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第七十九話 望みを口にしたのですが


 魔族による王都襲撃から一週間が経過した。


 俺は今、玉座の間で跪いていた。広間の内部は、壁にはまだ傷が残っていたりするが床や扉に関してはすでに修復が終わっていた。両隣には同じ格好のキュネイとミカゲ。そして正面で玉座の間に座っているのはこの国の王と、その隣には娘であるアイナが立っている。


 他には上等な衣装を着た貴族さまやら高級そうな鎧をまっとった兵士がいる。


「場違い感が半端ねぇ……」

『気持ちは分からねぇでもないが我慢しろや』


 小声でぼそりと呟くと、グラムがぴしゃりと叱ってきた。お前はこういうとき、空気を和ませる小粋な冗句ジョークでも飛ばす役割だろう。


『俺だって時と場合は選ぶわ。それに、相棒はここに呼ばれるに見合う働きをしたんだ。胸を張りな』


 俺がこの場にいる理由は、他でもない一週間前の襲撃での働きを認められたからだ。


 とは言っても、俺はあの事件の結末をこの目で見てはいない。


 なにせ、魔族が召喚した邪竜を『覚醒したグラムバルムンク』で両断した後、いろいろなものが限界を軽く突破し、意識が吹っ飛んでしまったからだ。


 ただ、タイミングを見計らったかのようにその直後に、王都の外で戦っていたレリクスたち勇者パーティーが到着。竜を真っ二つにした余波で破壊された扉から広間に飛び込んできたのだ。


 厄獣を継続的に召喚していた魔法陣も破壊されていたこともあり、勇者パーティーの登場のおかげで広間に残っていた厄獣は時間をおかずに殲滅。魔族にも手傷を負わせたようだが、残念なことに今一歩のところで取り逃がしてしまったらしい。


 とはいえ、王都の外と内部への同時襲撃。加えて国家の中枢を担う重鎮の暗殺。これだけの騒動が起こりながらも人的被害が極めて少ないのだから、魔族一人を取り逃がした程度を惜しむのは贅沢な話だろう。


 俺が目覚めたのは、事件から三日後。王城内の客間の天井が目覚めて最初に目にした光景だ。コボルトキングのときほど重症ではなかったが、心身ともに限界にまで消耗していたらしい。


 ちなみにだが、魔族は広間の様子を投影の魔法で王城の外に中継していたのだが、その映像はちょうど俺が魔族の剣を破壊した時点で途切れていたらしい。グラムが言うには、あのときの衝撃で魔法の制御が乱れ、投影の魔法を維持できなくなったとか。なので、俺が竜を真っ二つにした光景は国民には伝わっていない。


 よって、俺の活躍は『勇者が到着するまでの時間稼ぎ』という形で国民の間に広まっているらしい。詳細はどうあれ、事実だけを抜き取ればそれほど間違ってはいないか。


 ミカゲは俺の扱いの不当さに憤慨していたが、俺はこれまで敢えて何も言わなかった。


 それでも、俺が行った事実はあの場にいた者たちにとっては知るところ。こうして王様から直々に呼び出される程度には認められたわけだ。


おもてを上げよ」


 王から許可がおり、俺たちは顔を上げた。


 事件の最中は余裕はなかったし、途中で俺は気絶してしまった。こうして正面から間近で王の顔を見るのは生まれて初めてだ。というか、平民ながらにここまでの距離で王の顔を見られるやつというのはそういないような気がする。


 ふと、隣に立つアイナと目があった。事件後は何かとバタバタしており、こうして顔を合わせるのは事件の時以来だ。


 アイナはお姫様のようなドレスを──というかお姫様だ──纏い、元からの美しさにさらに磨きがかかったような姿をしている。彼女は柔らかい笑みをこちらに向けており、俺はおもわず照れて視線を外しそうになっている。


『はいはい、とりあえず王様の方を向こうな。気持ちは分からんでもないが』


 おっと、そうだった。横を向きそうだった視線をどうにか王に向け直す。


「此度のそなたたちの働き、誠に大儀であった。そなたたちがいなければ、この国は甚大な被害を受けていただろう。この身もこの場にいる娘も無事ではいられなかったはずだ。礼を言おう」


 どういたしまして、でも言っておくか?


『身にあまる光栄です、にしときな。その方が無難だ』


 さよか。


「みにあまるこうえいです」

『限りなく棒読みだなぁ……』


 仕方がねぇだろ。こんな畏まった場に来るのなんて初めてなんだから。


「……だが、残念ながらそなたらの働きの全てを国民たちに伝えることはできん」


 ピクリと、ミカゲの耳が揺れたが俺は軽く手で制した。


「あの魔族は、あれ自身が言っていた通りに魔王の尖兵。それを勇者が見事に撃退したとなれば、近い将来に復活する魔王との戦いに国民は希望を抱く。すまんが、これが政治というものなのだ」


 そんなことだろうとは予想していた。あの場には兵以外にも俺が──というかミカゲが連れてきた傭兵も多くいたのだ。人の口に戸は立てられないとはいうが、だとしても話の伝わり方が少しおかしいと思っていたのだ。


「だが、この身に受けた恩を忘れるほど私も恥知らずなつもりではない。事実は公表できんとしても、相応の礼はしよう。希望を申せ。可能な限りではあるが、私が責任を持って聞き入れよう」


 王様の口から『責任を持って』なんて発言を聞けるやつは、この国で果たして何人いるのだろうか。平民のみであれば一生に一度──あるいは何度生まれ変わっても巡り会えるかどうかの好機だ。


 おそらく、金も名誉も相当なものを要求できるはずだ。それこそ一生食うのに困らない額の金やさらなる栄光をつかめる地位を得ることだってできるだろう。


 だが──。


「キュネイ、ミカゲ」

「ええ、わかってるわ」

「あなた様の望みのままに」


 二人は深く聞かずに頷いた。俺が何を願うつもりなのか、もう分かっているのだ。俺は彼女たちに感謝の念を抱きつつ、王に向かっていった。


「……国王陛下。地位も金も名誉もいりません。俺が望むものはたった一つです」

「ほぅ……それは何か?」


 王が興味津々といった表情になる。その顔が、次の瞬間にどんな色になるか全く予想がつかない。下手すると褒美どころの話ではなくなるかもしれない。


 それでも俺は口にした。



「あなたの娘──アイナ様。俺はそれを望みます」



勇者の活躍が端折られる悲しい回でもあります。

でも、この物語の主役がユキナなので仕方がありません。頑張れ勇者。

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