスの傭兵の名前ですからね。シオンさんとマユリさんの名前ももちろん存じていますよ」


 それぞれにルデルが目を向けると、二人は軽く会釈をした。


「いやぁ、黒刃かれがいてくれたおかげで本当に助かりました。おかげで傭兵の被害は無し。攫われた人たちも全員を無事に救出。盗賊団の強さを計り誤ったということで、組合の調査不足から追加の報酬も得られました」

「それは……良かったですね」


 ユキナが褒められるというのは、僕としてはなかなかに複雑な心境だ。


「っと、申し訳ありません。熱が入ってしまうとついつい話し込んでしまうのが悪い癖でして」


 たははと頭を掻くルデルに、僕は首を横に振った。


「そんなことはありません。同郷の友人の近況が聞けたので、僕としては良い時間でしたよ」

「そう言ってもらえて嬉しい限りです。では、私はこれにて失礼いたします。勇者様の武運を私も祈っております」


 最後に一礼をして、ルデルは従者と共に僕の横を通り過ぎていった。



 彼の後ろ姿を見送った後に、マユリが言った。


「そうだ、ルデル・ジタニアス。思い出しました」

「知っているのですか、マユリさん」


 シオンの疑問にマユリは神妙な顔で頷いた。


「一部界隈では有名な貴族です。あまり国内での権力関係には興味を持っていないようですが、ジタニアス当主自身は非常にやり手・・・であると評判です」


 マユリの話では領地経営という点では国内屈指と言われているほどで、権力には興味なくともその発言力は例えおうであろうとも簡単には無下にできないとか。


「そしてルデル・ジタニアス。人の才覚を見抜く事に関してはかなりのものがあると噂で聞いたことがあります。放浪癖があるとも言われていますが、それは各地で優秀な人材を発掘し、自領に招き入れるためとも囁かれています」

「いくら次男坊だからって、単なる放蕩息子じゃぁ名代には指名しねぇわな。それだけ能力を信頼されてるって事だろう」


 マユリの説明に、ガーベルトも納得したように頷いた。


 一方で僕は、先ほど以上に複雑な気持ちだった。


 今回ばかりは、僕も別の場所で結果を遺しているので明確に〝負けた〟という感情を抱くのはおかしい。


 それでも、僕が薄暗い洞窟の中で戦っている間に、ユキナは新たな人の繋がりを得ていた。 


 半ば言いがかりだというのは自分でもよく分かっていた。だが、ユキナへの対抗意識が芽生えてしまうのを止めようがなかった。




 ――一方、レリクスと分かれたルデルといえば。


「いやぁ、噂に違わぬ人だったねぇ、彼」


 彼は上機嫌に笑いながら王城の通路を歩いていた。


「彼も英雄殿ユキナに負けず劣らずの英傑であるには違いない。ただちょいと面白みに欠ける印象があるかなぁ」

「さすがに、勇者に対してその物言いはどうかと思いますよ、若」


 陽気なルデルに、ガディスが苦言を申し立てる。その口調は傭兵の時とは打って変わり、紛れもなく主に対するそれであった。


 ガディスは、その戦闘力と忠誠心を買われてルデルが直々にスカウトした人材の一人。公私にわたってルデルを補佐する役割を担っていた。


「でも俺の話に興味があるのも間違いないでしょ?」

「………………」


 ガディスは口を閉じた。図星であったがそれを直接口にするのは、周囲に人気は無いとしても憚れたのだ。


 貴族としては真面目とは言い難いルデルであったが、人を見る目に関しては光るものを秘めていた。ジタニアス家の現当主も間違いなく有能な領主であるが、現在のジタニアス領の大きな発展の一端には、ルデルのスカウト能力も関わっていた。


 そんな人物に惹かれて、ジタニアス家の従者になったのだ。


 そんなガディスの内心を知ってか知らずか、ルデルは上機嫌に話を続ける。


「彼ほど勇者という称号が相応しい人間もいないだろうね。才能もあってそれにあぐらを掻かない誠実さもある。性格も良くて容姿端麗。まさに物語に登場する主人公って感じだ」


 た・だ・し、とルデルは抑揚を付けて付け足した。


「それは言い換えれば、予定調和の中にいるような存在とも言える。この意味が分かるかい、ガディス」

「自分の頭ではとても分かりかねます」

「つまり、既存の物語と同じで、先が読めるって事だよ」 


 物語に出てくる勇者は、様々な苦難を経て仲間と出会い、多くの人々の力を借りて苦難を乗り越える。そして最後には大いなる敵を討ち滅ぼし、世界に平和をもたらす。


 ありふれた物語に出てくるありふれた流れ。まさに予定調和と呼ぶに相応しい。


 あるいはそれは『王道』とも呼べる、物語の鉄則。


 本来であれば・・・・・・、あの勇者が描く軌跡もそういった『王道』をなぞるような物語を遺していただろう。


「けど黒刃は違う」


 黒刃ユキナの紡ぐ物語は、次の展開がまるで予想できない。彼のことを調べている時でさえ、ルデルは常にハラハラドキドキの冒険譚を読んでいるかのように心が躍っていた。


「その滅茶苦茶な物語が、勇者の物語にあった予定調和を狂わせてしまった」


 それが良いか悪いかはルデルにも――否、今この瞬間に断定できる人間はこの世に存在しない。それはきっと、この物語が終わりを迎えた更にその先の世の人々が判断することだろう。


 レリクスとユキナ。


 勇者と英雄。


 まさに対照的な二人だ。


 本来であるならば決して交わることのない組み合わせが、この時代に同時に居合わせている。


「楽しみだねぇ、ユキナという男がどのような伝説ものがたりを作っていくのか。……もし叶うのならば、俺もその伝説の一部として語り継がれたいもんだね」

「……本当にめてください。俺やご当主たちの身が持ちません」


 人材発掘に関しては非凡を有するルデルだったが、彼の放浪癖にはガディスを初めとしたジタニアスの人間一同が頭を悩ませていた。これ以上ルデルが騒動に巻き込まれれば、その心労は一挙に増えてしまう。


「うーん……………………諦めよう」

「考えた末での台詞がそれですか」


 どこまでも陽気なルデルに、ガディスは溜息を零すのであった。

ルデルの設定は二転三転どころが六回転ぐらい変わりました。

最初は嫌味な貴族の傭兵が出てきて、道案内的なよぼよぼの爺が、水戸黄門ばりに行動力のあるすげぇ権力者だったとか。

他にもいろいろありましたが、ユキナの一ファンであり放浪癖のある有能な次男坊という形に収まりました。


せっかく出せたので、今後に彼の出番もあったらなぁとは思ってます。

以上、ナカノムラでした。


あとコミケ受かりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] コミケおめでとうございます。 コロナ騒動が終息して無事開催されますように祈っています。
[一言] これでモブだったら濃いな
[良い点] 人の目見る能力高過ぎぃ。
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