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第八十七話 実は凄かったようですが

2019/6/15にこの話を投稿していますが、それにあたり前話を加筆修正しました。

もしまだ加筆後の前話を読んでない方はまずそちらをどうぞ。


 邪竜の角でできた大鉈も俺に合わせて作られているからか、握り手の部分が非常に良く馴染む。適度な重量感がありつつも、刀身が剣よりも短いために振り回しやすい。


「よくもまぁこんな短期間で鉈も拵えられたな。感心を通り超えて呆れるよ、本当に」


 グラムの言葉に爺さんはうんうんと頷いた。


「そいつの加工は本当に骨が折れたわい。角だけにな」

「上手くねぇよ」

「魔法の火で炙り、錬金術で柔らかくし、その上で加工せんと道具の方が壊れちまうでな。しかも、一度手を止めるとその形で固まっちまうから夜通しぶっ続けで作業せにゃならん」


 俺のツッコミを爺さんがさらりと受け流した。


「出来上がったのはお前さんが来る一時間ほどまえじゃよ。工房で、手伝ってくれた魔法使いと錬金術師がいびきかいとるよ」

「知り合いを酷使しすぎじゃね?」

「なぁに。古い馴染みで一緒に馬鹿騒ぎするような仲だ。奴らも結構ノリノリだったわい」


 ――この時の俺は全く知らなかったが、この時に工房でいびきをかいている爺さんの古い馴染みというのが、宮廷魔法師団に所属する最古参の凄腕魔法使いと、王城内の薬剤を管理する錬金術師の長老的存在だったらしい。後で聞いたときは開いた口が塞がらなかった。


 そんな大物の存在など露知らず防具と鉈の出来にご満悦な俺に、グラムが冷や水を掛けるような事を言い出した。


「防具一式だけでも、屋敷を建ててもおつりが来るくらいの値段になるだろ、これ」

「高っ!? ――――いや、高くね!?」


 まさか、今の俺は豪華なお家が建てられるお値段を着てるのか。これには仰天した。思わず二度言ってしまうほどに。


「当たり前だろ。竜種の素材ってのは装備の材料としちゃぁ上物ではあるが、同時に最高に扱いが難しいんだよ。並の腕や道具じゃ、加工もままならねぇ。邪竜の骨で作った大鉈に至っては、下手すりゃ貴族が家宝にするレベルの上物だ。防具一式よりも更に高ぇだろうな」


 俺の持ってきた額――というか全財産を使っても到底支払いきれないぞそれ。グラムの計算に驚いている俺に、爺さんは言う。


「グラムの言うとおりに、こいつを一から揃えようとしたらそのくらいにはなる。素材の方は持ち込みだとしても、手間賃だけで相当な値になるわな」

「………………お得意様割引とかあります?」


 ここまで来てお預けとか辛すぎるだろう。


「まぁそう慌てなさんな。ちょっとした条件を飲んでくれたら、防具も大鉈もタダで譲ってやるわい」


 俺は咄嗟に、自分の躯を抱くように腕を組んだ。


「悪い、俺には心に決めた女性ひとたちがいるんで」

「そういう冗談は無しだ」

「うっす」


 あっさりと流されてしまい、ちょっぴり悲しい。まぁそれはともかくとして。 


「その条件ってのはなんだ? あんまり無茶なもんだと困るぞ」


 総額にしてお屋敷二軒以上の代金をタダに出来るような条件とか、果たしてどんなものやら。


「内容自体は簡潔じゃ。王家からの使者が持ってきた邪竜の素材。防具と鉈に使ってもまだ余っててな。そいつを譲ってくれるなら、代金はタダにしてやるわい」

「そんなのでいいのか?」


 爺さんの出した条件は、前提は既に達成されているようなものだ。後は俺が首を縦に振るだけでいい。あまりにもあっさりした内容に拍子抜けだった。 


「一番質が良い素材は坊主の装備を作るのに使っちまったが、残った分でも厄獣の素材としてはかなりの上物だ。十分すぎるくらいに元では取れる」

「そっか。だったらそれで頼むわ」


 厄獣であろうが、邪竜も生物。その死体を腐らせて良い道理はない。きっちり処理できる人間の手元にあった方がいいに決まっている。


 こうして俺は無事に、新しい防具と予備の武器を手に入れられたのである。


 そこではたと気がつく。


「……あれ? ってことは王様から貰った装備の補填費って丸々俺の手元に入っちゃわね?」

「おそらく、相棒の意を酌んだ上での王様の粋な計らいだったんだろうよ」


 グラムが軽快に言う。


「相棒が貰った額は修理費にかなり上乗せがされてただろ? 邪竜の防具と鉈の制作費と残った邪竜の素材を差し引きして余った分だろうさ」


 グラムの推測を聞いた爺さんが頷いた。グラムの指摘はズバリ正しかったのだ。


「……何だか、あの王様の手の平で上手い具合に踊らされているような気がする」

「当たり前だ。相手は国の王様だぜ? ついこの前まで単なる村人だった相棒とは比べものにならないくらい濃い経験を積んでるんだ。ま、好意はありがたく受け取っておきな」


 釈然としないものを抱きつつも、グラムの言葉を受けて俺はそれらを飲み込んだ。何より、俺は損していないのだからな。


「ところで爺さん、さっきから実はずっと気になってたんだけどよ。なんで俺が邪竜を倒したことを知ってるわけ?」


 世間的には、邪竜を倒したのはレリクスと言うことになっているはず。なのに、爺さんは最初から俺が邪竜を倒したことを前提に話を進めている。そこが少し疑問だった。


「相棒が爺さんから受け取った短剣があったろ」


 不意に声を発したグラムに相づちを打つ。


「アイナが爺さんに頼んで俺にってやつだな」


 まさかあれが恋文の代わりだと誰が分かるよ。何でも、今は廃れてしまった貴族の古い慣習だったらしい。 


「あの剣に剣に彫り込まれてる模様は、送り主の身分や名を表すもんだ。で、アイナは王族だ。王族を表す紋様は王家から特別な許可を貰った特別な職人じゃなきゃ作れねぇ。もしそれ以外の人間が無許可で施したら、重罪で捕まっちまうんだよ」

「なるほど。つまり、爺さんは王家から許可を貰って――」


 ん? ってことは。


 思わず俺は爺さんを凝視してしまった。


「王家から許可を貰うって事は、王家からかなりの信用がなきゃ無理だ。おそらく、この爺さんは元は王城勤めの鍛冶師だったんだろうさ。しかも、かなりの腕利きとしてな」

「……もう昔の話じゃよ」


 グラムの推測を、爺さんはあっさりと肯定した。


 ほんの少しだけ懐かしむような顔をしてから、爺さんが改めて口を開いた。


「お前さんが邪竜を倒した話は、素材を持ってきた城からの使いから聞いとる。もちろん、世間に公表せぬように口止めはされとるがね」

「そうだったのか」


 腕の良い爺さんだとは前々から分かりきっていたことだが、どうやら俺の思っていたよりも遙かに腕利きだったようだ。


「一応、儂が王城に勤めてたって事は秘密にしといてくれ。殊更に強く隠しとるわけじゃないが、喧伝すると周囲が騒がしくなるでな」

「勿論だ。俺としても馴染みの店が騒がしくなるのは好ましくないからな」


 俺と爺さんはそう言って互いに笑った。王都に来てから、キュネイやミカゲを除けば、この爺さんが一番付き合いが深い。これからも変わらぬ付き合いを続けていきたいものだ。


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[気になる点] あの剣に剣に彫り込まれてる模様はってなってますよ
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