第百九話 作者は修羅場だったのです
はいどうも、
ナカノムラです
今回は途中から第三人称で話が進みます。
「早速だが君に一つ、依頼を任せたい」
「本当に早速だな……」
昇格や二つ名授与の話以上に、カランはイキイキとしている様子だ。彼にとっては、前の二つよりもこちらの方が本題だったのかもしれない。
「安心したまえ。規定通り、組合から傭兵に対して無理強いをするような事は無い」
言いながら、カランは一枚の書類――依頼書を取り出すとこちらに差し出した。
「だが、わざわざ私がこの依頼を君に回した意図を少しでも汲んでもらいたいとは思うがね」
持って回したような言い回しを耳にしつつ、俺はカランから依頼書を受け取った。
書面に目を通し、カランへの確認も含めて読み上げた。
「えーっとなになに。……盗賊団の討伐?」
厄獣の存在があり人間同士で争っている余裕はどこの国にも無い。共通の敵が啀み合っていた者たちの手を組ませるというのは俺も皮肉な話だと思っている。
だが一方で、全ての争いや問題が消えたわけでも無かった。
盗賊団というのもその一つ。暴力行為を用いて村や町、人々を襲い物資を強奪するならず者たちの集まり。
厄獣と同じく、各所を常に悩ませている問題だ。
もの凄くざっくりと言ってしまうと、迷惑度は厄獣とさほど変わらないのではと思わなくも無い。
「三級からはこの手の依頼も受注可能になる。早い内から経験しておくのも悪くないだろう。もちろん、この依頼は君の実力を加味した上での推薦だ」
依頼書の記載をさらに読み進めると、この依頼が個人では無く複数人の傭兵で当たる旨が記されていた。
「……この話、俺だけじゃ無くてミカゲも一緒に受ける前提で持ちかけてきたんじゃねぇか」
俺が疑いの目を向けると、カランは苦笑した。
「言いたいことは分かる。銀閃を参加させる為に君を出汁に使う――という点があることも否定はしない。だが、それを言ってしまえばアイナ君やキュネイ君。彼女たちの協力も出来れば取り付けたい」
「アイナもか?」
キュネイは傭兵ではないが、傭兵組合の協力要員という位置付けだ。組合からの要請に協力し、怪我の治療等を引き受ける。俺の四級昇格試験の時のことだな。
また、単独での仕事を請け負うことはできないが、保証人となる傭兵と同行することで共に依頼を受けることができ、成功すれば報酬ももらえる。この場合、俺とミカゲが該当する。
ただ、アイナはまだ五級になったばかりの新人。俺は彼女の魔法使いとしての実力を知っているが、カランは知らないはずだ。
「アイナ君のように、前線に立っても戦えるような魔法使いは貴重な人材だ。彼女にも経験を積ませるという意味では、一緒に依頼を受けてもらいたい」
傭兵というのは〝学〟がなくてもなれる職というのもあるからか、魔法を習得している人材は全体の数割にも満たないというのはミカゲから聞いている。魔法を習得できるような教養があるのならば、もっと安全に安定して稼げる職業を選んでいる。
カランの言うことはもっともである。
「…………とりあえず、この話は持ち帰らせてもらうぜ。他の奴らを巻き込むってのならなおさらだ。みんなと話して決める」
「無論だとも。むしろ、この場で即決しなかった慎重さを持っているようでなによりだ」
なんだかんだで俺が慎重派であるのはカランも気が付いているようだ。話がすんなりと進んで助かる。
「それと、君たちの他に既に何人かの傭兵には声を掛けている」
「そうなのか?」
「相手は軍隊に比べれば小規模だが、それでも徒党を組んでいる輩だ。対処するにはそれなりの人手は必要だ」
つまり、この依頼を受けた場合、俺は勝手の知らぬ連中と行動を共にするわけか。おそらく、カランの言う〝経験〟とはコレも含まれているのだろう。
「ま、なんにせよ今日は一度帰るわ」
「返事は近日中。最長でも一週間で頼む。延々と野放しに出来るような輩たちでは無いからな」
そうして俺は、昇格と二つ名の他にオマケも貰って組合を後にしたのだった。
――side other
カランは組合の重鎮であり請け負っている仕事も多い。その日の晩は特に仕事が多く、その処理に負われて夜遅くまで組合の執務室に残っていた。
「あー肩が凝る。こうして机に向かいっぱなしだと、厄獣を相手に斬ったはったをしていた頃が懐かしくなるな」
誰に向けてでも無い言葉を呟く。今の落ち着いた日々も悪くは無いが、二級傭兵として危険な厄獣を相手にしていた刺激的な日々を思い返すことはあった。
激動の過去に思いを馳せ、ふとその思い出を一旦隅に追いやろうと頭を振る。改めて筆を動かそうとしたところで扉がノックされた。
自分を除けば、組合にはもうほとんど人は残っていないはず。いたとしても雑務を残した幾人か。その誰かと思いつつ、扉をノックした人物に入室を促す。
ところが、開かれた扉から姿を現した人物はカランが予想していた誰とも違った。
「こんな夜更けに名前も聞かずに人を招き入れるのは、元二級傭兵であってもいささか不用心ではありませんか?」
そう言ったのは、現二級傭兵であるミカゲだった。
カランは一瞬の驚きの後、一息を付くと筆を机に置き、改めて彼女の方を向いた。
「それを言ってしまえば、見目麗しき女性の夜歩きというのもあまり褒められたものでは無いだろう」
「あなたの世迷い言に付き合うために、ここに足を運んだのではありません」
鋭い刃物さながらの切れ味を持った言葉に、カランは苦笑した。
「それでお嬢さん、ご用件は何かな?」
「私が言うまでも無く、予想は付いているでしょうに」
それはそうなんだがね、とカランは机の上で手を組んだ。
彼女の顔を見た時点で、既に察しはできていた。というか、むしろ一つしか無い。
「…………ユキナ君に紹介した依頼の件だろう」
「そのことに関して、あなたの〝真意〟を確かめておきたかった」
「真意、とな?」
カランがユキナに依頼を紹介した際の台詞。その全ては等しく真実。ユキナに新たな経験を積ませるという意味では偽りは含まれていなかった。
だが――ユキナから話を聞いたミカゲは直感した。
語られた言葉の全てが真実であろうとも、語られた言葉が真実の全てでは無いと。
「盗賊団の相手。見知らぬ相手と組んでの合同依頼。なるほど、確かにその通りでしょう。全ては三級に上がってから増えてくるものです。ええ、偽りは無い」
ですが、とミカゲは視線を鋭くした。
現役二級傭兵の、殺気にも似た威圧を含んだ視線。一般人であれば腰を抜かし、並の傭兵であっても萎縮してしまうほどの圧。
「あなたが本当にユキナ様に積み重ねて欲しかったのは……人殺しの経験。違いますか?」
「……ご明察だ」
強烈な威圧をその身に受けつつも、カランはさらりと答えた。
いろいろあったんですよ。
別のお仕事やら同人の進行やら職場の変化やらインフルエンザやらで。
もうね、この一年で脳内作業量はトップレベルの忙しい日々だったんじゃねぇかと思うわけですよ。
実は今話に限ればもうチョイ早く更新できたかと思ったんですがね、
まぁインフルエンザ、掛かる時は掛かるもんですね。
ナカノムラは人生初でしたけど。
更新作業するかと思った矢先に病状がやべぇことに。
おかげて二日間はゼリー食オンリーでしたわ。
そんなわけで、今は回復してナカノムラは生きてます。
あ、それと余談ですが
アルファポリスで連載してた『転生ババァは見過ごせない!』ですが、今年十二月下旬に発売するので、書籍分はweb掲載分からすでに取り下げてしまいましたが、こちらもどうぞ宜しく。