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第百十話 分水嶺のようですが

今話も三人称です。

次話からユキナ視点に戻ります。


 カランが答えた瞬間、ミカゲが発していた威圧が潜まる。


「おや、てっきり激情するかと思っていたがね」


 意外そうな顔をするカランに、ミカゲは冷静に答える。


「私がここに来たのはあくまでも確認のため。あなたが本当にそのつもりでユキナ様に盗賊団の討伐を依頼したか、確かめたかっただけです」


 盗賊団の討伐依頼。見知らぬ多人数での合同依頼。どちらもユキナにとっては初めての経験だ。


 だが、それとは別に、ユキナがコレまで受けてきた依頼とは決定的に違う点がある


 それは――討つべき相手が同じ〝人間〟であること。


「君の言うとおりだ、銀閃。三級よりも上を目指すのであればいずれは必ず、同族にんげんと刃を交える瞬間がやってくるだろう」


 本能のままに襲いかかってくる厄獣とは違う。


 知性を持ち意思疎通が可能である人間を〝敵〟とした時。


 カランが本当に見極めたいのは、ユキナがその〝最後の一線〟を踏み越えられるかどうかだ。


「二級に昇格した者は、形は違えど何かしらの形で〝殺人それ〟を経験している。君もそうだろう」

「……ええ、その通りです」


 ミカゲは抑揚も無く答えた。


 傭兵とはそもそも、人間同士の争いを生業にする職であった。


 それがいつしか、厄獣の討伐を初めとした何でも屋のような扱いになるようになった。だが、決して傭兵という存在の本質が変わってしまったわけではない。


「ユキナ君が先の事件で〝魔族〟を討っているという話は聞いている。だが、姿形は似ていようが魔族は〝人間〟ではない。理性では同じように感じているかもしれんが、実際に討つべき同族にんげんを前にしたとき、躊躇無く刃を振るえるか。そこが彼の分水嶺だ」


 どれほどの才能を秘めていたとしても、傭兵として上の階級を目指すのであれば、避けては通れない道。


 おおよその場合、傭兵を志すものであれば大概は問題ない。一つの職業として認められ、それなりの規律を守ることを求められる傭兵という職ではあったが、それを構成する大半は荒くれ者だ。

 当然、その中には傭兵になる前に、あるいは三級に昇格する前に〝それ〟を経験した事のある者もいる。人によっては通過点にもならないだろう。


 だが中には将来を有望視されながらも、人を傷付けることを極端に恐れる者がいる。能力は優れていても、資質的に傭兵に向いていないこともある。カランはそう言った傭兵を何人も見てきていた。


「……もっとも、ユキナ君の場合はコレは当てはまらないだろうがね」


 仰々しい形に言ってはみたものの、カランはさほど心配はしていなかった。


 カランのコレまでの経験からして、ユキナは積極的に人を傷付けるような人間では無い。だが逆に、必要と判断すれば、どこまでも覚悟を決められる人間でもあると考えていた。


 カランは椅子に深く腰を掛け、ミカゲを見据える。


「こんなところだろう。ご満足いただけたかな?」

「……ええ。先ほども言いましたが、私がここに来たのはあくまでもあなたの真意を確認するためです」


 ミカゲの口振りは、言外にユキナが〝それ〟を乗り越えられると微塵も疑っていないことの証左であった。


「随分と、彼のことを信頼しているようだな」

「配下が主君を信頼するのは当然のこと。そして万が一にユキナ様が挫けようとも、全身全霊を持ってあの方を助けるのが私の役目です」


 落ち着いた口調でありながらも、一抹の迷いも無くミカゲが言い切る。


 打てば響くような彼女の答えに、カランは僅かに言葉を失い、それから愉快げにクツクツと笑った。


「……何が可笑しいのですか」

「いやなに。君も随分と変わったと、改めて思ってな」


 カランの知る以前のミカゲは、常に抜き身の刃のような鋭い雰囲気を纏っていた。下手に触れれば怪我を負うような鋭さを持ち、自他共に厳しいことで有名であった。


 それが今は、厳しさは相変わらずかもしれないが、無作為にそれが振るわれるような事は無くなっていた。


 剣で例えるのならば、まさに収まるべき〝鞘〟を見つけた、といったところだ。必要でない時は鞘に収まり、必要なときに躊躇なく抜き放たれる。


 その〝鞘〟が誰なのかは、もはや口にするまでも無いだろう。


「……それは褒めているのですか?」

「少なくとも、職員たちは前よりも話しかけやすくなったと言っている」

「自分ではあまりそのように感じたことはないのですが」

「こういうものは、当人が一番気が付かないものだ」


 それと、ミカゲの与り知らぬところではあるが、最近のミカゲは実は組合の中で人気が出始めていた。


 元より容姿端麗で実力の高さも合いまり、とっつきにくい点はあれど逆にそのストイックさが好ましいと、一部の傭兵たちからは憧れを抱かれていた。


 それが、主君を得て落ち着きを持つようになってから、ミカゲに憧れを持つ者が増えていった。特に、ユキナと一緒にいる時、不意に見せる女性らしさにノックアウトされた者は多い。


 ――実は、それがとある問題になっていたりするのだが、それはこの場で語ることでは無いだろう。


「それでは、私はこれで失礼します」

「聞き忘れていたが、君は――」

「ユキナ様が参加されるのでしたら、盗賊討伐の依頼は私も同道いたします。おそらく、アイナ様とキュネイも同じでしょう。では」


 カランの質問を先回りして答え、ミカゲは部屋を出て行った。

 


どうもこんにちわ。

ナカノムラです。


十二月も残りわずかとなりました。

今回もナカノムラはコミケにサークル参加いたします。


サークル名『ナカノ村の里』は日曜日(二日目)の西C34aに配置されました。

オリジナル青春譚の小説を頒布予定。新刊も既刊も持っていきます。

ぜひお越しください。


以上、ナカノムラでした。


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― 新着の感想 ―
収まるべき鞘を見つけたのか、 収まるべき鞘になったのか、どっちですかねぇ。笑
[一言] 剣で例えるのならば、まさに収まるべき〝鞘〟を見つけた、といったところだ。 ミカゲって剣で例えると鞘の方だよね
[気になる点] 傭兵業ってどんな仕事だろう。冒険者と違うのかな
2019/12/22 17:58 退会済み
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