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第七十四話 戦闘開始のようですが


『うははははっ! まさに間一髪ってところだ! ちょっとタイミングが良すぎねぇかと思わなくもねぇけどな!!』


 うるせぇわ! こちとら高いところから飛び降りた直後でちょっとドキドキしてんだ! お前ほど笑ってはいられねぇよ!


『その割には速攻であの魔族をぶん殴ってたな』


 当たり前だろ。


 あいつはお嬢さんに──アイナに剣を振り下ろそうとしてたんだ。一発この手で打ち込んでやらねぇと気が済まなかった。 


『しかしさすがは相棒。いつも俺の予想斜め上を行くよな。扉も窓も破れねぇなら天井をぶっ壊すとか、呆れて開いた口が塞がらねぇよ。塞ぐ口無いけどな』


 いつものつまらない冗談をどうも。


 ──話を少しだけ遡る。


 この広間に続く扉は何かしらの効果で固く閉ざされていた。それこそ大勢の兵が群がって力を込めてもビクともしないほどだ。グラム曰く、扉だけではなく窓にも『結界』──おそらく中にいる魔族の手によるもの──が張り巡らされており、広間から内外への侵入を防いでいるというのだ。


 ──というわけで、結界が張られていない天井部分をぶっ壊して新しい侵入口を作ったわけだ。


『「というわけで」ってレベルで済ませていい話じゃねぇと思いますけどね!』


 ちなみに、広間の天井部──つまり上階の床部の厚さはかなりのものだった。重量増加エンチャントを使ったグラムの石突を何度か叩き込んで床を破ることができたが、後で修理費とか請求されないかが不安だ。


 ともあれ、それはこの状況を乗り切ってからだ。


 少し遅れてキュネイを抱えたミカゲが軽やかに天井の穴から降り立った。


 ここまでくる途中に、俺はお嬢さんに関する全てを二人に話した。王都に初めて訪れた時の出会いから二度目の邂逅。その間に芽生えた俺の嘘偽り無い気持ちを余さずに伝えた。


 その上で二人に頼んだのだ。


 ──お嬢さんを助けるために力を貸してくれと。


 二人は快く引き受けてくれた。彼女たちに責められる覚悟すらあったのに、二人はそんなそぶりを微塵も見せずに俺を助けれくれると言ったのだ。


 彼女たちもグラムと同じで気がついていたのだ。自分たちの他にも、俺が想いを寄せている人物がいることを。隠せていると思っていたのは俺だけで、周囲にはバレバレだったらしい。


 その上で、俺に力を貸してくれるのだ。本当に、感謝してもしきれない。


「キュネイ、ミカゲ。お嬢さんを──アイナを頼む」


 二人に指示を出した俺は、こちらに怒気を向けてくる魔族に槍を構えて向き合う。


「俺はあの野郎をぶっ潰す」


 魔族の頬は大きく腫れていた。拳を叩き込んだおかげで少しだけ溜飲は下がったが、全体の一割にも満たない。俺の中には未だに強い怒りが滾っていた。


「惚れた女に手ぇだされたんだ。このぐらいで済むと思うなよ! どタマかち割って奥歯ガタガタ言わせてやらぁ!」

『相棒! それどちらかってぇと悪役のセリフ!』


 こんな時に律儀にツッコミ入れんな!と普段なら言い返しているところだが、その前に魔族が動いた。


 魔族が手を掲げそれを振り下ろすと、周囲で兵たちを相手にしていた厄獣が一斉にこちらへと向かってきた。やはり、あの魔族が操っているのだろう。


 ぱっと見でも十以上の厄獣が襲いかかってくる。


 だが──。


「邪魔ッッだぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 重量増加エンチャントで質量を大幅に増した黒槍を振るい、飛びかかってきた厄獣を残らず吹き飛ばした。


「──ッ!?」

「うるぁぁぁぁぁっっ!!」


 たったの一振りでけしかけた厄獣が全て弾き飛ばされ、魔族はまたもや驚愕したように目を見開く。


 俺はそこへすかさず距離を詰め、槍を叩き込んだ。


 ガギンッ!!


 あわよくばこのまま一気に攻めおとそうと考えていたが、そうは問屋が卸さなかった。


 十以上の厄獣をまとめて吹き飛ばした一撃をそのままぶつけたはずなのに、魔族は手に持っていた剣を構え正面から受け止めたのだ。魔族の足が地面に擦れたまま少しばかり後退したが、それがせいぜいだった。


「貴様……何者だ!?」

「通りすがりの村人その一だよ!」

「どうやら素直に答える気はないようだな!」


 いや、八割がたは真実──のはずだ。


『自分でもちょっとばっかし怪しくなってきたんだなさすがに』


 うるせぇな、シリアスな場面に茶々を入れてくるな!


『あいよ。それはともかく、合図したら一旦引きな。さすがに力任せじゃ無理だ』


 俺と魔族は互いを押し込もうと踏ん張る。こちらは槍なので厳密には違うが、剣同士の戦いではいわゆる『鍔迫り合い』という形だ。


『三……二……一……今!!』


 脳裏に響く叫びに従い、俺は槍を引き魔族から距離を取る。すると魔族も全くの同タイミングで剣を引き半身をズラす。そのまま流れるような動作で切り返してきたが、俺を捉えるはずだった切っ先が空を切った。


「ぬっ!?」

「どらぁぁっっ!!」


 そこへ俺はもう一度槍を叩き込む。今度こそ貰ったと思いきや、魔族は寸前で大きく飛び退き槍の間合いの外へと逃れた。


『畳み掛けろ!』

「応さ!」


 俺は更に踏み込み、魔族の躰を貫かんと槍を突き出す。しかし、槍の穂先が魔族に届くよりも早く、奴は俺に向けて手の平を向ける。


「舐めるなよ人間!!」


 魔族の手から風の刃が放たれ、俺の躰を切り裂きながら吹き飛ばした。そのまま俺は地面に叩きつけられる。


「くそッ、痛ってぇな……」


 叩きつけと身体中に生じた切り傷の痛みに顔が歪む。パッと見ただけでも、傷からは少なくない量の血が流れ出ていた。


『ぼさっとしてんじゃねぇ!』


 今度はこちらの番だと言わんばかりに、魔族が突っ込んでくる。こちらの態勢が整っていない間に一気に距離を詰めてくる。


『前をぶっ叩け!!』

重量増加エンチャント!!」


 俺は黒槍の質量を一瞬だけ大きく上昇させると、魔族の前方に位置する地面を思いっきり叩く。重量を増した黒槍による一撃は床を粉砕しその破片を巻き上げた。


「小賢しい真似をっ」


 宙を舞う床の破片に勢いを削がれ、魔族は後ろへ下がった。


 俺はその間に自分に治療ヒーリングを施しながら、急いで立ち上がる。完全ではなく痛みも十分すぎるくらいに残っているが、大きな出血は無くなった。できればキュネイにしっかり回復魔法を掛けて欲しいところだが、その隙を魔族が与えてくれるとは思えなかった。


広間にたどり着くまでのやり取りを書くと長ったらしくなるので、疾走感を優先してざっくりテイストにしました。

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