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第八十九話 お手伝いをするそうですが


 滞りなくアイナの傭兵登録も完了し、俺もいよいよ傭兵稼業を再開することにした。


 色々と貯蓄は増えたが、傭兵としての実績作りはまだまだ。当面の目標である三級傭兵への昇格にはもっと仕事をこなさなければならない。


 こんな俺に付いてきてくれる女が三人もいる。嬉しく思う反面にそれに伴う責任も大きくなる。決して、彼女たちを後悔させないように精進しなければ。


 そんなわけで早速お仕事を選ぼうとした俺だったが、アイナの登録を行った際に、一つ目に付いた依頼があった。


 俺はそれを目にした瞬間に受けることに決めた。


 ――その依頼の受注処理が終わってから数日後。


「悪いなアイナ。初依頼がこんなので」

「いえいえ。むしろ『こんな』と自身でおっしゃられながらも、率先して引き受けるユキナさんを尊敬します」 

「そこまで褒められる事じゃねぇと思うけどなぁ」


 俺たちがいるのは、ゴトゴトと揺れる馬車の荷台。今向かっているのは、王都近郊にある村だ。


 そう、魔族襲撃の直前にゴブリンの大群に襲われたあの村だ。


 ゴブリンたちに襲われた際、村の人的被害は俺たちが駆けつけたおかげか最小限に留まるも、建物や物資に関しての被害は凄まじかった。軒並みの民家が破壊され、食料も大半が失われてしまった。


 王国もこの被害を黙って見過ごしているわけでは無いが、魔族襲撃の直後と言うこともあり以前よりも王都の守備に人員を割いている。物資はあっても残念ながら人手が足りない状況だ。


 そこでお鉢が回ってきたのが、傭兵組合だ。


 今回俺が請け負った依頼は、厄獣によって破壊された村の復興作業――その手伝い。物資等は王国側が負担し、それらの運搬護衛と村の復興作業は傭兵が請け負うという内容だ。


 依頼の階級は五級。稼ぎも得られる実績も少ない。


 当初はアイナのことはミカゲに頼み、俺だけでこの依頼を引き受けるつもりでいた。だが、俺がこの依頼に決めた事をアイナに伝えると、彼女は即座に同道を決めた。


「これでも王族の末席に連なるもの。例え王位継承権を失ったとしても、庇護すべき民の苦境を見過ごすことなど出来ません!」


 とやる気十分だだった。


 そんなわけでアイナもこの依頼を受けたわけだが、


「ミカゲ、お前まで付いてくる事は無かったんだぜ?」

「いえ。ユキナ様の向かうところ、それこそ火の中水の中。例え地獄の果てまでお供しますとも」

「……気持ちは分からなく無いけど、なんか重いわね」


 馬車に一緒に乗り合わせているのはやはり、ミカゲとキュネイ。俺たちの他にも、何台かの馬車が物資や傭兵を乗せて街道を進んでいる。最も、ほとんどの傭兵が五級であり、四級以上を乗せているのはこの馬車だけだ。


 ミカゲに関してはいつもの調子で。キュネイの方は組合の協力者という名目で同行している。復興作業は力作業も多くあり、その時のために治療要員だ。


 国からの依頼と言うことで、最低限の人数を確保するためにある程度は組合側から指名されてこの依頼に参加している。主に経験が浅く稼ぎも少ないだろう五級傭兵が中心だ。後は、堅実に稼ぎたい傭兵がそれなりに。


 依頼中の寝食に関しては国が負担する事になっている。経費を考えないで済むとなると、実は結構な稼ぎになる仕事なのだ。


 アイナを初めとする見目麗しい女性三人の参加に、傭兵たちは大いに沸いた。そりゃぁもう、大興奮の嵐だ。何人かが、アプローチを仕掛けるが誰もがまるで相手にするはずも無い。その鬱憤や嫉妬はやはり俺に集まるわけだ。もっとも、見た限りでは昨日今日に剣を握り始めた素人ばかりだ。せいぜい、村一番の腕自慢がせいぜい。今の俺なら全員が一度に襲いかかられてもそう遅れはとらないだろう。


『相変わらず相棒は謙虚だねぇ。もうちょいと自分を評価してやっても良いと思うがね』


 コレばかりは性分なんだから仕方がねぇだろ。正確な分析はお前グラムに任せるさ。


 

 村へと到着し、入り口付近で馬車の荷台で運んでいた物資の下ろし作業を行っていると、一人の男性村人がこちらに駆け寄ってきた。


「遠目から見てもしかしたらと思いましたが、まさかあんたたちが来てくれたのか!」


 どうやら、俺たちの顔を覚えていた村人だったようだ。残念ながら俺の方は顔を覚えていなかったが、そのことを伝えても彼は全く気を悪くした様子は無かった。


「いいや、気にしないでくれ。こっちが一方的に覚えてたってだけの話だ。俺たちを救ってくれた『英雄様』の顔を忘れるなんてあり得ないだろう」


 そう言って、村人は俺の手を取り頭を下げた。


「あの時は礼を言いそびれた。あんたたちが来てくれなかったら、この村は本当に全滅していた。今こうしてしっかりと二本の足で立っていられるのもあんたらのおかげだ。本当にありがとう」


 涙を流しながら礼を口にする村人を前に、どう反応すれば良いか迷い頭を掻いてしまう。俺としては、請け負った仕事をきっちりこなしただけなのだから。


 村人の様子に、他の傭兵たちが何事かと目を向けてくる。嫉妬とはまた違った色の視線に、少しばかり居心地の悪さを感じてしまう。


 俺としては荷の下ろし作業に戻りたかったのだが、残念ながらこの騒ぎを皮切りに村人が何事かと集まる。そうすると俺の姿に気が付き次々と感謝の言葉を述べようと近づいてくる。あっという間に村人のほとんどが村の入り口に集まってしまい、大混雑が発生してしまった。


「さすがはユキナ様です!」

「感激してる場合じゃねぇだろ!? つか何に感激してるわけ!?」


 目をキラキラとさせているミカゲに反射的にツッコミを入れてしまう。そんな彼女の元にも感謝を述べようと村人が詰めかけてきた。


 そしてキュネイの元にも人が殺到する。ゴブリン襲撃の際、彼女の治療のおかげで一命を取り留めた者は多い。命の恩人に対する感謝の念は強いはずだ。


 しかもどちらも極上の美人とくる。男衆に関しての熱狂具合は半端なかった。そこに一部女性が混じっているのは――人の趣味はそれぞれと言うことか。


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