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第八十四話 王と改めて話すのですが

新章開幕です


 戦勝パーティー、そして勇者レリクスと胸の内を語り合った翌日、俺は改めて王に呼び出されていた。


 キュネイとミカゲは診療所に戻り、アイナは今後のこともあり何かと忙しいようだった。


 よって、王に会うのは俺一人だった。なんと話し合いの場は王の私室ときた。


「よくぞ来てくれた」

「…………うっす」


 謁見の間の時に比べて王の態度はかなり気さくだ。だがそれでも相手が相手だけに緊張するなと言うほうがむりだ。


「はっはっは。そう固くなるな――というのは無理な話であろうが、ずっと肩肘張っていては疲れてしまうだろう。ここにいるのは国王では無く恋人の父親と思ってくれて構わんよ」


 だからそれが緊張の大本なんだって!


 俺と王様以外にこの場にいるのは数人の護衛のみ。最小限の数ながら、一目見るだけで歴戦の猛者だと分かった。


 そんな感じで始まった話の本題だ。


 実は、王は俺への報酬が『アイナ』だけでは不十分と考えていたのだ。


 確かにアイナは王の大事な娘ではあるが、事は王国存亡の危機だったのだ。国一つと娘一つでは釣り合いがとれない。王としてそれでは示しが付かないと。


 俺の功績の真相を世間に明かすわけではないし示す相手もいないような気もしたが、国を治める王として後腐れ無くケジメを付けておきたいらしい。


 ここまで言われて拒絶すれば、王の顔に泥を塗ることになる。アイナの父親に恥をかかせるわけにはいかない。


 そこで俺は二点の願いを伝えた。


 一つは、ミカゲのことだ。


 魔族襲来の際、あの時点でミカゲは王都に押し寄せてくる厄獣の迎撃を傭兵として請け負っていた。強制の仕事ではあったが、傭兵である以上、一度請け負った仕事にはどんな形であれ完遂する義務がある。


 それを放棄し、彼女は俺の元に駆けつけてくれた。それは非常に嬉しい限りであり心強かったが、傭兵としては契約違反。あの場に勇者がいて、ミカゲが抜けたとしても戦力的には申し分なかっただろうが、戦場を離れた時点で依頼の放棄だ。


 だから王家からの口利きでミカゲの契約違反を無かったことに、あるいは情状酌量の余地があると組合に伝えるよう計らってほしかった。


 一応、傭兵組合は政治とは切り離された組織だが、かといって完全に無関係は貫けない。支部を置いている土地の領主からの言葉を無視することは出来ない。


 少し後の話になるが結果として、ミカゲの行動は『勇者の行動を先回りしてその露払いをした』という形になり、それを落としどころとして彼女への処罰は無くなった。


 そしてもう一つは、魔族との戦いで消耗した諸々の消耗品や装備品。特に、購入したばかりの大鉈が壊れてしまったのが痛い。使用期間は短かったが、お気に入りだったのだ。王家にその補填費の肩代わりをお願いした。


「――こんなところですかね」


 頭に浮かんでいた望みを伝え終わると、王は意外そうな顔をしていた。


「良かろう。その程度のことなら造作も無いことだ。しかし、存外に控えめだな」

「これはいわばおまけみたいなもんですからね」


 俺が出した望みはいわば、魔族襲撃に際しての必要経費を請求したようなものだ。求める分としてはこのくらいが妥当だろう。


「欲深いと思えば今度は謙虚だな、そなたは」

「謙虚な奴は、お姫様を欲したりはしないと思いますが」

「はっはっは、確かにその通りだ」


 王は愉快げに笑った。


 ところで、少し腑に落ちない点があった。


「あの、ちょっと質問良いですか?」

「うん? 何が聞きたい?」

「王様から見れば、ポッと出の平民が大事な娘をかっ攫っていったって形じゃないっすか。しかも、俺にはもう恋人が二人いる」


 王には恋人が他にもいることを伝えてはいたが、案外すんなりと話を聞き入れてもらえた。罵倒の一つや二つは覚悟していたのに驚くほどあっさりとしたものだ。


本人アイナの同意があるとはいえ、そんな奴に大事な娘を任せるってのはどうなんですかね?」

「……まさか、娘を幸せにする自信がないと?」

「いや、それこそまさか。全力で幸せにしますよ、俺は」


 俺に付いてきたことを後悔させないように、アイナも――そしてキュネイもミカゲも、全身全霊で幸せにする所存である。


「ならば何の心配もない。そなたは恋人が他にも何人かいることを心配しているようだが、それに関しては私も人のことは言えんよ」


 貴族は血筋が何よりも重視される。よって、一族の血を絶やさぬよう、跡継ぎを作らなければならない。その為に、王妃以外にも子を産む存在――側室が必要になってくる。もし仮に正妻との間に出来た子が一人であり、その子に万が一のことがあれば一族の血が途絶えてしまうからだ。


 聞こえは非常に悪いが、側室との子はいわば跡取りの予備なのである。


 当然、貴族の総締めである国王もやはり側室を持っているのだが。


「幸いなことに、正妃や側室、その子供たちの仲は良好だ。王位継承権に関しても大部分のものが納得してくれている。そなたのところもそうなのだろう」

「あー、まぁそうですけど」


 キュネイは「ウェルカムおいでませ!」なスタンスだし、ミカゲは「ユキナ様が望むなら」と相変わらずの従順スタイル。


 でもって、アイナも王様と同じでキュネイやミカゲのことをすんなりと受け入れていた。


「あの子も王族の一員だったのだ。その辺りに関してはむしろ平民よりも寛大だろう」


 マジか。あれやれこれやと悩んでいた俺って、もしかして杞憂が過ぎたのか?


「親としては、そなたが決して軽い気持ちでないと分かって満足だ。単にアイナを恋人の一人としてではなく、アイナ個人をちゃんと想っているのだと伝わってきた」


 王様はまっすぐと俺の目を見ていった。


「王としては一個人をこれ以上の贔屓をすることは出来んが、それでも親としてはいつまでもあの子の事を思っている。アイナのことを、よろしく頼む」

「……はい、必ずアイナを幸せにします」


 親が子を思う強い気持ちが俺にも伝わってきた。覚悟に近い心境を抱くと俺は頷いた。


「それと、孫が出来たら名付け親は私に任せて欲しい」

「そいつぁちょいと気が早すぎやしませんかね!?」


 この王様、実は結構ノリがいい人なのか?


この手の話って、長引かせるのは好きではないので一話にまとめました。



先日より第七回ネット小説大賞受賞作品への『応援期間』が開始されました。


もしよろしければ、当作品への応援メッセージを頂けたらと思います。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf3dbCxhKP6eg_d4KC6gSJdy5FngGUhe0dc4KsViElYHICWaQ/viewform


それと、今年の夏コミに参加することとなりました。

詳しい情報は活動報告と次回のあとがきにて記載する予定です。


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