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第百四話 外から見たユキナなのですが(三人称別視点)


  

 ――男は苛立っていた。


 誰の目から見ても明らかに不機嫌だと分かる形相。人の数が多いだけに、王都では大して珍しいものでもない。余計な問題トラブルは御免とばかりに、道行く者たちは男を遠回しに避けるようにして歩いて行く。己の醸し出す雰囲気が原因であるはずなのに、まるで腫れ物を扱うような周囲の反応に男の苛立ちがさらに募っていく。


 彼はユキナに絡み、逆にまったく相手にされなかった(と本人は思っている)男だ。


「くそっ、あの腰抜けの槍使いが……」


 吐き捨てるような台詞であったが、それが彼の器を表しているのだと気がつかないのは当人だけであった。


 彼は地元では腕利きの傭兵としてそれなりに評判の男であり、都で一旗上げるために最近になって来訪したのだ。


 男が王都に辿り着いたのは、魔族襲撃事件が起こった少し後の事。


 事件の話を聞いた男は後悔した。


 もう少し早く地元を出立していれば、襲撃事件に居合わせることが出来た。そうすれば傭兵としての名を上げるチャンスも舞い込んだであろうに、と。


 実際のところ、彼は三級傭兵であり、もし仮に事件当時に王都にいれば厄獣の大群を迎え撃つ作戦に召集を受けていただろう。活躍の好機チャンスを狙えた可能性はある。


 そのチャンスを彼が掴み取れたかは、また別の問題ではあるが。


 過ぎてしまったことを悔やんでも意味は無く、男は改めて王都で成り上がるために行動を開始した。


 王都に住む人の多さや、組合で活動している傭兵の層の厚さ。地元では腕利きとして名を馳せていた己が、実は傭兵としては中堅どころであり、似たり寄ったりの実力の者が多くいたこと。


 期待を胸に田舎から来た者が、都会の現実を前に打ちのめされる。どこにでもあるありふれた話だが、この男もその例に漏れなかった。まさに〝井の中のかわず、大海を知らず〟というやつであった。


 ──まぁ、こんな男の苦悩を長々と語ったところでぶっちゃけ〝誰得?〟なので割愛しよう。


 そんなこんななあれそれで理想通りに行かない現実に鬱憤を溜めつつ、それでも生活を送るためにちまちまと難易度の低い依頼で日々の糧を得る男。


 ところがある日、彼に転機が訪れる。


 切っ掛けは、組合に現れた一つの集団だ。


〝そいつ〟が現れた途端、組合内の空気が変わった。


 ――主に殺気で。


 まず最初に目を引いたのが連れの女性二人。


 女の傭兵は男に比べれば圧倒的に少ないが、かといって珍しいものでもない。パッと見渡せば組合内にもちらほらと剣を腰に下げた女を見つけることが出来る。


 しかし、彼女たちはレベルが違った。


 片方は銀の髪をした狐の獣人。見慣れぬ装いと変わった形の剣。纏う雰囲気には切れ味がある。


 もう一方は、魔法使いだろう。仕立ての良さそうなローブを被っており手には大振りの杖が携えられている。


 実力はさておき、二人の容姿は男が知る〝女性〟という存在に比べても圧倒的だった。魔法使いはローブで顔がよく見えなかったが、それでも両者が凄まじい美女であるのは疑いようもなかった。


 そして、彼女たちの前を歩くのは一人の男。


 彼を認識すると男は盛大に顔を顰めた。


 なにせ、そいつは〝槍〟を背負っていたからだ。


 男の地元でも、勇者伝説の影響があり活動する傭兵の大半は剣を扱っていた。逆に、槍を好んで使う者は皆無であった。


 なのに、槍を背負った男が美女二人を当然のように侍らせている。その事実が男の神経を逆撫でした。


 王都に来てからたまりに堪った鬱憤もあり、それをぶつけてやろうかと踏み出そうとしたところで、意外なことに付近にいた別の傭兵から待ったを掛けられることとなった。


 ――あの槍使いを甘く見ない方が良い。


 己を止めた傭兵の口から告げられたのはさらに意外すぎる言葉であった。


 あの槍使いは、ここしばらくの間に頭角を現し始めた期待の新人だという。傭兵となった当初こそ嘲笑の対象であったが、ある時を境に立て続けに大きな獲物を仕留めており先の事件でも大きな活躍を見せ付けたのだ。


 少なくとも、王都の傭兵であの槍使いを侮る者はもうほとんどいない。槍に対する偏見は消えなくとも、あの槍を背負った奴だけは別であると。


 男にとっては眉唾すぎる話であった。だが、その傭兵の語り口は嘘をついているようには聞こえなかった。


 では何故あの槍使いに対して皆が殺気を向けたのだ?


 疑問を口にすると傭兵は笑って応えた。


 あんな極上の美女二人を連れていたら当然だと。


 他の傭兵にも話を聞けば、誰からに似たり寄ったりの話を聞かされることになった。組合に現れたあの二人は槍使いの恋人であり、更には町医者を営んでいる元超高級娼婦までものにしているという話もあった。


 一人だけではなく複数から聞かされれば、それが真実だと分かるだろう。けれども男にとっては受け入れがたいものであった。


 自分が野心を胸を膨らませて王都に来てみれば、無慈悲な現実に打ちのめされている。なのにあの槍使いは己とは対照的に名を上げている。


 思い描いていた理想を、外側から見せ付けられているような気さえした。


 ――この嫉妬を成り上がりへの原動力と変じることができれば、男の理想は実現できたかもしれなかった。

別視点から見たユキナの評判を解説するよな回になりました。

なんだかんだで実績を積んでいるので、なんだかんだで認められているユキナ。

まぁ、美人の恋人がいるので殺気の対象にはなりますが、有名税みたいなもんでしょう。



それはそうと、ついに『勇者伝説の裏側で俺は英雄伝説を作ります 〜王道殺しの英雄譚〜』が発売されました。

これが今後にどう影響するか、期待や不安がないまぜの日々が続きます。


書籍書き下ろしや、をんさんの素晴らしいイラストが掲載されているので、是非ともよろしくお願いします。


以上、ナカノムラでした。



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