side braver9
勇者視点のお話。
今回のお話を含めた三話で、この章は終わりの予定。
国からの要請に従い、僕らは魔族襲撃事件の重要な手掛かりが遺されていると思わしき洞窟の調査に乗り出した。
洞窟の規模や生息する危険な生物。何もかもが不明である中、僕らは万全の準備を整えて内部へと突入した。
やはりと言うべきか、途中で襲いかかってくる厄獣は、王都の付近に出没する類いとは異なっていた。
しかし、初めて戦う厄獣であっても問題なく迎え撃つことができた。これまで王都周辺の各地を周り、様々な厄獣と戦ってきた経験が生きた。初見の敵であろうとも動揺することもなく、落ち着いて剣を振るうことができた。
そうして洞窟の探索を開始して三日目。
――僕たちの前には、かつてない強敵が立ち塞がっていた。
四本の腕を持った巨大な甲冑。甲冑の隙間からは青白い火が溢れ出しており、腕には自身から吹き出す炎で形作られた剣が握られている。その熱量は離れた位置にいるのに伝わってくるほど。軽く振るわれただけで人間の躯など容易く焼き尽くしてしまうだろう。
以前にも聖剣が納められていた勇者の神殿で、動く鎧という、似たような厄獣と戦ったことがある。
しかし、僕の目の前にいるこれはそれよりも遙かに強力であり――邪悪な気配が漂ってきてくる。
「爆炎よ!」
マユリが杖をかざして唱えれば、巨大な火球が放たれ四本腕に命中し大爆発を起こす。
限られた空間内で大きすぎる威力の魔法を使うのは本来なら御法度。余波が天井を崩して生き埋めになる危険性があるからだ。
しかし、僕らが今いる空間は、八メートル近くある四本腕がその自慢の腕に持つ武器を振り回してもなお、余りある広さを持っていた。おかげでマユリも気兼ねなく高威力の魔法を使うことができる。
ただ、使うことができたとしても、それが通ずるかはまた別の問題。
爆炎で巻き起こった粉塵が消えれば、そこには鎧が多少焦げた以外に目立った損壊の無い巨大甲冑だ。
――ガギンッ!
マユリの爆発の魔法は攻撃が目的だけでは無い。舞い上がった煙に紛れてガーベルトが接近するための布石だったのだ。彼の振るった大剣が、甲冑の膝辺りを打ち据える。
十分に力の乗った一撃だ。けれども、打ち込んだガーベルトの表情は優れない。歯を噛みしめながらもその場を飛び退けば、巨大甲冑の四本の腕の一本が振るわれ地面を溶かす。
一度下がったガーベルトは、大剣が打った部位を睨み付けて叫ぶ。
「これだけ叩いてるのにビクともしやがらねぇ! どれだけ堅ぇんだよ!」
歴戦の一級傭兵であるガーベルトも焦りを覚えるほどの状況だった。
「シオン! もっとパワーを強化できねぇのかよ! これじゃじり貧だ!」
「今でさえ、あなたが耐えきれるギリギリのラインで調整してるんです。これ以上、強化の係数を上げれば、剣を振っただけで骨がへし折れますよ?」
ガーベルトは噛み付くようにシオンに言ったが、返ってきたのは冷たい反応。けれども、その表情には焦燥が浮かんでおり、呼吸も荒い。
シオンはこの巨大甲冑との戦闘を開始してからずっと、僕とガーベルトに支援魔法を絶やさずにかけ続けている。台詞に抑揚が無かったのは、口を動かすことに意識を割くことすら難しくなってきているからだ。
マユリも魔法を放ってから辛そうな表情を浮かべていた。彼女も戦闘が始まってからずっと高威力の魔法を使い続けており、シオンと同じで疲弊しているのだ。
まだ叫ぶ体力が残っているガーベルトも、健全とは言い難い。
豪快でありながらも巧みな身のこなしで四本の腕を掻い潜り、幾度となく大剣を振るっていた。しかし、甲冑の持つ剣の熱量は凄まじく、回避したところでその熱波が着実にガーベルトを削っている。おそらく、身に付けている鎧の下は熱で真っ赤になっていることだろう。
ただ、彼の言うとおりこのままではジリ貧。
相手は謎の力で動く甲冑。大してこちらは体力に限りがある人間。戦いが長引けばどちらが不利になるのは明白。
既に戦線が崩壊する予兆が見えている今、状況を打開するための一手が必要だ。
「白焔付加!」
「レリクスっ! おい馬鹿っ、無茶するんじゃねぇ!」
ガーベルトの叱責を耳にしながらも、聖剣に白い焔を纏わせながら僕は巨大甲冑へと突撃した。
振るわれる巨大甲冑の剣を迎え撃とうと白焔を強める。
僕もガーベルトと同じで、青白い炎の剣の直撃こそ免れているが、至近距離で振るわれる熱波で体力を焼かれていく。それでも歯を食いしばって耐える。
続けざまに振るわれる三本の腕に握られた炎の剣を、僕は全て白焔で斬り捨てる。四本目は危ういタイミングでありながらもどうにか迎え撃つ。
鋼鉄の外皮すら容易く両断する白焔の一撃。甲冑の炎の剣がどれほどの熱量を秘めていようとも、この聖剣で断ち切ることができる。
しかし、断ち切ることはできても消滅させることはできなかった。
四本目の炎の剣をどうにか断ち切れば、次に襲いかかるのは一本目の腕に握られた炎の剣だ。
巨大甲冑の内側から溢れ出す炎で作られた剣は、どれほど切り刻んだとしてもすぐさま渦中から吹き出す炎によって元の形を取り戻してしまうのだ。
つまり、大本の甲冑自身を叩かない限り、巨大甲冑の攻撃は止まらないのだ。
これまで何度も白焔付加で甲冑の鎧を切り裂こうと挑んでも、本命まで届かない。その前に何重にも折り重なった炎の剣戟によって押しつぶされるのだった
ダンジョンアタックなど長々と書いてもつまらないので、過程は省いてさっくり進めました。