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第九十三話 復興作業は順調ですが


 傭兵達が村に到着し、復興作業に加わってから数日後。


 復興作業は当初の想定よりも速いペースで進みつつあった。


 最大の要因はやはり、アイナの指揮能力だ。


 村の年長者や作業場の責任者達がなんとなくで管理していた進捗だったが、アイナが指揮監督を引き継いでからというもの、驚くべき速度で建物の建て直しが進んでいったのだ。


 瓦礫を撤去していくルート。家を建て直す順番。作業工程の組み替え等々。各自が好き勝手行っていた作業を理路整然と管理し、全ての作業が一体化したかのような進み具合である。


「俺の彼女が優秀すぎる件について」


 昼頃の小休止に、切り株の上に腰を下ろして肉を挟んだパンを囓る。傍らにはグラムを立てかけてある。


『そりゃ元王族だからな。そこらの一般庶民じゃ到底得られないような英才教育を受けてたんだろうさ。ま、だとしてもアイナは相当に優秀な部類に入るだろうよ』


 基本的にお調子者のグラムではあるが、人に対する評価はかなり辛めだ。こいつがそう評するのならば、やはりアイナは凄いのだろう。


『あと、なにげにキュネイの存在がでかい』

「それは確かにあるかもしれない」


 別におっぱいの話では無い。いや、ある意味では違わないかもしれないけど。


 キュネイの担当は、作業で怪我を負った者や、ゴブリンの襲撃の際に大けがを負った村人の治療。それはそれで非常に大事な役割だが、直接は復興作業に関わっていない。


 しかし、キュネイの治療行為を受けた者たちが異様に張り切り出すのだ。別にキュネイが特別になにかをしているわけでは無い。


 ただ、彼女が治療の際に労いの言葉と共に笑顔を向ける。それだけで男たちのモチベーションが上がる。そしてやる気が振り切りすぎて怪我をする。そしてまたキュネイに治療を受けるという繰り返しになっているのだ。


『もうね。あの白衣の上からでもハッキリ分かるほど豊かなもんを持った女医さんが癒やしてくれるってんなら、男はそりゃぁもう馬車馬のように働くよ』

「ちょっと前の自分を見てる気分だわ」


 キュネイと結ばれるまで、俺は娼婦キュネイを買うために必死になって金を稼いでいた。安全第一ではあったが、その中で一心不乱に働いていたな。


「アイナが人を使うプロなら、キュネイは人をやる気にさせるプロって感じか?」

『お、上手いこと言うね相棒。まさにその通りだ。本人達に言ったら微妙な顔をされるかもしれないけどな』


 そこをいくと、ミカゲはいわば〝プロの傭兵〟か。


 俺からの〝指示〟を受け取ってからというもの、ミカゲは連日嬉々として村の周囲を見回っている。そして驚いたことに、見回り中に遭遇した獣を狩っては村に持ち帰ってくるのだ。


 さすがは二級傭兵。討伐関連の依頼を多くこなしてきただけはあり、仕留めた獣の処理は見事だ。狩ってきた獣を村人や傭兵達の前で瞬く間に解体し捌いていた。


「昨日の牡丹鍋(猪肉の鍋)は上手かったなぁ」


 ちなみに、俺がいま食っているパンの肉も、ミカゲが昨日仕留めて捌いた猪の肉だ。


 この村にいる間の食料は、王都から運んできた物資でまかなえるが、ほとんどが保存食。栄養だけを考えられて味は全く考慮されていない。


 それが、ミカゲのおかげで新鮮な肉を食えるのだからありがたい。作業者達の体力ややる気モチベーションみなぎるというものだ。


「……あれ? もしかして俺が一番役に立ってない?」

『それは自分を過小評価しすぎだって。目立っては無いかもしれねぇが、縁の下の力持ち的に相棒も凄く貢献してるから。自分のやってる作業を改めて思い返してみろ』


 そりゃお前、体力任せに伐採した木を運んでたら伐採が追いつかなくなってきて、仕方が無く伐採作業にも参加してある程度切ったらそのまま纏めて加工現場に運んで――って。


『単純に他の二倍の作業量を二倍の速度でやってるからな』

「言われてびっくりだわ。爺さんの作ってくれた鉈のおかげもあるけど」


 伐採作業に使っているのは竜角の大鉈だ。人間の胴体以上の太さのある木の幹をバッサバッサと切断できるわけよ。作業が捗る捗る。


『爺さんもまさか、自信作の初披露が伐採作業になるとは思っても無かっただろうよ』

「道具ってのは使ってなんぼだろ」

『ちげぇねぇや』


 ケラケラと愉快そうに笑うグラム。

 



 ――グラムは言葉にせず内心に思う。


相棒ユキナは自分が〝人を奮い立たせるプロ〟ってのには気が付いてねぇんだろうな)


 魔族襲撃の一件で、ユキナが単なる〝臆病な槍使い〟というイメージは払拭されつつあった。けれども、それは王都で実際に投影の映像を目にした者たちばかり。その時に王都の外部で戦っていた傭兵達の多くは〝ユキナの活躍そのこと〟に半信半疑であった。


 今回の復興作業に参加したのもそうした傭兵がほとんどだ。それに加えて、たかが四級の傭兵では到底手の届かないような美女達を近くに侍らせていればひんしゅく・・・・・を買うのは目に見えて明らかだった。


 ところが、村に辿り着けば村人達は誰もがユキナたちを歓迎していた。とても臆病者が受けるような扱いでは無い。


 その上、実際に作業が始まれば、傭兵や村人達とは比べものにならない速度で仕事を進めていく。


 これが、傭兵達に火をつけたのだ。


 ――あの槍使いに負けてなるものか、と。


 村人達も、自分たちを助けてくれた英雄が自分たちのために誰よりも多く働いているのだ。自分たちも負けじと奮い立つ。


 結果、全体の士気が向上して作業の速度がぐんぐんと上がっていったのである。


(相棒は無自覚の人誑しだよなぁ)

 言葉では無く、行動とその背中で人を惹き付けていく。ユキナの恐ろしいところは、完全に自覚無くしてそれを行っていることだ。


(いやはや、相棒の将来が今から楽しみで仕方がねぇや)


 クツクツと、グラムは笑みを零した。



 グラムがなんか笑っている。


「おい、笑い声がキモいぞ」

『いきなり酷くね!?』


 そんなわけで、俺たちは各々の持ち場で存分に力を発揮して復興作業に勤しんでいった。



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