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side princess4(中編2)

この話を投稿するにあたり、前話のタイトルを少し変えました


 王都の外部と内部に注意を向けさせ、その間に国の中枢である王城を攻める。なるほど、単純ではあるがだからこそ何よりも効果的な手だ。


 ただ、褒める気には一切なれない。


 この推測が正しいとすれば、状況は決して良いとは言えなかった。


 父の言った通り、今回の事件は一朝一夕で準備を終えるようなものでは無い。事前に準備を行い、全ての仕込みを終えてから行動を起こしたはずだ。


 だとするなら、王城に攻め込むための手も既に──。


 そこで私は、父の目がひときわ鋭くなる瞬間を目の当たりにした。刈り取るべき獲物を定めたとばかりにある一点を視線が射抜く。


 ハッとなって私は父の視線を追った。


 この場に集まった重鎮。誰もが緊張した顔をしている中で、 

その内に妙に落ち着きなさげに周囲を見渡している貴族がいた。王の目が向けられているのにも気付かぬほどに視線が彷徨っている。


「……父上」

「ああ。わかっている」


 父は周囲に控えていた身辺警護の兵を軽い身振りで手招きすると、囁くように指示を下す。内容は聞き取れなかったが、あの貴族を確保するように告げたのだろう。


 もしかしたら勘違いに過ぎないかもしれない。何も問題なければ、逆に今後あの貴族からの不信を買う結果になる可能性もあるが、もはやそれらのリスクを恐れていられる場合では無い。


 おそらくは、事態は一刻も猶予を許されない段階にまで達している。先のリスクを恐れるよりも前に、この瞬間の危機を未然に防ぐことが最優先。時には『何もないという保証』を得るためにリスクを負う覚悟が必要になるのだ。


 兵たちは無言、けれども音もなく意図を伝える術はある。言葉なく手振りで連携を取り合い、誰にも気付かれぬよう不審な貴族を確保しようと動き出す。


 しかし、そこで早く新たな伝令が飛び込んできた。


「失礼します! 至急、部隊長から報告せよとの事で急ぎまいりました!」


 よほど急いできたのか、これまで来た伝令たちの中でも一番に肩で息をしていた。それほどまでに重要な報告なのだろうか。


 ──直感的に『まずい』と頭が警告を発するも、止める間も無く彼が叫ぶように言い放つ。


「王都の内部で『魔族』らしき姿を確認との情報が入りました! また、死体となって発見された魔族も二件確認されています!!」


 魔族──その言葉を聞いた途端、広間に集まった誰もが息を飲んだ。


 かつて魔王が封印された時、その眷属たる魔族も当代の勇者やその仲間によって打ち倒された。けれども全てを滅ぼす事は叶わず、生き残った者たちは世界の表舞台から消え去った。


 それが今、再び姿を現したのだ。


 彼は己の職務に忠実であろうとした。それそのものは褒められた事だ。責められる点は一切ない。


 唯一、彼の責任を問うとするならば『間の悪さ』だ。


 緊張が重鎮たちの間で高まる中、一際大きく驚いたのはやはりあの不審な貴族だった。顔が蒼白になり、目がこれでもかというほどに大きく開かれた。


 同時にそれが、彼を捕縛するために動いていた兵士の動きに気付かせる切っ掛けになってしまった。


 それからは、まるで時間の流れが遅くなったかのようにあっという間の出来事だった。


 貴族は己の懐に手を差し込むと、何かを取り出した。青い宝石のようだが、私にはそれが魔法が込められた『魔石』であると一目で分かった。


 私は咄嗟に魔法を放とうと手を彼に向けた。けれども、その周囲にも他の重鎮きぞくがいる。下手に魔法を撃てば巻き添えになってしまう。放つ直前で躊躇してしまった。


 付近にまで迫っていた兵士たちは、急ぎ彼の動きを止めようと動いていたが間に合わない。


 貴族は腕を振り上げると手にしていた魔石を勢いよく地面に叩きつけた。


 魔石が砕け散るのと同時に、地面に魔法陣が出現する。輝きを放つと、中心部にいたその貴族を除いた周囲にいた者を無差別に吹き飛ばす。


火焔弾フレイムボルト!!」


 今度こそ私は紅蓮の火球を放つ。幸いと言っていいかは不明だが、魔法陣出現の衝撃で付近の者が吹き飛ばされたおかげで被害を考えないで済む。何かが起こる前に魔法陣を破壊できれば──。


 けれども、やはり先ほどの躊躇が致命的だった。


 私の放った火球は、魔法陣に命中する寸前で阻まれた。


 魔法陣より現れた存在が展開した魔力の障壁によって。


「随分と手荒い歓迎だな」


 一見すれば『人』の形をしてはいたが、それは決して『人間』ではなかった。青い肌に口の端から飛び出す細く鋭い牙。


 何より頭部から生える捩れた角。


 伝え聞く『魔族』の特徴とすべからく一致していた。


 魔族は私と周囲を一瞥してから、背後にいる貴族に目を向けた。


「おい、どういうつもりだ。段取りとは随分と状況が違うぞ」

「し、仕方がないだろう! 王都内の魔法陣がことごとく破壊されている以上、こうするより他なかったのだから!」


 魔族と貴族の会話で、危惧が証明されてしまった。


 この王都の中に黒幕との内通者が存在していた。それも中枢により近い部分に潜んでいたのだ。


 そしてその黒幕が『魔族』であると最も望ましくない形で発覚してしまったのだ。


「……まぁいい。城内の守備を外に向けられたと考えれば悪くない状況か」


 溜息を吐いた魔族はやれやれと首を横に振ると、気を取り直したように父を見据えた。


「お初にお目にかかる、この国の王よ。私の名はニルス。誉れ高き魔王様に仕える者。以後、お見知りおきを」


 状況さえ違っていれば見事とさえ称せる礼節を持った態度だ。とはいえ素直に褒めるには口上があまりにも不穏すぎた。


「これはご丁寧にどうも。できればそのまま帰っていただきたいのだがな」


 父は軽い言葉で返したが、私はその声の裏側に強い緊張が含まれているのを感じ取った。


「いえ、そういうわけにもいきません。これから、魔王様の復活を祝う楽しいショーが開催されるのですから。最後までお付き合いいただきたい」


 そう言って魔族が手を挙げる。


めろ!!」


 王が鋭く言い放つと、いつの間にか魔族を包囲していた兵達が一斉に動き出した。重鎮達が魔族の出現に呆然としている中で、兵達はすぐに行動を起こしていたのだ。緊急時においても迷わず動けるのは常日頃から訓練を重ねてきた賜物だろう。


 しかし、兵達の持つ剣が届く前に、魔族の指が小気味の良い音を広間に響かせた。


 彼が現れた魔法陣が光り輝くと、数多の厄獣が出現した。それらは統率された動きで兵士達の前に踊り出し、魔族に届くはずだった剣は全て阻まれてしまった。


 魔法陣で呼び出されたうち一つ。鳥型の厄獣は一度魔族の肩に止まる。魔族がその羽根を撫でると、鳥型の厄獣は再び飛翔し誰かに襲う風でもなく広間の天井近く留まった。


「あの厄獣は私が調教を施した特別な個体だ。あれが見た視界を別の場所に映し出す特殊な魔法を使うことができる」


 自慢げに魔族は語ると、残虐な笑みを浮かべた。


「これからこの場所で繰り広げられる『悲劇』は王都に余すところなく伝えられるでしょう。王とその娘が無残にも殺されるさまに国は深く嘆き哀しむ。それを魔王様復活の祝宴とさせていただく」


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