第百十四話 奇襲するのですが
偵察を終えた俺たちは、盗賊のアジトから離れた場所で待機していた傭兵達の元へと戻る。
攫われた人たちの存在を伝えると、義憤を抱く者や、さして興味を抱かないものと、反応はまちまちだ。
なんにせよ、彼女たちを見捨てるわけにはいかない。
そうなると、盗賊団の壊滅と、捕虜の救出。この二つを同時に達成する必要が出てきた。
盗賊を直接相手にし、注意を引く者。
人質の安全を確保し、避難させる者。
なんのひねりも無いもの凄く単純な役回り。もの凄く単純ではあるが、傭兵なんてこの位にシンプルな方がむしろ動きやすいのだ。
この場にいる傭兵のほとんどは、個人か、組んでも三~四人程度での活動が主。それが今は十余名ほど。これだけの人数が初対面の相手と足並みを揃えて作戦を遂行、なんて高度な芸当が出来るはずも無い。
だったら、最初から得意分野を周知し、互いを干渉しない程度の領域を把握しておけば良いのだ。その上で、シンプルな役回りを決めてしまえば、余計なことを考える必要もなくなる。
――そんなわけで、俺たちは今、盗賊のアジトからギリギリ見えない位置に隠れている。
アジトの周囲は切り立った岩壁に囲まれており、中に入るには正面からしか無い。だが、そこにはどこから材料を運び込んだのか、それなりに立派な作りの木作りの門が設置されており、見張り役も立っている。
こうなると、人知れず忍び込むのは少し難しい。かといって無策に突っ込めば直ぐに門を閉じられ、攻めあぐねてしまう。
魔法で吹き飛ばすという手もあったが、これは却下された。門の作りは見るからに頑丈であり、吹き飛ばすのはかなりの威力の魔法が必要となる。
相応の魔法をアイナは習得していたが、この案は却下された。もし仮に盗賊の中に魔法使いがいる場合、この段階で発生した魔力を察知される恐れがあるらしい。
盗賊なんかに身をやつす魔法使いがいるのかと疑問には思ったが、何かしらの職に就かず、かといって傭兵にでもなく、下手に力を持つが故に道を踏み外す魔法使いというのは案外いるらしい。
盗賊の一味に手を貸したり、犯罪組織の用心棒に、魔法使いが雇われるというのはよく聞く話とはミカゲの談。実際にそう言った魔法使いを相手取ったこともあったようだ。
ただ単に盗賊の殲滅であるのならば、ごり押しでもどうにかなるかも知れない。だが、今回はそこに捕虜の救出が加わっている。なるべくなら奇襲という形を取りたい。
速攻で準備できて、かつ門を破壊できる威力を持った一撃。
実は心当たりがあった。
ということで――。
「準備は良いか?」
俺は他の傭兵達へと言った。
ミカゲやキュネイ、ルデルと言った俺と一緒の馬車に乗っていた面子はやる気十分な様子。だが、もう片方の馬車に乗っていた面子に関して微妙だ。やる気は有るのだろうが、少しばかり不審げな視線をこちらに向けてくる。
俺が言い出した案は、俺の〝実績〟をよく知る人間で無ければ受け入れ難いのは承知の上。それでも彼らが今もこうして不平を漏らさずにいるのは、この中で最も階級の高いミカゲが了承したからだ。
気持ちは分からなくも無い。
逆の立場だったら『こいつ何言ってんだ?』って絶対に文句垂れてる。
だが、状況が状況だけに、少しばかりの間は不満を飲み込んで貰おう。
「私としては、あまり気が乗らないんだけどねぇ」
「ははは、まぁその辺りは悪いとは思ってるよ、本当に」
「だったら、なおさら無茶をして欲しくないわ」
キュネイがジト目をこちらに向けてくるのは、この後に俺がすることに対しての不平不満だ。こちらも一度経験があるために、その後にどんなことになるか分かっているからだ。
「……でも、事は人命に関わるものね。納得は出来ないけど理解は出来る。良いわ、我慢してあげる」
「助かるよ。で、アイナ。いけるのか?」
「…………問題ありません」
と頷きつつも、アイナは緊張気味だ。初めて一緒に厄獣を狩った時に比べて、遙かに重苦しい雰囲気を纏っている。 彼女も俺と同じだ。これまで厄獣と戦った経験はあれど、殺意を持った人間と戦ったことが無い。
訓練とは違うのだと、俺も分かっている。
殺す気で刃を向けてくる相手に手加減を出来るほど、俺は腕達者では無い。
だからこそ、待ち受ける結果に対して俺も思うところはある。
そしてそれを、アイナにも背負わせることに、些かの迷いはある。
「まだ今なら、ここで待ってることも出来るぞ。誰がなんと言おうとも俺は責めない」
「いいえ……あなたに付いていくと決めた以上、いずれは通る道です。私も覚悟を決めました」
アイナは唾を飲み込み、己を奮い立たせるように強く言葉を口にした。
「そうか。じゃぁ……始めるぞ!」
俺は物陰から飛び出し、門に向けて勢いよく掛けだした。
俺の姿に、見張りをしていた盗賊達が気が付く。にわかに門の付近が騒がしくなるり、開かれた門が閉ざされる。俺が全速力で駆けたとしても、辿り着く頃には門は固く閉ざされるだろう。
構わず俺は走る勢いのまま、逆手に持った黒槍を振りかぶった。同時に重量増加を使う。
「行くぞグラム!」
『合点承知だぁっ!』
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」
超重量と化した黒槍を、全力で投げ放った。
そして。
――ドガッシャァァァァァンッッ!!
黒い剛矢となったグラムが着弾した次の瞬間、派手な破砕音と共に門が吹き飛んだ。衝撃の余波に、門番をしていた盗賊も巻き込まれて地面を転がる。
後に残されたのは、バラバラになった門の残骸とm地面に倒れる盗賊が数名。もはや、アジトと外界を阻んでいたものは存在していなかった。
「よっしゃ! どんぴしゃで命ちゅういたたたたっっ!?」
俺は握り拳を作ってガッツポーズを取るが、全身に伝わる痛みにそのまま態勢で地面に膝をついた。案の定、超重量の槍を投擲した反動が来たのだ。覚悟はしていたが、やっぱりいたいものは痛かった。
「ああもう! 大丈夫!?」
「悪い! 超痛い! 泣きそう!!」
「もう、本当に無茶ばっかりするんだから! 治すこちらの身にもなってみてよ!」
キュネイは苦言をぶつけつつも、素早く俺に治療を施してくれる。
「あっはっは! さすがは黒刃だ! これだよ、これが見たかったんだよ俺は!」
何だか一名ほど、妙にハイテンションになってる奴がいるな。首だけを動かして声がした方を向けば、キラキラした目でルデルがこちらを見ていた。側にいるガディスは少し目を見開いている程度だ。
超重量による槍の投擲は見たことが無くとも、王城の床をぶち抜いて下の階に乱入した場面なら彼らも目撃しているからな。石造りの立派な門なら無理だったろうが、全部が木造でできているならなんとかなると思っていた。
対して、先ほどまで不信感一杯だった傭兵達は、唖然となりながら木っ端微塵になった門を見ていた。気持ちは分からなくもないよ、本当に。
「何をぼさっとしているのですか!!」
「「「――――ッッ!?」」」
ミカゲの激励に我に返った傭兵達。
「まだ相手の態勢が整いきっていない、今が奇襲の好機! これを逃す手はありません!」
やるべき事を思い出した傭兵達の目に力が宿る。立ち直ってからの行動は早かった。各々の武器を取り出すと、一斉に駆け出す。
「ユキナ君、動けるようにはしたわ!」
「助かった。後は自分で治せる」
ある程度はキュネイに治してもらってから、自分で治療を続行する。こうした方が俺もキュネイも自由に動けるからだ。
既に先行した傭兵達は破壊された門の近くにまで辿り着いていた。これは手筈通りだ。最初から馬車に乗っていた組み合わせのまま、二手に分かれてアジトに突入することになっていた。
「さて、俺たちも行くかい」
最後にミカゲやルデル達を見渡たす。全員が力強く頷くのを確認してから、俺たちは一斉に駆けだした。
どうもこんにちわ。
ナカノムラです。
実はこの度ツイッターでもすでにご報告していたのですが。
『勇者伝説の裏側で俺は英雄伝説を作ります 〜王道殺しの英雄譚〜』のコミカライズが連載開始いたしました!
(掲載サイトのアドレス↓)
https://futabanet.jp/list/monster/work/5dd502de77656184ba090000
おそらく、小説家にとってコミカライズというのは一つの大きな目標ではないかと思ってます。
それが叶ってもう感無量です。
原作者ではあるのですが、早く続きが読みたいと思える面白さ(後女の子が可愛い)なので、ぜひどうぞ。
以上、ナカノムラでした。