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第九十九話 超絶なのですが


 俺がグラムに心の中でツッコミを入れていると、アイナが叫んだ。


「準備できました!。ミカゲさん、離れて下さい!」


 アイナの声に応じ、ミカゲが大脚蜥蜴レックリザードの群れから離脱。機敏な動きに厄獣たちは目標を失い首を巡らせる。俺も邪魔にならないようにアイナの前から退いた。


 前方にあるのは厄獣の群れのみ。杖が強い光を放ち、それを携えたアイナが魔法を解き放った。


氷結の嵐アイスストーム!」


 巻き起こったのは冷気を宿した嵐。局所的に発生した極寒の暴風が大脚蜥蜴レックリザードを余さず飲み込んだ。


 超低温に晒された大脚蜥蜴レックリザードたちの表皮が凍り付くがそれだけではない。風には氷の礫が多数含まれており、厄獣を打ち据えていく。


「今です、畳みかけて下さい!」


 極寒の冷気が収まる頃を見計らいアイナが再び叫んだ。大脚蜥蜴レックリザードは魔法を浴びせられた影響か動きが鈍っていた。


 最初に迷わずミカゲが飛び出し、大脚蜥蜴レックリザードの首筋を切り裂いていく。厄獣の動きが鈍くなったため狙いやすくなったのだろう。


「ユキナさんも行って下さい!」

「え、大丈夫なのか?」

大脚蜥蜴レックリザードを含んだ爬虫類型の厄獣は、野生の蜥蜴のように寒さに弱いんです。しばらくの間は冷気の影響でほとんど動けません!」

『アイナの言うとおりだ! 今なら大脚蜥蜴レックリザードが飛んでくることもねぇ! それに万が一に二人アイナとキュネイが危なくなったら俺が知らせる!』


 アイナの言葉とグラムの念話チャンネルに後押しされ、俺は頷くとミカゲと共に厄獣の群れへと突っ込んでいった。


「ユキナ様!」

「一気に終わらせるぞ!」

「御意!」


 それから俺たちはほとんど傷を負うこともなく、この場に現れた大脚蜥蜴レックリザードを全て倒したのであった。



 ――戦闘が終わった後に、グラムが手放しに褒め言葉をアイナに向けた。


『未熟な魔法使いってのは何かと火力を重視したがるが、その点で言えばアイナの判断は見事だ。多少広いとはいえ相棒たちがいたのは限られた空間。下手に破壊力のある魔法を使うと崩落の危険性があった。アイナはその可能性もしっかり考慮し、最小限の威力で最大限の効果を得られる氷属性の魔法を使った。いやはや、あの若さで大したもんだよ』


 こいつがここまで言うってなると、相当なもんだろう。


『元王女としてのカリスマ。戦闘中でも冷静に状況を分析できる頭脳と導き出した答えを可能とする魔法使いとしての技量。こりゃ今の時点でも総合的な能力は二級傭兵相当の実力はあるぜ』


 俺よりも上じゃん。いきなり追い抜かれてるじゃんよ。


『あくまでも〝相当〟だからな。実際の傭兵としちゃまだまだだろうが、少なくとも順当に行けば確実に二級傭兵にまではいけるな。ま、惚れた女にカッコ悪いところを見せたくなかったら、頑張って階級を上げるこった。男の甲斐性ってのを見せろよ、相棒』


 言われなくともそのつもりだ。


 討ち取った大脚蜥蜴レックリザードの死骸から状態の良さそうな部位を剥ぎ取っていく。不意の遭遇だったとはいえ、死体をそのまま放置していくのは傭兵の矜持に反する。奪った命はなるべく次に活用するのが鉄則だ。


 とはいえ、持ち運べる量には限度がある。残った死骸は最後に一纏めにしアイナの魔法で焼いて灰にした。


 その後、俺たちは予定通りに来た道を引き返した。


 召喚の魔法陣のある場所に、意図的に隠されていた通路。そこから伸びる人工の通路。無視できない要素がてんこ盛りだが、下手に欲を出すのは傭兵にとって厳禁だ。装備が整っていない現状では退却するより他なかった。


 念の為、魔法陣のあった空間まで戻ると、アイナの魔法で通路の入り口を塞いでおいた。通路は狭いとはいえ、大脚蜥蜴レックリザードほどの大きさであれば難なく通ることができる。繋がった先からそうした新たな厄獣がこちら側に侵入するのを防ぐためだ。


 色々と後処理をして洞窟を出る頃には、既に日が傾き始めていた。


 村へ戻ると俺たちはまず村長に事の次第を報告。ゴブリンが再び大挙で襲ってくる心配は無くなったが、代わりに別の懸念が生まれてしまったことを伝えた。


 洞窟の奥に作られた通路に関して村長に尋ねるも、彼は全く知らない様子であった。その日のうちに村の皆に話を聞いて回ったが、その限りであの通路のことを知る者はいなかった。


 そして夕食時。


 俺たち四人は改めて今後のことを話し合うこととなったのだが。


「……それで、ユキナ君。結局のところはどうするの」


 キュネイに問われて、俺は頭の中で言葉を選びながら話した。


「最初はちょっと勢いで色々と調べようとか思ってたけど、ぶっちゃけこれは俺たちの領分を超えてると思ってしまうわけなんですよ」


 思わず語尾が丁寧語になってしまう位には面倒だ。


 ゴブリンの出現を切っ掛けとした洞窟の再調査は、放置しておけば大きな被害を生み出しかねない事態を回避するためだ。


 けれども、そこで発見した横穴とそこから繋がっている別の洞窟。この調査は俺の領分を確実に超えている。


「下手すりゃ魔族の襲撃事件に関するどでかい山にぶつかる可能性もある。その辺りを考慮すりゃぁ、たかが四級の俺が出張るのはおかしいだろ」


 それこそ三級や二級に任せるべき仕事だ。俺の出る幕ではない。


「で、本音を言うと?」

「超絶面倒くさい」

「あらら、率直なご意見で」


 忌憚のない答えで返した俺に、キュネイは困ったちゃんでも見るように苦笑した。でも本当に面倒なのだから仕方がない。


「でも、ユキナ様の仰るとおりですね。少なくとも現時点では我々の手に余るのも事実。本格的に調査を行うにしてもこの村で揃えられる物資には限度があります。どのような形になるにせよ、一度王都の組合に報告するべきでしょう」

「もし正式に依頼として発行されたら報酬も出ますし」 


 ミカゲの冷静な意見の後に、アイナが中々に強かな言葉を付け足した。見た目も中身も清純派だけど、頭がお花畑ってわけでもない。損得勘定がしっかり出来てる辺りが素晴らしい。


「とはいえ、事が魔族絡みです。もしかすれば組合ではなく国の方が調査を行うかもしれませんね」

「それはそれで別に良いさ。俺たちのような奴よりも、調査の専門家が出てきた方がより確実だろうしな」


 何にせよ、俺たちの出番はひとまずここまでだ。


 村の復興作業も期日も間近だ。あと数日もしない内に撤収作業を行い、王都に引き上げる予定だ。


 

 ――こうして最後にちょっとした出来事イベントは発生したが、俺たちは無事に王都へと帰還したのであった。



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