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第十三話 傭兵になるようですが

 

 キュネイと別れ、俺は安宿へと戻る。今日はもう時間も遅いので、本格的に動き出すのは明日からだ。


「それで相棒。金を稼ぐ宛てはあるのか?」


 日も落ち、路地を照らすのは星明かりだけ。周囲に人気も無いので、グラムは声を発して俺に語りかけてきた。


「俺が言わなくても分かってるたぁ思うが、あのおっぱいちゃんキュネイが掲示した金額はべらぼうに高いぞ」


 おっぱいちゃんっておい。確かに大きいけどさ。たゆんたゆんだったけどさ。もうちょっと言い方あるだろ。おっぱい大きかったけど(大事なので二回言いました)。


「俺だって理解してる。普通に農業してたら、稼ぐのにそれこそ年単位の時間が掛かる」


 現在手元にある金だって、今までこつこつと貯金してきた分なのだ。本気で節約して稼ぐことに全力を注いでも、今言ったとおりの時間が必要になってくる。


「けど、手がないわけじゃない。幸いにも手段はこの前格安で手に入ったしな」

「そいつぁ俺の事かい?」

「ああ。予定変更だグラム。悪いがお前を存分に使わせて貰うことになりそうだ」

「はっはっは! 俺に遠慮する必要は無いぜ相棒!」


 グラムは痛快に笑い飛ばした。


「俺ぁ武器だ。相棒つかいてに従って振るわれるのが本懐。しかもそれが女を買う為ってのが堪らねぇ! 武器冥利に尽きるってもんだ!!」


 一頻ひとしきりに笑ったグラムが続ける。


「で、改めて聞くがどうやって金を稼ぐんだ?」

「決まってるだろ」


 一介の村人が実際に武器を使って金を稼ぐ方法など、一つしか無い。


「傭兵稼業だよ」




 ──傭兵とは、金次第でどんな仕事でも請け負う職業者だ。


 元々は金銭で雇われ、人間同士の戦いに駆り出される者たちの事を指していた。


 それがいつの頃か、戦う相手が厄獣モンスターとなり、その内に駆除した厄獣モンスターの死骸からとれる物資の採取を行うようになり、果てには戦闘に限らず何かしらの厄介事を代行して報酬を得る何でも屋へと変じていった。


 現在、人間を相手にするような仕事はあくまで傭兵の仕事の一つに過ぎなくなっていた。


 本来の傭兵からずれてしまった今でも『傭兵』の名が使用されているのは、過去に傭兵に仕事を斡旋していた互助会のようなものが、そのまま現在の傭兵を管理する組織に転じたからだ。


「下手に名前を変えるよりもそのままの方が運用がしやすい、というのが理由らしいぜ」

「へぇぇ、そんな理由だったんだ。知らなかったわ」

「……なんで武器である俺より人間である相棒の方が知らないんだよ。こいつぁ、傭兵にとって基礎中の基礎みたいな知識だぞ」

「俺の本職は傭兵じゃなくて農業だったからなぁ。傭兵稼業はあくまで小遣い稼ぎみたいなもんだったしな」


「そもそもなんで傭兵って名前なんだ?」という俺の率直な疑問に、グラムが懇切丁寧に解説してくれた。ほんと何なんだろうね、この槍。


 俺は今、王都の近くにある林に赴いている。


 ──つい二時間ほど前に、俺は傭兵に仕事を斡旋する『傭兵組合』の建物に行ってきた。


 もちろん、傭兵としての登録するためだ。


 登録そのものは簡単だ。料金を払って傭兵免許を発行して貰えば良い。特にこれと言った試験はない。


 傭兵になることは簡単でも、そこから上へと上り詰めるのは並大抵ではない。


 傭兵は下は五級から上は一級。さらにはその上にある特級を含む計六階級で区分されている。もちろん数字が少なくなればなるほど有能な傭兵である事の証明だ。


 現在の俺は登録したばかりなので一番下の五級。これより上の階級に行くには依頼を数多くこなし、実績を積まなければならない。


 もっとも、俺が欲しいのは傭兵としての地位ではなく、キュネイを買うための資金だ。手早く金を稼ぐのに傭兵以上に適した仕事はない。


「傭兵組合に登録すれば、組合から厄獣モンスターの駆除依頼から死骸の買い取りもしてくれるからな。一粒で二度美味しい仕事だ」

「そう上手くいくかねぇ」


 グラムの訝しげな声は、実は俺の本音でもあった。


 傭兵は当たれば相当な稼ぎを得られる職ではあったが、それと同時に大きな危険を孕む仕事でも有名だ。


 何でも屋とは言うが、その仕事の大半は厄獣モンスターの駆除討伐。討伐対象であった厄獣モンスターに返り討ちに遭い、命を失う者が後を絶たない。下手をすれば俺もその内の一人になりかねない。


 なので──。


「大物は狙わず、ひたすら小物を狩りまくる!」


 拳をぐっと握り、宣言する俺。


「せこいな相棒」

「やかましい。女に抱かれる前に死神に抱かれたら笑い話にもならねぇよ」


 おそらく、グラムに目が合ったらジト目を向けてきたことだろう。俺も俺自身を傍目から見ていたら同じような目をしていたに違いない。だからといってこの方針を曲げるつもりはない。


 上昇志向があるのなら大物を狙って行けば良いのだろうが、現時点で俺は別に傭兵で食っていくつもりは無い。キュネイを買えるだけの資金を得るのが第一目標であり、それが完遂できれば後はレリクスが魔王討伐の旅に出るまでのんびりと王都で暮らすだけだ。



 前置きはこのくらいにしておいて、そろそろ本腰を入れて厄獣モンスターの討伐を行おうか。


「お、さっそくお出ましか」


 森に入ってから少しして、すぐにお目当ての厄獣モンスターを発見した。


 一見すれば、何の変哲も無いネズミ。


 だが、通常のネズミよりも遙かにデカい。中型犬に匹敵するほどの大きさだ。


 こいつは俺にとって馴染みのある厄獣モンスター


 その名も『ビックラット』。見た目通りの名前である。


 俺が受けた依頼というのはまさにコレ。ビックラットの駆除だ。


 ビックラットはよく畑に出没しては農作物を食い荒す、凶暴な個体になると鶏などの小さな家畜にも襲いかかる。とにかく、何でも食い荒らす超雑食性でよく知られている。まさに農業の天敵とも呼べる厄獣モンスターだ。

 ただ、ビックラットは百害はあるが利がないわけでない。

 通常のネズミと違い、ビックラットの肉は結構美味い。最高級の肉ほどではないにしろ、通常の家畜よりかは美味い。


 こいつが出没すると、農作物が駄目になる代わりに、しばらく食卓に肉が並ぶという事態が発生するという不思議な現象が起こる。ただ、量的に言えば被害の方が圧倒的に多いのでやはり迅速な駆除が求められる。


 形がそのままネズミと言うことでその肉を敬遠する者は結構いるが、こいつの駆除を日常的に行っている者にとってはなじみ深い肉素材なのだ。


ネズミは不衛生じゃね?

というツッコミはなしでお願いします。ファンタジーなのでその辺りは温かい目で見守っててください。

あえて補足するなら、お肉はちゃんと火を通して食べるのが普通です。

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― 新着の感想 ―
鼠食文化なんてものが地球上には存在するんだから、異世界であれば言わずもがなか。
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