side braver10 聖焔の目覚め、新たなる伝説
今回も勇者回!
盛り上がってきましたよ!
延々と続く炎の剣による攻撃を白焔で迎え撃つが、それもいつまでも続かなかった。
「――うっ……」
唐突に生じる目眩。聖剣を覆っていた白焔に揺らぎが生じる。
こちらの都合などお構いなしに振るわれる巨大甲冑の剣を辛うじて聖剣を合わせるが、今度は断ち切ることができなかった。
凄まじい衝撃が僕の躯を襲い、強引に吹き飛ばされた。
「ガハッ!!」
地面に叩き付けられた衝撃に息が詰まる。呼吸が途切れそうになる中、意識をつなぎ止めるのが精一杯だった。
『マスター!?』
「だ、大丈……くっ」
レイヴァの悲鳴じみた叫びに、僕は安心させる様に言葉を返そうとするが、視界が一瞬歪み失敗してしまう。猛烈な脱力感が全身に伝わり、聖剣を支えにしてどうにか片膝をつくのがやっとの状態であった。
強力無比な白焔付加だが、その使用には強い集中力が求められる。それだけに消耗も著しく、ここぞという時に使うのが正しい使い方だ。今の僕では、発動した状態を長時間維持することは難しかった。
立ち上がることもままならない僕に、巨大甲冑が近づいてくる。その一歩の動作は遅くとも大きさが人間の比ではない。接近してくる巨体を前に僕は歯噛みをする。
「シオン、レリクスを頼む!」
「ガーベルトさん、援護します!」
僕の前にガーベルトが出た。大剣を振りかぶり甲冑へと肉薄する。マユリもガーベルトに続いて攻撃魔法を連発していく。
「回復しますよ、レリクスさん」
滝のように汗を流しながらも、シオンが懸命に回復魔法を施す。精神の疲弊はいかんともし難いが、地面に叩き付けられた際の痛みは無くなっていった。
「いやはや、中々に厳しい状況ですね」
あえて軽い調子で口を開いたシオンだったが、回復魔法の光は薄い。彼の魔法もいよいよ限界らしい。それでも僕を立ち上がらせるためにどうにか魔法を絞り出す。
「――ッ! ガーベルトさん、危ない!!」
マユリの悲鳴が響いた。
見れば、ガーベルト自慢の大剣がその半ばから先端に欠けて失われていた。一級傭兵が扱うに相応しい逸品であり、地面も融解させる甲冑の剣と何度も打ち合っていたが、とうとう熱に耐えきれなかったのだ。
続けて振るわれる甲冑の持つ剣を、半分以下の長さになってしまった大剣で防ぐガーベルトは、先ほどの僕と同じように吹き飛ばされる。
「ガーベルトさん――ッ!?」
吹き飛ばされたのがマユリのいる方向だった。彼女は急いでガーベルトの元に駆け寄るが、飛ばされた拍子に剣が手からこぼれ落ちていた。それを見たマユリが大きく目を見開いた。
「ちっ、ちょいと我慢しすぎたみたいだ……」
舌打ちを交えて呟くガーベルトの顔は痛みに引きつっていた。空になった彼の手の平を見れば、真っ赤に焼けただれていた。
剣が溶けるほどの超高温。その柄に伝わる熱量も尋常では無い。それを耐えてまで柄を握り続けていれば、どうなるかは明白。それを押してまで、ガーベルトは剣を振るい続けていたのだ。
「手がそんなになるまで、なんて無茶を――」
「俺が耐えれば、それだけレリクスが立て直す時間を稼げる。だったら選択の余地はねぇだろう。まぁ、この手じゃシオンに回復して貰うまで剣も握れねぇがな」
痛みを堪えながらも、ガーベルトは言った。それを聞いたマユリは決意したような表情になった。
「そうです! 私たちにはレリクス様がいるんです! あの方がいる限り、私たちが諦める事はあり得ないんです!」
叫び、立ち上がって魔法を唱えはじめるマユリ。もう限界はとっくに超えているはずなのに、なおも強力な魔法を唱えようとしていた。
「……そうですね。あなたがやらなければ誰がやるんですか、という話ですよね」
シオンの手から回復魔法の光が消える。躯の痛みは完全に無くなったが、彼はがくりと肩を落とした。ついに魔力が底をついたのだ。
「僕のサポートはここまでです。後は任せましたよ」
力は籠もっていなくとも、その笑みには僕への万感の信頼が込められていたのは疑いようも無かった。
シオンだけではない。
マユリもガーベルとも、これほどの危機に陥っているのに微塵も疑ってはいなかった。
それはどうしてか。
──勇者である僕がいるからだ。
「レリクス様」
「レリクス」
「レリクスさん」
仲間たちの声が、思いが、僕に集まっていくのが分かる。
目の前にいるのは、なおも健在である強大な敵。
仲間はほとんど戦う力を失っており、僕自身も白焔付加の反動で限界に近かった。
ただそれでも、不思議と……負ける気がしなかった(・・・・・)。
──胸が高鳴った。
心の奥底に『炎』が灯った――そう感じられたのだ。
「至りましたね、マスター」
この手にある、聖剣が声を発した。
口調は普段と変わらず、けれどもその内側に歓喜が宿っているのを感じ取った。それは念話ではなく実際に声として聞こえることからよく分かった。
「そうです。仲間の声、民の願い、人の希望。それらを受け、勇者はどのような苦難があろうとも立ち上がるのです」
そうだ。僕は決して一人では無い。
僕は勇者。僕の背中には仲間やこの国の人々の思いがある。僕の力は決して、僕だけのために振るわれるのでない。
「マスター。ここで一つ謝罪を。私はこれまであなたに偽りを告げていました。『聖剣レイヴァ』は私の側面の一つに過ぎません」
頭の中に浮かび上がる、言葉とイメージ。
「しかし、マスターは辿り着きました。もう一つ私を知るに相応しき存在に」
同時に、右手の聖痕から凄まじい光と白焔が発せられた。
聖痕から全身へと駆け巡る脈動が、尽きたはずの力を漲らせる。僕は二本の足で地面を踏みしめ、立ち上がった。
「まだ道半ばではあろうとも、その姿はまさに私が待ち望んだ勇者に他なりません。
故に授けましょう、我が聖なる姿を。
唱えるのです、我が聖なる名を」
僕は心の赴くままに、その名を口にした。
「悪滅の聖焔刃よ――来い」
純白の光が焔となり、この手にある剣を新たなる形へと変貌させていく。
刀身は純白の輝きを放つ巨大な刃に。そして柄はその刃を振るうために、僕の背丈を大きく超えるほどの長さに伸びていた。
それはもしかしたら『聖剣』と呼ぶには相応しくないかもしれない。
──まさに純白の焔を宿した『聖槍』であった。
こちらの様相に脅威を感じたのか。巨大甲冑はこれまでに無い行動を取る。四本のそれぞれに持っていた炎の剣。その内の三本が消え、残る一本が巨大化したのだ。四つに分けていた力を一つに集めたのだろう。
高らかに掲げた巨大な炎の剣で僕らを消滅させようと、甲冑が迫り来る。
『行きなさい、マスター。仲間のために。人々のために。全ての悪を討ち滅ぼし、その光で世界を照らすのです』
「ああ、分かったよ」
僕は聖槍を構えた。
――どれほどの困難が待ち受けていようとも。
「みんなの声が聞こえる限り、僕は必ず乗り越えてみせる!」
確固たる決意と共に振るった悪滅の聖炎刃は、甲冑の持つ巨大な炎の剣を飲み込み、その本体を断ち切った。
甲冑の断面からまるで断末魔のように青い炎が吹き出し、それが消えれば甲冑は力を失いバラバラとなって地面にこぼれ落ちた。
「これこそが、マスターレリクスの新たなる勇者伝説の始まりです」
レイヴァの厳かでありながらも期待に満ちた声が紡がれたのであった。
注)聖剣だ聖槍だ世間に広がってるのが剣なのおかしくねぇかというツッコミは一切受け付けないのでそこんところよろしく。
レリクスは単なる滑稽な道化勇者ではありません。ぶっちゃけ、ユキナというヤベェ奴がいなかったら立派に物語の主人公張れるくらいの好青年です。ただ、ヤベェ奴が同じ時代にいたのが大問題。
本来であるならレイヴァの覚醒は魔族襲撃事件での邪竜戦で発動していたと思われます。その場合、国王さまとか死んじゃってた可能性があるけど、物語の山場としては正しい方向性だったのではと予想されます。
次回で勇者回とこの章は完結の予定です。