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第九十七話 偉大なようですが


 魔法陣が完全に壊れていることを確認できた時点で、当面の目的は達成できた。合間に色々と話がでて、今まで聞けなかった話も出てきた。ただ、現時点ではここまでだろうな。


「……俺たちがここであーだこーだと話したところで、あんまり意味はねぇか」


 既存の事実を確認しただけだ。ここで俺が明晰な頭脳でも持ち合わせていれば、アイナの言う他の内通していた貴族とやらの見当も付くだろうが、そんなことは無い。


 そもそも、俺が考えつくような事など、アイナやあの食えない王様だって簡単に導き出しているだろう。


 難しい話は国のお偉方に任せて、俺たちは俺たちで真面目に働こう。


 見たところ、照らし出された空間の中には、これと言って注目を集めるようなものは無い。そもそも、ここは以前にも傭兵たちが調べているはずなのだ。何かあれば組合を通じてアイナにも伝わっている。


 まずは、ゴブリンの襲撃の恐れが無くなったことを村長に伝えるべきだろう。取り越し苦労に終わりそうで良かった。


 皆に戻ろうと口を開こうとしたところで、ふとミカゲの耳がピクリと動いたのが見えた。ミカゲ自身も、何やら思案するような顔つきになる。


「…………ミカゲ?」

「ユキナ様、少し妙です」


 ミカゲは神経を研ぎ澄ませるように両目をつむる。張り詰めた空気が彼女から伝わってきて、俺も他の二人も思わず呼吸が小さくなった。


「………………やはりそうです」

「何がどうしたの?」


 キュネイが心配そうに声を掛けると、ミカゲが改めて空間の内部を見渡した。


「我々が入ってきた場所からここに至るまで、僅かばかりですが空気の流れがあります」

「え? でもこの洞窟は他に出口がないはずじゃ……」


 アイナが驚いた風に口に手を当てるが、俺とキュネイはよく分からずに首を傾げてしまう。


 俺たちの様子に気が付いたミカゲがハッとなる。


「申し訳ありません、お二人とも。通常、出口が一つしか無い空間というのは空気の流れが少なくなり、風が起こらないのです」


 つまりはどういうことだ?


『洞窟を一本の細い管だと考えりゃぁいいのさ。管の片方が塞がれてちゃ空気を送り込めないだろ? それと同じ理屈さ。風が流れてるってことは、管の両端がふさがれてねぇ。つまり、相棒たちが入ってきた場所以外にも外に通じる穴があるってことさ』


 あ、なるほど。グラムの説明が凄くわかりやすかった。


 そんな説明が無くとも、キュネイはミカゲの話にすぐに納得したようだ。


「私たちはよく分からないけど、ミカゲは風を感じたのよね?」

「はい。獣人である私が僅かに感じ取れる程度の微細なものですが、間違いありません。絶え間なく風の流れを感じ取れます」


 だとしたら少し妙だ。


 一応、村人からはこの洞窟のことを聞いてはいたが、入り口は俺たちが入ってきた場所だけのはず。他に出口らしい出口は無いはずだ。


「最初は天井に穴でも開いているのかと思ったのですが、見た限りは無いようですし」


 その辺りはどうなんですかグラムさん。


『魔法や生き物の気配ならまだしも、俺も人間の五感を備えてるわけじゃねぇからな……。ただ、天井にでっかい穴がある様子はなさそうだ』


 それなりに広い空間とは言っても、天井はさほど高くない。光に照らされる範囲で目をこらしてみても、穴が開いているようには見えなかった。


「ユキナさん、どうしますか?」

「……面倒ではあるがちょっと調べていくか」

「ですね。私も賛成です」


 俺の言葉にアイナが頷いた。


『とはいえ、人間が通れるサイズの穴かどうかは分からんがね』


 グラムの言うとおり、もしかしたら小型の動物がようやく通れる程度の小さな穴かもしれない。それはそれで一向に構わない。


 俺はこう見えても結構心配性なのだ。面倒に発展する可能性があるのなら、早めに潰しておきたい。余計にややこしい事になるくらいなら手間は惜しまない派なのだ。


 それから俺たちは分かれてこの場所を調べることにした。


 ――やがて。


「……ユキナ君、ちょっと良いかしら?」


〝それ〟を最初に気が付いたのはキュネイだった。


 呼ばれて来てみれば、彼女は岩壁のとある場所を顎に手を当てながら眺めていた。


「どうしたよ。なんか見つけたのか?」

「見つけたというかなんというか……この壁、妙じゃないかしら。一見すると普通の壁だけど、他の場所に比べて少し模様が違う気がするの」


 そう言われてみれば、と俺は岩壁を注意深く観察する。周囲の壁と見比べると岩肌と些か異なって見える。


 アイナの魔法で照らされているおかげで分かる程度の小さな違和感。松明程度の明かりでは分からなかっただろう。「……間違いありません、空気の流れはここに集まっています」


 側まで来ていたミカゲが確信したように頷いた。


 俺はグラムを背中の鞘から引き抜くと、石突きで岩壁とその周囲を叩いた。俺の感覚ではいまいち判別は付かなかったが――。


『ビンゴだ相棒。キュネイの指摘した場所だけ、他に比べて厚みが違うぜ』


 アイナは壁に手を触れた。


「…………巧妙に隠してはいますが、これは地の魔法で作られた壁ですね。壁そのものは付近の地形から流用している自然のものですから、こうして触れてみないことには魔法使いであっても気が付きにくい」


 お墨付きが二つも出たということは、間違いないだろう。


「ちょっと下がっててくれ」


 俺は三人を下がらせると、黒槍を構えた。


「せーのっ――ふんっ!!」


 重量増加エンチャントを合わせた刺突を壁に打ち込む。穂先が、そこを基点にして壁に亀裂が周囲へと走った。穿った穴に今度は蹴りを叩き込むと、亀裂は大きく広がり、ついに壁が崩壊する。


 俺は目を丸くした。


「マジか。本当にあったよ」


 崩壊した壁の先には、奥へ続く通路が伸びていた。先はかなり深く、俺たちのいる場所から差し込む光では見通せないほど続いている。


「風の流れが強くなりました。この先が外へと繋がっているはずです」


 ミカゲは暗闇の奥をじっと見据える。


 アイナは通路の壁に手を触れると、神妙な顔付きになった。


「……やはり、これは自然に出来た通路ではありませんね。ユキナさんが崩した壁と同じで、魔法で掘った穴です」

「誰かが意図的に塞いでいた壁に、人工的に作られていた道か……もう厄介な予感しかしねぇ」


 面倒事の芽を潰すつもりが、新しい面倒が生じてしまった瞬間に俺は辟易した。


「で、どうするの?」

「調べるしかねぇだろこうなったら」

「そうよねぇ。さすがに放ってはおけないわよね」


 ゲンナリとする俺に、キュネイは同情するように微笑みかけてきた。その笑顔にちょっと癒やされます。ついでにその豊かなお胸に飛び込みたい。


「それはまた今度ね♪」


 妖艶な顔になるキュネイ。下がったモチベーションが少しだけ向上した。おっぱいは偉大である。大きいだけに。


『上手いことは言えてねぇからな。ただのスケベ根性でしかねぇからな』


 とはいえ『おい、無視かよ』これは元々の目的とは少し離れている。


「ミカゲ、どうしたら良いと思う?」


 この中で傭兵としての経験が一番長いのはミカゲだ。彼女の意見を聞くのは当然だった。


「……少しだけ中を調べておきましょう。ただ、この通路がどのくらい深いか現状では不明です。本格的な探索は一度村へ撤退してから考えるべきです」

「分かった。撤退の判断はお前に任せるからな頼むぜ」

「承知しました。お二人もよろしいですか?」


 キュネイとアイナも首を縦に振った。


いつもながら、小説を書くのって難しいと思う。

あれだね、画力がないからって文章に傾倒したら、文章は文章で大変だと実感するよね。


『勇者伝説の裏側で俺は英雄伝説を作ります 〜王道殺しの英雄譚〜』

 十月三十日に発売予定です。

 書き下ろしもあるからみんな楽しみに待っててね。

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