side braver8
十月十三日に『side braver8(前編)』を削除し、加筆を加えて改めて『side braver8』として投稿しました。
ご了承ください
魔族襲撃事件からしばらく。
僕らはこれまで以上に行動範囲を広げて、アークス各地の村や町を巡るようになった。
これは先の事件を受けて、王都が防備を固めたことも一因だった。平時には各地を巡回し厄獣を掃討する役を担っている部隊も、今はその何割かが王都に駐在している。
おかげで巡回部隊が人手不足。このまま放置しておけば、村や町に厄獣の被害が出る恐れがある。フットワークの軽い僕らは不足した巡回部隊の穴埋めとして動くこととなったのだ。
幸いかどうかは不明だが、魔族の襲撃は王都に照準を絞っていたようで、周辺地域への被害はほとんど無かった。だが、それでも事件の話は伝わっており、誰もが不安な顔をしていた。
恐れる民衆を勇気づけ、安心させるのもまた『勇者』の役割であり、これも各地を回る理由の一つだ。
そしておそらく、王都がある程度の落ち着きを取り戻せば、僕らはいよいよ国外へと足を踏み出すことになる。王からもそれに近しい話を聞かされていた。
魔族の襲撃は、魔王復活の前兆とみて間違いない。実際に魔族と戦ったときにも奴はそう嘯いていた。
もっとも、僕が大急ぎで王城の広間に辿り着いたときには、既にほとんどは決着していたに等しかった。
――話は魔族の襲撃、その手前の厄獣の大群を相手にしているときまで遡る。
王城が魔族の襲撃を受けているという報告を受けたのは、ちょうど厄獣を召喚する魔法陣の一つを破壊した頃だった。 厄獣を無限に排出する根源を絶ち、戦況が好転した興奮に、頭から冷や水を掛けられたかのようだった。
その時になって、僕らはこの厄獣の大軍が〝陽動〟であることに気が付いた。
王都が落ちれば国が陥落する。
国軍の隊長や傭兵たちの声もあり、後ろ髪を引かれる思いではあったが、戦場を他の皆に任せると大急ぎで王都へと取って引き返した。
どうにか王都へと辿り着くと、城の上空には魔法で作り出した投影の魔法が浮かんでおり、王やアイナ様のいる広間の光景が映し出されていた。
そして、立ち向かう兵たちを蹴散らす魔族の姿も。
そして――ユキナがアイナ様の危機に間一髪で駆けつける場面も。
まさか、天井を破って広間に突入するなんて誰が考えるだろうか。
──君はまた〝中心〟にいるのか。
襲撃の報告を受ける前。ミカゲさんが去り際に言った言葉が頭の中に過る。
――ユキナ様が王都の中に残られたのは、臆病風に吹かれたからではありません。あの方自身が、その必要があると判断したからです。
ユキナは魔族の襲撃を予想していたのか。
胸の奥底で嫉妬心がジクリと疼いた。
暗い感情を振り払うように、僕らは王城へと急いだ。今はそんな小さな事よりも、王や姫様の方が気がかりだ。
広間の扉が魔族の仕掛けた〝結界〟によって封鎖されたことは、映像を通してマユリが察知していた。僕らもユキナが貫通させた天井の穴を利用して広間に入ろうと考えたが、それに待ったを掛けたのはレイヴァだった。
『聖剣の白焔なら、あの程度の結界など熱したナイフでバターを斬るが如しです』
さも当然とばかりに宣言するレイヴァ。
確かに、結界さえ破ることが出来るのならば、わざわざ上の階を目指すよりも直接広間に向かった方が早い。
レイヴァの事は伏せつつも、白焔で結界が破れることを皆に伝え、僕らは広間へと向かった。
いくらユキナであっても、魔族を相手にするのは無茶が過ぎる。急いで加勢しなければと必至になって城の中を駆け抜けた。
そして、大急ぎで広間の前まで辿り着くと突然、広間の大扉が内側から吹き飛ばされたのだ。
何事かと慌てて中へ飛び込んでみれば、目の前に広がる光景に唖然とさせられた。
真っ二つにされた巨大な竜。
床を深々と穿つ一直線の溝。
その先には〝黒い光〟を纏い、漆黒と朱の混じった槍を振り下ろしたユキナ。
『まさか……あの若者が『魔刃』を目覚めさせたというのですか! この短期間で!?』
レイヴァが発したのは今までに無い驚愕の声だ。その言葉の意味を理解は出来なくとも、驚愕という点は僕も同じだった。
王城に入ってからは、広間の様子を確認することはできなかった。広間の中を映し出していた投影の魔法は城の上空に浮かんでいたから当然だ。
だから、確認できなかった間に何があったのか。分かるはずもない。
けど、確実にユキナが〝何か〟をしたのは明らかだった。
先ほど振り払ったはずの嫉妬が、またもやジクリと疼き出す。そんな場合ではないと理性では分かっているはずなのに、胸の中は悔しさが溢れんばかりだった。
ユキナはその後、力尽きたかのように倒れて意識を失った。
僕は胸中の苛立ちをぶつけるように魔族へと剣を振るった。ユキナとの戦いで既に満身創痍だったのか、魔族は僕に対して悪態を付き、ユキナを一瞥してから姿を消した。あらかじめ、『転移』の魔法を準備していたのだ。
こうして、魔族が企てた王都襲撃および王族の殺害の目論見はあわやと言うところで防がれたのだった。
――この事件を切っ掛けに、僕は改めてユキナへの憧れと嫉妬を自覚した。
戦勝会の後に、僕はそれらを包み隠さずユキナへと告げた。
僕がこれまでずっと抱いていた感情。王都へと連れてきた理由。そして、なおもユキナに結果を見せ付けられた僕自身の滑稽さ。とにかく、胸中に抱いていた全てをユキナにぶつけたのだ。
僕の嫉妬の吐露を受けたユキナは言った。
僕の行動には僕の〝意思〟がないと。
勇者になったのも勇者であれと他者に望まれたからだと。
否定を口にしたくても、喉から声が出ることはなかった。
喋っている最中のユキナは、まるで苛立ちを含んでいるかのように険しかった。
そして彼は言ったのだ。
僕が人形であると。
人の願いのままに動く糸繰り人形だと。
その言葉を聞いた瞬間、僕はかつて抱いたことのないほどの強い怒りを覚えた。気がつけば僕はユキナの名を叫び、彼に掴みかかっていた。感情が躰を動かしたことなど今までなかった。もしかしたら生まれて初めてかもしれない。
もし、彼の言い分が的外れであるのならば鼻で笑って、あるいは苦笑いしながら受け流せば良い。
なのに僕が発したのは怒りだ。
それが、これでは彼の言葉を心のどこかで認めているかのようではないか。
まるで正論を説かれて癇癪を起こす子供じゃないか。
だから、たまらなく悔しかった。
僕に胸ぐらを捕まれ、ユキナも最初は驚いた。けれども、すぐにまるで意に介さないように話を続けた。
誰かに失望される事を恐れている僕は、誰かの失望を恐れないユキナには追いつけない。
要約すればこんなところだ。
そしてやはり僕は否定できない。出てくるのはただただ怒りだけ。
その怒りを発するたびに、自分がひどく惨めに思えて仕方がなかった。
だからせめて、彼の行動の矛盾を指摘した。
誰かのために戦おうとする僕を責める彼だって、魔族が襲撃した時はアイナ様のために戦った。
その行動が僕とどう違うのだと。
彼は僕の胸元を掴み返すと、予想もしなかった答えを返してきた。
──アイナはもう俺の一部だ。
アイナ様だけではない。キュネイさんもミカゲさんも、ユキナは己の一部だと言ったのだ。
言っていることはメチャクチャ。なのに、至近距離から睨み付けてくる彼の目がその言葉に嘘偽りはないのだと物語っていた。
──結局、僕とユキナとの差に関して彼は一つも答えを出してくれなかった。
改めて考えてみれば、追い越したい相手に追い越すための答えを求めている時点で色々とおかしいのだから、それも当然のことだった。
それから僕らは国の各地を巡ることになり忙しい日々を送ることになる。
その間にも、あの夜の会話がずっと頭の中で去来する。
あの夜にぶつけられた言葉の中で、一番強く印象に残っているものがある。
――〝勇者になること〟と〝勇者に選ばれること〟は全くの別だ。
あれからもずっと考え続けているのに、未だに僕はその違いを理解できていなかった。
あの夜に交わした会話の内容は、レイヴァには話していない。彼女も何かを察しているかもしれないが、少なくとも僕から話すつもりはなかった。だから、あの二つの言葉の違いも聞くことができていなかった。
そんなある日。僕らの下に王都からの使者が来訪した。
どうやら、僕らに任せたい特別な任務があるというのだ。
内容は、王都近郊にある村の近場にある洞窟の調査だった。襲撃事件の際の重要な場所ということで一度は傭兵組合の指揮の下で調査が行われたようなのだが、その後日にあらたな事実が判明したのだという。
早速僕らは取りかかっていた厄獣の討伐に一区切りを付けると、現場に赴いたのだった。
──この任務の切っ掛けを作ったのがユキナだと知るのはもう少し後のこと。事実を知った僕は、盛大に顔をしかめたのであった。
どうもこんにちわ、ナカノムラです。
皆さんお待ちかね、某通販サイトに書影が公開されたので、いよいよこちらでも発表でございます。
いでよ、表紙!
ヒロイン二人の背後にユキナがいる配置でございます。
まぁ、野郎なんて(主人公だけれども)背後で良いんですよ。
可愛くて綺麗な(おっぱいおおきい)女の子がいれば最強なんですよええ。
それと、表紙に出ていなくても、ちゃんと銀狐なあの人も中にイラスト掲載されてますからご安心ください。
見たければ書店で予約しましょう(通販サイトでポチるのもあり)。
そんなわけで、
『勇者伝説の裏側で俺は英雄伝説を作ります 〜王道殺しの英雄譚〜』
十月三十日発売予定です。
以上、ナカノムラでした!