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第八十六話 装備を新調するのですが

2019/6/15にて、八十六話の内容を一部加筆修正しました。



 アイナをキュネイの診療所に迎えた三日後、俺は馴染みの武器屋に顔を出していた。


 店の中には相変わらず人の気配がない。いるのは髭を生やしたムキマッチョ爺だけだ。


「よく潰れねぇな、この店」

「余計なお世話だ」


 最後に立ち寄ってからまだそれほど経過しているわけではないのに、随分と久しぶりに感じられる。それほどまでに、色々と大変だったのだと改めて感じられた。


「で、今日は何のようだ?」

「ああ。この前の騒動でちょいと無茶をやらかしてさ。装備がボロッボロなんだわ」


 ここ数日の俺は、王都に初めて来たときと同じ村人の格好をしている。いつもなら傭兵家業で着ている装備をそのまま普段着にしているのだが、魔族との戦いで激しく損傷しており、防具としての役割が心許ない上に、あまり見た目がよろしくなかったからだ。


 袋に包んでいた持ってきた破損した装備と、柄と根元だけになってしまった大鉈(の残骸)をカウンターテーブルに広げる。


 最後に、貨幣が詰まった革袋を置いた。


「まずは壊れちまった装備の処分を頼む。それから、この予算内で一式揃えられる防具と、新しい大鉈をくれ」


 王様からは無事、損耗した装備品等の補填費が支払われたのだが、ざっくり考えていた額よりもかなりが付いていた。余計なお世話を、とは思わずにありがたく頂いておいた。


 元からの蓄えと合わせると、装備に掛けられる予算はかなり潤沢だ。これを機に、装備を修理することよりも一気に新調することにしたのだ。


「ちょっと待ってな」


 爺さんは革袋の貨幣に見向きもせず、店の奥へと引っ込んでいった。心なしか、その後ろ姿か見える足取りが軽く感じられた。


「なんかいいことでもあったのかね?」

「さぁな」


 それから少しして、爺さんは大きな箱を抱えて戻ってきた。破損した装備やらを一旦カウンターの端にどけると、空いた場所に箱の中身を並べた。


 取り出されたのは、俺が言ったような防具一式だ。造りこそ俺がこれまで身に付けていたものに似ているが、細部が異なっていた。使われている素材も全く違うものが使われているの。


 多少なりとも傭兵の経験を積み、他の傭兵の装備も見てきたから分かる。これは俺が前に身に付けていた防具よりも格段に質が上であると。


「ほれ、お望みの品だ」

「……なんか準備よくね?」


 まるで、俺の注文をあらかじめ分かっていたかのような準備の良さだ。それに、爺さんはどこかしら自慢げと言うか誇らしげな表情で腕を組んでいた。


「ははぁん、なるほどねぇ。あの王様も中々に愉快なことしてくれるじゃねぇか」


 クツクツと笑うグラムに、俺は首をかしげた。


「何でそこで王様が出てくるのさ」

「こいつらには相棒が真っ二つにした邪竜がふんだんに使われてるのさ。そうだろ爺さん」


 爺さんはにやりと笑った。どうやらグラムの言っていることは正しかったようだ。


 言われてみて改めて観察すると、カウンターに並べられている防具の各部には見覚えのある素材が使われている事に気が付いた。


 そういえば、俺が両断した邪竜がどうなったか、全然知らなかった。


「ちょっと前に王家から使いが来てな、置いていったんじゃ。お前さんがこの店で装備を揃えるのはわかっとったんじゃろ。こいつでお前さん用の防具を仕立ててやってくれとな」


 この爺さんってアイナと個人的な知り合いだっけか。それはもしかしたら実家つながりだったのかもしれない。今度アイナに聞いてみるか。


「ちょっと前って……具体的にどのくらい前?」

「一週間前かの」

「……良くもまぁそんな短期間で作れたな。邪竜の素材なんぞ素材の仕込みだけでも一週間は掛かるだろ」


 グラムが呆れやら関心やらを伝えると、爺さんが高らかに笑った。


「その辺りは知り合いの魔法使いや錬金術師を引っ張ってきて、ごり押ししたわい。あ、ごり押しとは言うたが出来には自信があるから心配するな!」


 よくよく見ると、爺さんの目元には濃い隈が浮かんでいた。もしかしたらこの一週間、あまり寝ていないのかもしれない。


「いやぁ、久々に腕の振るい甲斐のある仕事でついつい熱が入ってしまってな。じゃが、それだけにここしばらくで一番の仕上がりという自負はある。それは制作に付き合ってくれた奴らも言っとったわ」


 よほどの出来だったのだろう、顔には明らかには疲れがにじんでいたがそれ以上の満足感が浮かんでいた。


「ほれ、早速着てみてくれ」


 爺さんに促され、俺は早速邪竜素材の防具を装備した。


「重量と着心地は前の奴とさほど変わらんが、頑丈さは前とは比べものにならんほど上がっとる。あと、耐火性や耐寒性も高い。おそらく、二級の傭兵だってここまでの装備を持ってる奴はそういないじゃろうて」


 爺さんに言われたとおり、着ている感覚はこれまでの装備とさほど変わらない。けれども何倍もの安心感がある。


 真新しい装備に心浮き足立っている俺に、爺さんはにやりと笑ってみせた。


「まだまだ満足しきるのは早いぞ」


 そう言ってカウンターの下から取り出したのは、俺のもう一つの注文品である鞘に収まった大鉈だ


「竜種の厄獣からとれる素材の中で最も頑強な『角』で作った大鉈じゃ。ちっと乱暴にしたくらいじゃびくともせんぞ」


 余計な装飾はなく、肉厚で頑丈という俺の要望には応えつつも、こちらもと比べて明らかに違うのが一目で分かる。試しに鞘から抜いてみると、ギラリと光を反射する肉厚の刀身が姿を現した。



活動報告にも記載しましたが、ナカノムラはC96夏コミに参加いたします!


サークル名は『ナカノ村の里』。

日曜日の『西地区C06a』に配置されました。

ジャンルはオリジナルの現代ラブコメ。

新刊は『ky男子とお嬢様』の続編です。

既刊として前回の『ky男子』を頒布予定。


続報は活動報告やツイッターアカウントで記載していく予定ですのでどうぞよろしく。

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